新しい抗がん剤や手術の効果は? がん治療医100名が選ぶ「今後1~3年の肺がん治療を変える注目トピックス」Club CaNoWオンラインセミナー
- 作成:2022/11/16
がん患者さんとご家族のための会員制コミュニティ「Club CaNoW」(https://clubcanow.com/)は、特定のがん種をテーマにしたセミナーを3回にわたって開催しています。2022年9月14日(水)に行われた第2弾では「肺がん」を取り上げました。講師は腫瘍内科医で「患者さんのための肺がんガイドブック」作成委員長の澤祥幸先生。進行役は肺がんサバイバーで、三重肺がん患者の会代表の大西幸次さんです。
この記事の目安時間は6分です
進歩し続ける、肺がんの薬物療法
セミナーに際してあらかじめ肺がん治療医100名へ「今後1~3年の肺がん治療を大きく変える可能性のあるトピックス」を回答してもらうアンケート調査を実施。回答数が多かったのは、「テセントリクにおける術後補助療法への適応追加」「ニボルマブにおける術前治療への適応追加」「TIGITやLAG3抗体の適応追加」「KRAS阻害薬による治療の普及」「区域切除の適応拡大」の5つでした。この結果を踏まえて、澤先生が肺がん治療の新しい動きについて解説を行いました。
免疫チェックポイント阻害薬の現状
澤先生は、免疫チェックポイント阻害薬と、従来型の殺細胞性の抗がん剤や分子標的薬との違いを、こう説明します。
「従来の薬は、直接がん細胞に攻撃を仕掛けて薬ががん細胞と戦いますが、免疫チェックポイント阻害薬は、人体の中にあるがんを攻撃するT細胞を活性化させて、がん細胞を攻撃させます。患者さん自身に本来備わっている免疫に作用してがんと戦わせる薬です」
近年は、薬の使い方も単剤ではなく、いくつかを組み合わせる方法が主流に。「抗がん剤と免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせた複合免疫化学療法が行われています」(澤先生)。
かつて薬物療法は手術ができない進行がんの患者さんに行われていましたが、現在は転移のない段階に、根治目的で「周術期(手術の前後)」に行われるようになってきているといいます。さらにEGRF変異が陽性か陰性かによって使う薬剤や投与法を変えるなど、より高い効果が期待できる方法で治療が進められています。
オリゴ転移の治療がガイドラインに
「転移がある状態は4期の進行がんですが、小さな転移が少数にとどまっている『オリゴ転移』の状態であれば、局所治療を追加することで生存期間を延長できるといった内容が、2021年版の日本肺癌学会の医師向けガイドラインで示されました」と澤先生。具体的な治療の流れについても詳しく説明しました。
第3の免疫チェックポイントとは
オプジーボやテセントリクなど既存の免疫チェックポイント阻害薬は、腫瘍細胞が免疫逃避という知恵を働かせ、効果が得られないことが課題とされてきました。この問題を解決する薬が開発され、現在、臨床試験が行われています。「全3段階の2相目の試験まではうまくいきましたが、3相試験ではうまくいっている薬といっていない薬があり、注意深く見守っていく必要があります」(澤先生)。
縮小手術で肺機能を温存
さらに、「手術」に関する新たな動きにも言及。術後の肺機能をできるかぎり温存するため、切除範囲を狭める縮小手術が検討され、日本で行われた臨床試験で「縮小手術を受けた人のほうが、従来の手術よりも長く生きられる」ことが明らかになったそうです。もともと小さいがんなら切除する範囲も小さくした方が長生きできるということです。合併症があって肺機能が落ちている人や、がんが小さい人にとって有益な情報と言えるでしょう。
患者さんやご家族の「知りたい」に答えるガイドブックを作成
講演の最後に、澤先生は日本肺癌学会が作成している「患者さんのための肺がんガイドブック」を紹介しました。澤先生ご自身が編集委員長を務められた本で、肺がん患者さんが治療や生活について疑問に感じる点を、正しくわかりやすく知ることができる内容になっています。「新しい治療の情報を盛り込んでいる」「通常の肺がんだけでなく、希少がんの悪性胸膜中皮腫や胸膜腫瘍の情報も含まれている」「患者さんの質問に答えるQ&A方式」「患者さんの意見も反映」「療養生活やお金、就労などの情報も充実」といった特徴があります。
なぜ患者さん向けのガイドラインが必要なのか、澤先生はこう話します。
「医療の現場では医師は患者さんを救いたいという思いを持っていても、患者さんやご家族が知りたいことと、医師が伝えようとすることには乖離がある。この乖離を埋めるためにガイドブックが作成されました。補完代替療法など、主治医に聞いてみたいけれど聞きづらい内容も収載されています」
免疫チェックポイント阻害薬に関する質問が集中
後半の「視聴者からの質問コーナー」では、薬に関する質問が数多く寄せられました。その一部をご紹介しましょう。
Q 第3の免疫チェックポイント阻害薬が使えるようになった場合は、PD-1抗体薬と同時
に使用するようになるのですか?
A 効果的な使い方は同時に使うことです。同時使用で保険申請をしています。
Q 化学療法に免疫チェックポイント阻害薬を使うと副作用も2倍になりますか? 副作用を抑える方法は?
A 2倍になるわけではありませんが、それぞれの薬の副作用が同時に出ることはあります。また、副作用対策としてそれぞれの病院が取り組んでいるのは、副作用を早く見つけて早めに抑えていくこと。医師だけでなく看護師や薬剤師も加わり、できるだけ安全に使えるよう、工夫を凝らしています。
Q 新しい治療法が増えることに希望を感じますが、どこの病院でも受けられるのでしょうか?
A がん診療連携拠点病院なら保険で認められた新薬は使えます。ただし研究開発中の薬が使える病院は限られます。
さらに患者さんご自身の治療に関する悩みについても、数多くの質問に丁寧にお答えいただきました。
がんと戦うには「正しい情報」が必要
セミナーの最後に澤先生は、肺がんの患者さんやご家族に向けてこう語りかけました。
「がんと戦うためには、情報が欠かせません。今日ご紹介した肺がんガイドブックや、国立がん研究センターが運営する『がん情報サービス』などを利用して、確実に自分のためになる、正しい情報を集めてください。一方、抗がん剤ができなくなったら治療がなくなるわけではありません。緩和ケアでつらい症状をやわらげることができれば、充実した時間を過ごすことも可能です。真っ向からがんと戦うだけでなく、さらりと流すのも戦い方の一つです」
今回のセミナー後に実施したアンケートでは、参加したClub CaNoW会員の88.7%が「セミナーに満足した」と回答しました。皆様からは「肺がんの治療の進歩を驚くほど感じました。澤先生の最後のメッセージ、深く心に染みました」「司会の方が途中で質問をしてくださったのでその場その場で理解しながらお聴きすることができました」などのコメントが寄せられました。
Club CaNoWでは、今後も月1回、専門家の先生をお呼びして、治療の助けになるような医療知識をどこよりもわかりやすくお届けする医療セミナーを開催予定です。加えて、月1回、治療生活を応援するための会員向けイベントも企画しています。
次回のイベントは2022年11月19日(土) 11:00~12:15を予定。
テーマは「【みんなで学ぼう】がん闘病中のコミュニケーション-職場編」です。コミュニケーションでQOLは上がると言われるほど、がん患者さんにとってコミュニケーションは重要です。がんになったからこそ、大切にしたい周りとのコミュニケーションを学ぶ会の第2回として「職場編」を開催いたします。
講師は、北里大学病院総合診療科・トータルサポートセンターで、日々患者さんの治療と就業の両立に向き合っておられる武藤剛先生。ClubCaNoW会員様と医師を対象に実施したアンケート結果をもとに、複数のテーマについてお話しいただきます。
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