予後や再発が心配……がん治療中の不安との「上手な付き合い方」を精神腫瘍医に聞く!「Club CaNoW」オンラインセミナー
- 作成:2022/09/13
がん患者さんとご家族のための会員制コミュニティ「Club CaNoW」(https://clubcanow.com/)は、毎月、がん医療に関するオンラインセミナーを開催しています。2022年8月17日(水)のセミナーは、「教えて先生!がん治療中の不安な気持ちとの上手な付き合い方」がテーマでした。がんと向き合う上で、誰でも少なからず不安を感じるもの。そこで今回は、不安な気持ちと上手に付き合うためのコツを、精神腫瘍医の保坂隆先生にお伺いしました。進行役は、乳がん経験者で、患者支援団体「メンタル・スパ」代表の大友明子さんです。セミナー後アンケートでは、参加したClub CaNoW会員の92.3%が「セミナーに満足した」と回答。当日の様子をレポートします。
この記事の目安時間は6分です
不安の背景に「がん=死」という思い込み
今回、講師を務める保坂隆先生は、がん患者さんとご家族の心のケアを専門にする精神科医です。サイコオンコロジー(精神腫瘍学)の普及を目指し、日々、クリニックで診療にあたっています。
がんの患者さんの不安はさまざまですが、保坂先生は「初発の患者さんと、再発した患者さんでは抱えている不安は異なる」と話します。初発でがんを告知されて混乱している患者さんの場合、不安の背景にあるのは「がん=死」という思い込みだといいます。しかし、この20年間で治療は格段に進歩して生存率は向上し、経過観察中にがん以外の病気やケガ、老衰で亡くなる人もいます。「がんも糖尿病や高血圧と同じ慢性疾患のひとつで、決して特別な病気ではありません」(保坂先生)
保坂先生は、患者さんと接する中で「何か悪いことをしたからがんになったのだろうか?」などと、がんの原因探しをする人がとても多いと感じるそうです。「がんは遺伝や環境などさまざまな要因が関係して発症するので、原因を考えても仕方がありません。それよりもがんになった意味を考えましょう。たとえば、過労気味だから少し休めということかもしれないし、家族間でもっと結束しなさいということかもしれない。病気が発する自分へのメッセージを見逃さないようにしてください」とアドバイスしました。
頭の中でネガティブな思考がグルグル回って抜け出せない人には、ものごとの捉え方を転換する「論理療法」のほか、「脳の特性に応じて対処する方法」が解決の糸口になることがあるとか。セミナーでは「脳は根暗な臓器で、過去に対しては後悔のネタを、未来に対しては不安の種を探し続ける」「脳は一つのことしか考えられないので、何かに夢中になっていればつらい堂々巡りから解放される」といった脳のユニークな特性を挙げました。
それを踏まえ、好きなことに没頭したり、マインドフルネスを試したりといった解決策を紹介されました。
前を向いて人生の方向性を考えよう
一方、ステージ4や終末期の患者さんには、「前を向いて、『生きる価値観』や『人生の方向性』を考えることが大切です」と保坂先生は語りかけました。また、自分なりの回復を目指し、毎日の生活を充実させていこうと考えている人を、「ステージ4をぶっ飛ばしている人」と表現。そうした人たちは共通点として、「人のために何かをしている」「夢や希望を持っている」「自分の直感を大切にしている」「治療法を自分で選んで決めている」などを挙げました。
がんになった人の多くは、再発の不安に苛まれます。保坂先生は、ある患者さんの「再発したらしたで、『その時の自分』に任せてみよう。そんなことは今から考えなくてもいい」という言葉を紹介しながら、「今は今の状態だけを見て、余計な心配をしないでほしい」とメッセージを送りました。
家族の精神的なケアも重要。ためらわず受診を
後半は、質疑応答のコーナーです。
まず進行役の大友さんが、「家族が、患者さんの精神科の受診を嫌がる時は、どうしたらいいですか?」と質問。保坂先生は「患者さんだけで来てほしい。がんに向き合いたくないという家族の思いも大事にしましょう」と回答しました。一方、家族は行かせたいけれど本人が同意しない場合は、「家族が受診してください。家族のほうが精神的に病んでいることも多いので、家族のケアは重要です」とアドバイスしました。
ほかにも、視聴者のみなさまから「精神科受診にかかる医療費は?」「がんは免疫力が落ちると再発するのでしょうか?」「不安な気持ちをすぐに解消する方法は?」などさまざまな質問が寄せられました。
そのうちの一つ、「精神腫瘍科にかかりたいが、主治医に紹介状を書いてもらうことをためらう」という相談に対し、保坂先生は「主治医は精神科の専門家ではないはずだから、メンタルなことを他の医師に相談したいと言われて嫌な気持ちはしない」と説明。大友さんも「私自身、主治医に保坂先生への紹介状をお願いしましたが、すぐに書いてもらえました」と経験を語りました。今はセカンドオピニオン、サードオピニオンが当たり前であり、精神腫瘍科への紹介を『遠慮』する必要はないそうです。
セミナーの最後に保坂先生は、こう語りかけました。
「今日は『不安』を中心にお話ししましたが、精神科で診療する“2大症状”は不安とうつです。不安の影にうつが隠れていれば、うつの治療をする必要があります。症状に早く気づくために、うつについても知っていただきたいと思います」
がんと向き合う中で、自分ではコントロールできないほど大きな気持ちの波を感じる時もあるかもしれません。そうした時は一人で抱え込まず、専門家に相談することを忘れずにしたいものです。
Club CaNoWでは、今後も月1回、専門家の先生をお呼びして、治療の助けになるような医療知識をどこよりもわかりやすくお届けする医療セミナーを開催予定です。加えて、月1回、治療生活を応援するための会員向けイベントも企画しています。
次回の医療セミナーは9月14日(水)19:00~20:15を予定。
肺がん治療医100名へ「今後1~3年の肺がん治療を大きく変える可能性のあるトピックス」を募ったアンケート結果を元に、『患者さんのための肺がんガイドブック』(日本肺癌学会発行)作成委員長の澤祥幸先生が解説します。特に、治療薬に関する最先端のトピックや、ガイドブックの読み解き方法について詳しくお話いただきます。
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