教えて先生! 賢い患者になるために知っておきたい正しい情報の見極め方~上級編~Club CaNoWオンライン医療セミナー
- 作成:2023/03/18
2月22日、Club CaNoWは「がん情報の正しい見極め方」をテーマにオンライン医療セミナーを開催しました。今回のセミナーは、1月に開催した初級編に続く「上級編」。前回同様、慶應義塾大学病院腫瘍センター副センター長の浜本康夫先生に、正しい知識を得るためのポイントを解説していただきました。進行役を務めるのは、乳がんサバイバーで「がんと働く応援団」共同代表理事の野北まどかさんです。
この記事の目安時間は6分です
「自分は何を目指しているのか」を明確に
セミナーは初級編のおさらいからスタート。浜本先生は、がんについて調べるときに「どこに?(部位)」「なにが?(病理、バイオマーカー)」「どれくらい?(ステージ、初発・再発)」の3つは最低限押さえておくべき、と話されました。
「この3つを明確にし、『自分は何を目指しているのか(目標)』を認識した上で調べないと、正しい情報ではなく自分にとって心地よい情報、自分好みの情報に流されてしまいます。途中で振り返るという作業も必要です」(浜本先生)
また、がんを治癒させることは大事ですが、今は治らない場合でも病気をコントロールすることが可能になりつつあります。浜本先生は「がんを治すにしてもコントロールするにしても、大前提はQOL(生活の質)を維持することです。楽しい生活を送ることが非常に重要になります」と語りかけました。
論文やガイドラインを読み込む際のポイントとは
続いて、「がん情報の確認法」として、エビデンスレベル、医学論文、さらに国内外の各種ガイドラインの3つを挙げ、それぞれ説明いただきました。
エビデンスのレベル
最も信憑性の高いエビデンスレベルに相当する「システマティックレビュー」から、最も低い「試験管内の研究結果」までをピラミットで図示。「システマティックレビューは、RCT(ランダム化比較試験)を複数集めて解析したものです。論文を調べる時は、信憑性の高いシステマティックレビューから順に調べるようにしましょう」とアドバイスいただきました。
医学論文
さらに、医学論文の原著(英文)を検索する際に役に立つツールとして「PubMed(パブメド)」を紹介。PubMedは生命科学や生物医学にかかわる文献を探すための検索エンジンで、アメリカの国立衛生研究所の国立医学図書館がデータベースを運用しています。信憑性が高い情報を無料で検索できるそうです。
浜本先生は、「糖質制限×がん」を事例に挙げて検索の流れを実演。具体的な操作方法や、原著の質を計測する指標(インパクトファクター)、読み解き方のポイントなどをわかりやすく説明いただきました。
「調べたい治療法などを英語で検索すると、関連する論文の数や、タイトルなどが表示されます。数が多ければいいとは限りません。最近は、電子版の医学雑誌が増え、論文全体が増えているからです」(浜本先生)
国内外の各種ガイドライン
海外のガイドラインで浜本先生が勧めるのは、アメリカではNCCN(米国国立)やASCO(米国臨床腫瘍学会)、ヨーロッパではESMO(欧州臨床腫瘍学会)が発行するものです。そのほとんどが、無料で閲覧できると言います。
「日本も『ガイドライン王国』と言われるほど、ガイドラインはたくさんあります。ただし、日本のものはインターネットに最新版が出ていないこともあり、本気で読み込もうとするなら、有料で購入したほうがいいでしょう」(浜本先生)
よけいな情報を見ないことも大事
さらに浜本先生は、未承認薬・適応外薬や、自由診療などの問題点にも言及しました。
「日本で治療を受ける場合はかなり保険でカバーされ、いい治療を受けられています。効果や副作用を明らかにするために、基本的には薬事承認や保険適用を目指すべきです。『未承認薬・適応外薬』は、重い副作用などが起こった時、医薬品副作用被害救済制度の対象にもなりません」
その上で、未承認薬・適応外薬を「推奨可能なもの」(医師主導治験や企業治験、先進医療Bなど)と、「推奨できないもの」(自由診療や海外での治療)に分けて説明しました。
また、保険診療と保険外診療を併用する「混合診療」についても解説されました。
「混合診療は原則として禁止されており、もしも実施した場合は保険診療も含めて全額自己負担となります。保険診療と保険外診療を別々の医療機関で受けた場合や、自由診療によって生じた副作用を保険診療で治療する場合も混合診療となり、原則として全額自己負担です」
がんのことを調べていると、代替医療や民間医療のことも目に入るものです。そうした療法について、浜本先生はこう見解を話されました。
「多くの人が魅力的に感じる気持ちは理解できます。私たちからすれば、体に害がなく、値段もそこそこで、楽しんでやれるのなら…と思います。しかし高額な費用がかかるとか、本人はやりたくないのにつらい思いをするのなら無理をしないほうがいいと思います」
浜本先生が「がん治療の極意」として挙げるのは、あまりよけいな情報を見ないこと。情報のノイズを入れないことが大切ということです。
「担当医が非常に重要な情報源になるので、いい関係を作っていくことが大事だと思います」
視聴者からの質問に浜本先生が回答!
後半の質問コーナーでは、視聴者の皆様からさまざまな質問が寄せられました。その一部を、浜本先生の回答とともに紹介します。
Q 代替医療について、主治医に相談できずにいます。標準治療以外の治療の相談をしたら、医師は不愉快に感じるものでしょうか?
浜本先生:不愉快に感じるかどうかは、担当の医師やタイミング(時間に余裕があるか否かなど)にもよります。ただし、患者さんの多くがそうした悩みを抱えていることを医師もよくわかっているので、隠れてこっそりやるのではなく相談しましょう。医師が忙しそうなら紙に書いて看護師などのスタッフに渡すのも一つの方法です。
Q 実際の治療の現場で、医師は日本版のガイドラインをどの程度参考にしているのでしょうか?
浜本先生:基本的にガイドラインは重視していると思いますが、私自身、異なる治療法を提案する場合もあります。例えば、ガイドラインの方法だと、治療成績が良くても副作用が強い場合などに、オプションを提案することはあります。主治医に「ガイドラインと違うのはなぜですか」と、率直に尋ねてもいいかもしれません。
Q 医師の治療方針と自分の希望する治療が異なる場合はどうしたらいいでしょうか?
浜本先生:希望される治療が標準治療ではなくても、保険適用であれば患者さんの状況(高齢や虚弱体質など)に応じて使うことはあり得ます。ただし、保険適用外であれば使えないので、担当医に確認をしてみてください。セカンドオピニオンを利用するのもいいでしょう。
Q いくつか海外のガイドラインの紹介がありましたが、それぞれの重みは異なるのでしょうか。
浜本先生:国ごとに事情が異なり、特に技術的なものは違いがあります。日本の診療の場では、やはり日本のガイドラインが優先されます。
セミナーの最後に浜本先生は、視聴者の皆さんに向けて次のようなメッセージを送りました。
「治すために頑張ることは大事ですが、行き過ぎると極端なことになってしまいがちです。自分で情報を調べたり、あるいは患者さん同士のつながりで話しているうちに『他の人もこんなふうに思っているんだ』と理解できることもあります。今回のようなセミナーも、学びの場として役立てていただければと思います」
※※
今回のセミナー後に実施したアンケートでは、参加したClub CaNoW会員の90.8%が「セミナーに満足した」と回答しました。皆様からは「エビデンスレベルの高い医学論文の調べ方、見方などの解説は見たことがなかったので、非常に有意義なセミナーでした」「海外の論文の検索方法が非常に専門的かつ具体的で、なかなかここまで教えて頂ける機会はないのではないでしょうか。とても勉強になりました」「自由診療を受けた時の保険診療への影響の説明部分は初めて知る内容で、大変有益でした」などのコメントが寄せられました。
Club CaNoWでは、今後も月1回、専門家の先生をお呼びして、治療の助けになるような医療知識をどこよりもわかりやすくお届けする医療セミナーを開催予定です。加えて、月1回、治療生活を応援するための会員向けイベントも企画しています。
次回のセミナーは2023年3月22日(水) 19:00~20:15を予定。
テーマは「教えて先生!がんの痛み治療の意外な副作用 -鎮痛剤の効果と副作用を知ろう編-」です。がんの痛みの治療には様々な鎮痛剤が使われ、どれも患者さんの痛みを和らげるために欠かせない存在です。しかし、鎮痛剤によって皆さんも一度は経験されたことのある、ある副作用が生じることをご存じでしょうか? がんの痛み治療における副作用にフォーカスした全2回シリーズの第1回、今月は痛み治療(鎮痛剤)が効くメカニズムと、その意外な副作用について、県立広島病院の篠崎勝則先生(臨床腫瘍科主任部長 兼 緩和ケア科主任部長)にご解説いただきます。
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