「がん治療医100名が選ぶ 今後1~3年の大腸がん治療を変える注目トピックス」~Club CaNoWオンライン医療セミナー
- 作成:2023/01/18
Club CaNoWでは、特定のがん種をテーマにしたセミナーを開催しています。7月の乳がん、9月の肺がんに続き、12月12日に行われた第3弾では、「大腸がん」を取り上げました。講師は、愛知県がんセンター副院長で薬物療法部長を兼務する室圭先生。進行役は乳がんサバイバーで、乳がん患者支援団体「メンタル・スパ」を主宰する大友明子さんです。
この記事の目安時間は6分です
多くの治療医が「免疫チェックポイント阻害剤」など薬物療法に注目
今回のセミナーに際して、あらかじめ大腸がん治療医100名にアンケートを実施し「今後1~3年の大腸がん治療を大きく変える可能性のあるトピックス」をたずねました。回答数が多かったトピックスは次の通りです。
- 免疫チェックポイント阻害薬の適応追加
- 結腸がんに対するロボット手術の保険適応追加
- リキッドバイオプシー等がんゲノム医療の進歩
- HER2陽性大腸がんに対する抗HER2抗体の適応追加
- BRAF変異大腸がんに対するBRAF阻害薬を含めた併用療法
そこで、室先生に大腸がんにおける薬物療法の基本的な考え方と、今回のアンケート結果で上位に選ばれたトピックスの中から「免疫チェックポイント阻害剤」を中心にお話しいただきました。
薬物療法の治療成績は目覚ましく向上
近年日本では、大腸がんにかかる人が増え、がんの部位別罹患者数はワースト1位。死亡率は全体でワースト2位、女性ではワースト1位になっています。
「大腸がんは、早期はもちろん、局所進行がんであっても手術で治癒できる可能性が高いがんです。遠隔転移のあるステージ4や、術後の転移再発になると全身薬物療法が必要になりますが、治療成績は目覚ましく向上しています。最近の臨床試験の報告では、全身薬物療法の一次治療を実施した人の『生存期間中央値』は約30カ月です。一番最近、日本から報告された研究では、約36カ月でした。私が研修医だった頃の3倍にも延びています」
と、室先生は話します。
治療成績が向上している理由の一つは、大腸がんに有効な薬が増えたことや、手術技術の進歩によるところが大きいそうです。
「遠隔転移になっても、少数個だったり、限局していたりすると、手術などの局所治療で治る場合があります。多発転移でも、薬物療法で縮小させてから切除する『コンバージョン手術』を実施するケースが増えてきました」(室先生)
また、3つの抗がん剤「5-FU」「イリノテカン」「オキサリプラチン」を使い切ると生存期間が延長することもわかっているそうです。そのことから発展して、すべての有効薬剤を使い切ることが重要であるという認識が生まれ、「有効な薬剤をしっかり使っていくという概念が根付いてきたのだと思います」(室先生)
「どちらの副作用が許容できるか」で治療法を選ぶ場合も
複数の抗がん剤を組み合わせた治療法に「FOLFOX 」や「FOLFIRI」がありますが、室先生は「どちらを先に行っても、生存期間の中央値は20カ月という臨床試験の結果があります。どちらが先かではなく、両方行うことが大事」と解説しました。当時の「IFL」という標準治療の生存期間の中央値は15カ月でしたが、それを遙かに凌ぐ成績を示したことで、このような解釈が生まれました。
そこで大友さんから「FOLFOXとFOLFIRIのどちらを先にするかは、医師によって違うのですか?」と質問。
室先生は「それぞれ副作用の現れ方が違います。例えば、FOLFOXはしびれが来るため、ピアニストでどうしても来月のリサイタルを全うしたいなどの場合は、最初の治療としてFOLFIRIを選ぶことがあります。一方のFOLFIRIは脱毛があるため、モデルなどの職業の方は、最初の治療としてFOLFOXを選んだりします。両方の治療とも大事で、両方を行うことが重要なのですが、最初の治療を選んだ方の治療期間が長くなるため、関連する副作用で悩む期間が長く、強く出る可能性があります。患者さんにとってどちらの副作用が許容できるかで選ぶ場合があるのです」
と話しました
初期の段階からの「遺伝子検査」が大切
室先生は、これまで大腸がんで使われるようになった薬剤の一覧を時系列で紹介。近年は、遺伝子検査や、遺伝子異常に基づいた薬剤の承認が増えており、「大腸がんでも個別化医療やがんゲノム医療が進んでいます」と説明しました。
大腸がんで用いられる「ペムブロリズマブ」「イピリムマブ」「ニボルマブ」などの免疫チェックポイント阻害薬は、高い効果が報告されています。しかし、これらの薬が有効とされるのは「MSI-H」などの遺伝子変異がある人で、転移性の大腸がんの約3-5%と限られています。しかし、室先生は「将来的には、薬の組み合わせなどでさらに増えていく可能性はあります」と話します。
最近は、再発や転移したがんだけでなく、手術可能な結腸がんや直腸がんの術前治療としても、免疫チェックポイント阻害薬は注目されています。「薬で完全奏功(=がんが消えた状態)する例も多く、手術を回避できる可能性もあります。今後の展開が期待されています」と室先生。
さらに、「dMMR/MSI-H転移性大腸がん」など遺伝子変異のあるがんでは、従来の抗がん剤よりも先に免疫チェックポイント阻害薬を使ったほうが、より高い効果が得られることもあるそうです。「初発の段階、あるいは一次治療の前から(有効な薬を見極めるための)遺伝子検査をすることが大切です」(室先生)
多彩な副作用が起きる「irAE」に対応するには?
セミナーの後半は「視聴者からの質問コーナー」で、多くの質問が寄せられました。室先生の回答を一部ご紹介します。
Q 免疫チェックポイント阻害剤の「免疫関連有害事象」(irAE)に早く気づけるように、室先生が患者さんに伝えていることはありますか?
「irAEは、頻度は高くないものの、多彩な副作用が起こることが知られています。起こること自体を防ぐことはできないので、早く見つけることが大事です。現在は、9割以上の患者さんが外来で治療を受けているので、2~3週間に一度の通院時に見つけても遅いことがあります。私は、あらかじめ患者さんにirAEが起きた場合にどのような症状(だるい、のどが渇いて排尿回数が増える、筋肉に力が入らないなど)が出るのかを説明し、症状に気づいたらすぐに連絡してほしいと伝えています」
Q 大腸がん切除後の再発・転移の可能性はどのぐらいでしょうか。
「ざっくり言ってステージ2であれば1~2割、ステージ3なら2~3割くらいです。ただ、ステージだけでなく手術方法や施設によっても再発率は違います」
Q 病気の情報を集める方法を教えてください。
「今はネットなどで手軽にたくさんの情報を集めることができますが、正しくない情報も含まれていて、一般の人にはなかなか区別がつきません。信頼できる情報源としてお勧めできるのは、国立がん研究センターが運営する『がん情報サービス』です。担当医に聞いてみるのもいいでしょう」
ほかにも、「大腸がんでは術後補助化学療法は行わないのでしょうか?」「S状結腸がんでリンパ節に転移しました。抗がん剤治療以外の治療はありませんか?」「肝転移に対する動注療法の効果と副作用は?」「術後は食事にどこまで注意すればいいですか?」といった質問が寄せられ、室先生はわかりやすく回答されました。
そしてセミナーの最後、視聴者の皆さんや大腸がんの患者さんに向けて、「医学は目覚ましく進歩しています。前向きに考えてほしい」と力強いメッセージを送りました。
今回のセミナー後に実施したアンケートでは、参加したClub CaNoW会員の95.7%が「セミナーに満足した」と回答しました。皆様からは「がん治療の正しい知識を知るために現場の先生のお話はとても参考になった。抗がん剤の種類、分子標的薬も使える薬剤が増えてきたのは希望が持てると感じた。」「医療の進歩を現役の医師に教えてもらえて、とても前向きな気持ちになった。」などのコメントが寄せられました。
Club CaNoWでは、今後も月1回、専門家の先生をお呼びして、治療の助けになるような医療知識をどこよりもわかりやすくお届けする医療セミナーを開催予定です。加えて、月1回、治療生活を応援するための会員向けイベントも企画しています。
次回のセミナーは2023年2/22(水) 19:00~20:15を予定。
テーマは「賢い患者になるために知っておきたい正しい情報の見極め方 上級編」です。
医療は日進月歩で変化していますが、患者さんが最新の正しい医療情報をキャッチするにはどうしたらいいでしょうか?
最新の正しいがん情報を見極めるポイントを慶應義塾大学病院 腫瘍センター副センター長の浜本康夫先生にご解説いただきます。
第2回となる2月は上級編となります。海外の論文や最新のがん情報の検索の仕方、代替医療の判断の仕方等について一緒に紐解いていきましょう。
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