卵巣がんの症状と治療 どんな手術?抗がん剤の効果と副作用は?腹水や痛み、末期症状も解説

  • 作成:2016/05/12

卵巣がん(以下、卵巣癌)の症状の中で、「腹水」という状態になると、体中に癌が広がる可能性がでてきます。治療については、卵巣などを摘出することが基本となり、タイプによっては抗癌剤に大きな効果が期待できます。卵巣癌の症状と治療について、医師監修記事で、わかりやすく解説します。

近藤恒正 監修
落合病院 副院長
近藤恒正 先生

この記事の目安時間は6分です


卵巣がんの症状はどんなもの?腹水がたまる?痛みがある?
卵巣がんの末期症状はどんなもの?
卵巣がんの治療 抗がん剤はどんなもの?
抗がん剤はなぜ効くか?
副作用はどんなもの?
卵巣がんの手術治療はどんなもの?

卵巣がんの症状はどんなもの?腹水がたまる?痛みがある?

癌などの腫瘍ができると通常は大きく腫れてくるため、周りの臓器などを圧迫することで症状が出現しますが、卵巣癌の場合には、卵巣の周囲には可動性のよい(場所を変えやすい)腸管しか存在しません。そのため、卵巣が癌の増殖によって多少大きくなったとしても、無症状であることがほとんどです。ただ、腫瘍の重みによって卵巣が捻転(ねじれ)したり、破裂すれば激しい痛みがおこるといったような症状が見られることがあります。

また、ホルモンを産生するような「性索間質性」という性質の腫瘍であれば、月経(生理)の異常で気付かれることもありますが、一般的な卵巣癌ではホルモンの分泌異常がないため、月経異常も起こしません。さらに痛みなどの自覚症状がないため、癌の増殖によって卵巣が大きくなり、お腹が膨らんできても「太ったのかな」と勘違いされてしまうことも多いです。

そのため、一般的に卵巣癌は早期発見が難しいとされており、卵巣癌がかなり大きくなって腹水が溜まることで、お腹全体が大きく膨れ上がったりしないと気付かれないことが多いのです。「腹水」とは、お腹の中に溜まった水のことで癌細胞がお腹の中に広がったことで生み出されます。もともとお腹の中には少量の水が存在しますが、この水が異常に増えた状態を「腹水」と言います。また、卵巣癌が大きくなったために周りの膀胱や直腸などを圧迫し、尿の異常や便秘などの症状が出て、発見されることもあります。

このように、卵巣癌は初期の段階ではほとんど症状が見られませんが、お腹が張った感じ(腹部膨満感)やお腹周囲のサイズが大きくなった、骨盤や腹部の痛み、食欲不振や急激な体重減少、頻尿や排尿困難、便秘といった症状が、病気の進行とともに見られるようになります。こうした症状が自覚されるようになると卵巣癌であればすでに進行した状態と言うことになりますので、早めに婦人科を受診して確認することをお勧めします。

卵巣がんの末期症状はどんなもの?

卵巣癌が進行すると、腫瘍の増大に伴って周辺へのさまざまな圧迫症状が出現します。腸が圧迫されることで食事量が減少したり、膀胱の圧迫によって頻尿や排尿障害が見られます。また、周辺臓器への浸潤(広がり)だけでなく、腹水の増加によって、ウエストサイズが大きくなることもあります。このほかにも、卵巣癌の進行に伴って全身の倦怠感、悪心(吐き気)、嘔吐、足のむくみなどが出現します。これら症状が見られて、卵巣癌である場合にはかなり進行した状態であると言えます。

また、卵巣癌が別の臓器に遠隔転移している場合、卵巣癌自体による症状の前に、転移した先の臓器での症状が見られる場合もあります。卵巣癌の主な転移先として頻度が高いのは、肺や胸膜、肝臓、骨があります。肝臓の場合にはあまり症状が出にくく、かなり進行した状態になってから、身体や白目の部分が黄色くなる「黄疸(おうだん)」が出現してきます。胸膜転移では、胸に水が溜まった状態である「胸水」が出現し、呼吸が苦しくなったり、咳が出やすいなどの症状が見られます。骨転移では、特に背骨の腰椎に転移することが多く、骨を破壊していくために腰痛が出現したり、骨折を起こしやすくなります。

このように卵巣癌が、卵巣だけにとどまらずに、広がって進行した状態では、化学療法や手術による治療だけでなく、緩和ケアも重要となってきます。「緩和ケア」と聞くと、末期で助かる見込みのない患者さんが受けるものと思われがちですが、最近の癌治療では、診断時から早期に緩和ケアによる介入が大切であると考えられています。

卵巣がんの治療 抗がん剤はどんなもの?

卵巣癌は抗癌剤が比較的よく効く癌ですので、手術をした後に化学療法を追加で行っていく治療が基本となります。腫瘍の部位が、片側の卵巣に限られている「Ia期」で、癌組織が正常組織と似た構造をしている「高分化型」と呼ばれる特殊な卵巣癌ではない場合、通常は術後に化学療法が必要になります。ただ、妊娠を希望している場合は、別の治療を考えることとなります。

現在では、「パクリタキセル(商品名:タキソール)」と「カルボプラチン(商品名:パラプラチン)」を組み合わせた薬剤を3週間から4週間ごとに、6回ほど点滴で注射する「TC療法」が卵巣癌の標準治療(一般的な治療)となっています。

また、「ドセタキセル(商品名:タキソテール)」とカルボプラチンを組み合わせた「DC療法」と呼ばれる方法もあります。ことらは、短期的な効果は、TC療法とほぼ同等で、薬の副作用などによりTC療法ができない患者さんのための選択肢となります。最近では、パクリタキセルを3週間から4週間おきではなく、毎週投与して総投与量を増やす「dose-dense TC療法」も登場し、日本で行われた臨床試験では、患者さんの生存期間の延長が認められました。

抗がん剤はなぜ効くか?

TC療法で使われるパクリタキセルという抗癌剤は、もともとはイチイ科に属する植物の樹脂から抽出された物質で、胃癌や乳癌、肺癌などの悪性腫瘍に対しても効果を発揮します。癌細胞は無秩序に、分裂を繰り返して、増殖していくという特徴があります。細胞分裂を行うには、複製されたDNAを2つの細胞に分ける過程が必要で、その際「微小管」という構造物が働きます。この微小管の働きを阻害するのがパクリタキセルであり、細胞分裂を停止させる作用があります。また、ドセタキセルも基本的にパクリタキセルと同じように作用して、細胞分裂を抑制します。

一方で、カルボプラチンは「白金製剤」と呼ばれる種類の抗癌剤です。白金製剤は、癌細胞がDNAを複製する過程で、DNAに対して橋を架けるようにつなぎます。この反応(架橋反応、かきょうはんのう)によってDNA合成が阻害され、細胞分裂ができないようにします。

副作用はどんなもの?

抗癌剤は、細胞分裂の過程を阻害して、癌の進行を抑制しますが、体の中で分裂をしている細胞は癌だけでなく、正常な細胞でも分裂は行われているため、正常な細胞にもある程度障害を与えてしまいます。最近では、可能な範囲で予想される副作用に対しては予防を行いますので、以前よりは症状は軽く済む場合もあります。主な副作用としては、吐き気・嘔吐、貧血、白血球減少、血小板減少、脱毛、食欲不振、下肢のしびれなどがあります。

抗癌剤によって血液を作る細胞にダメージが出ると、白血球が減少して肺炎などの感染症にかかりやすくなったり、血小板が減るために出血しやすくなる、赤血球が減少することで貧血が出やすくなる場合があります。これらの副作用は「骨髄毒性」(こつずいどくせい)と言い、命に関わる場合もあるため、血液検査で注意深く観察する必要があります。また、吐き気は抗癌剤の有名な副作用ですが、時に下痢や便秘などの消化器の症状が見られる場合もあります。脱毛は女性にとってつらい副作用になりますが、治療が終われば再び髪の毛は生えてきます。

卵巣がんの手術治療はどんなもの?

一般的に、癌の治療法には、「手術療法」抗癌剤を使った「化学療法」、「放射線療法」の3つがありますが、卵巣癌の場合には、いずれの病期であっても手術によってできるだけ腫瘍を切除し、術後に化学療法を行うことが基本となります。卵巣癌は比較的抗癌剤の効く病気ですが、卵巣癌の種類(組織型)によって効く薬も違うため、手術によって組織型を診断してから有効な抗癌剤を選択することが大切になります。

卵巣癌が疑われた場合には、卵巣にできている腫瘍が良性か悪性(癌)かを調べるために腫瘍を摘出し、顕微鏡にて検査する必要があります。したがって、まず卵巣癌が疑われた際にはお腹を開ける開腹手術を行います。手術では、腫瘍のできている側の卵巣と卵管をすべて摘出する「付属器切除」を行います。手術中、腫瘍の一部が取れた段階で「術中迅速病理検査(じゅつちゅうじんそくびょうりけんさ)」と呼ばれる簡易的な病理検査を行い、良性あるいは悪性の診断を行います。良性の場合には付属器切除のみで手術は終了となりますが、悪性すなわち卵巣癌と診断された場合には、「両側付属器摘出術+子宮摘出術+大網切除術+後腹膜リンパ節廓清(かくせい)」を基本とします。具体的には、腫瘍のある側の卵巣と卵管に加えて、反対側の卵巣と卵管、子宮を全て摘出し、転移の可能性のある骨盤内や大動脈周囲のリンパ節も取り除いてきます。「大網(たいもう)」とは胃から垂れ下がってお腹の臓器を覆っている脂肪のことですが、卵巣癌の転移が起こりやすいために一緒に摘出します。

仮に、開腹した時点で卵巣癌がお腹の中の至る所に広がっていた場合(「播種(はしゅ)」と言います)でも、できるだけ多くの腫瘍を摘出する「減量術」を行います。卵巣癌では取り残しが少ないほど、予後が良いということが分かっているためです。

以上のような流れで手術を行い、術後に正確なステージ分類を診断してから、術後の抗癌剤を使った化学療法を実施するかどうかなどを決定していきます。

また、卵巣癌疑いの患者さんで、将来的に妊娠を希望される場合には、腫瘍が片側の卵巣に留まっており、比較的落ち着いた癌(広がりのない癌)であれば、反対側の卵巣と子宮を温存する場合もあります。


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卵巣癌の症状や治療についてご紹介しました。親族や友人が卵巣癌になるなどして、不安を感じている方や、疑問が解決されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?「病院に行くまでもない」と考えるような、ささいなことでも結構ですので、活用してください。

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