子宮脱の原因、症状、リスク、予防方法 子宮以外の臓器にも影響?軽度と重度の症状の違いは?なりやすい人は?

  • 作成:2016/05/16

子宮脱とは、文字通り、子宮が体外に出てしまう病気です。出産や加齢などが原因となり、ひどくなると出血を伴うことがあります。リスクや予防方法を含めて、専門医師監修の記事で、わかりやすく解説します。

近藤恒正 監修
落合病院 副院長
近藤恒正 先生

この記事の目安時間は6分です


そもそも子宮脱とは何?
子宮脱の原因
子宮脱は産後になりやすい?なりやすい人がいる?
軽度の子宮脱の症状
重度の子宮脱の症状はどんなもの?痛みや出血も?
子宮以外の臓器が出てしまう場合がある?
子宮脱のリスク
子宮脱の予防方法

そもそも子宮脱とは何?

子宮脱とは、子宮がだんだん下がってくる病気です。下垂した子宮は腟内まで入り込み、重度になると腟口から体外へと出てしまいます。出てきた子宮は自分の目で確認することができ、大変不快で不安な気持ちになります。本来、子宮は腟の上に位置するのですが、子宮を支えているじん帯や筋肉がゆるむことによって子宮脱は起こります。

腟内にとどまっているうちは「子宮下垂」、子宮頸部など、子宮の一部が腟口からのぞいているものを「部分子宮脱」、腟壁がめくれ上がり子宮が完全に出ているものを「完全子宮脱」といいます。しかし脱出の程度はいつも同じとは限らず、くしゃみなどで腹圧(腹の中の圧力)が上がった時だけ完全子宮脱になる人もいます。

子宮脱は、出産を経験した40歳後半から60歳代の女性に多い病気です。症例の多い病気で、女性の生涯罹患率(生涯で一度以上かかる確率)は、10%と言われています。生命の危機に直結するようなものではありませんが、生活の質に深く関わってくるので早期の治療が望まれます。しかし、羞恥心からなかなか病院へ足が向かず、我慢してしまう人が少なくありません。

子宮脱の原因

子宮脱と深く関わりがあるのは「骨盤底筋群(こつばんていきんぐん)」です。骨盤底筋群とは、骨盤内の臓器をハンモックのように支える筋肉です。女性の骨盤の底は出産の産道のために穴が開いていますが、骨盤底筋があるおかげで臓器は落ちてくることはありません。しかし骨盤底筋がゆるんだり損傷することで、子宮を支え切れなくなって子宮下垂や子宮脱を引き起こします。

つまり、子宮脱は骨盤底筋がゆるむためにおこるのですが、その原因は何でしょうか?最も有力視されているのは出産、加齢、そして生活習慣です。

出産は子宮脱に大きく影響します。特に赤ちゃんが産道を通って生まれる経腟分娩の場合、帝王切開に比べて骨盤底筋群へのダメージが大きいとされています。経腟分娩の中でも難産になった場合、さらに子宮脱のリスクが高まります。胎児が3500g以上と大きめだったり、3回以上の経腟分娩の経験、分娩に長時間かかった場合、あるいは高齢出産の後は、子宮脱の可能性について注意を払ったほうが良いでしょう。

子宮脱は高齢女性がなりやすいこともあり、加齢とも無関係ではありません。人は誰でも年を取ると筋力が低下します。骨盤底筋群は、「肛門挙筋(こうもんきょきん)」や「尿道括約筋(にょうどうかつやくきん)」など、いくつかの筋肉が組み合わせっている筋肉の一種ですから、加齢とともに張りを失っていきます。それによって骨盤底筋群のゆるみにつながります。

それ以外にも、日常的に重いものを持ち上げるなどの肉体労働、肥満体質、慢性の便秘、ぜんそくなどによる断続的な咳がある人は、常に骨盤底筋群に上から腹圧がかかっている状態が続くため、子宮が押し下げられる原因となります。

子宮脱は産後になりやすい?なりやすい人がいる?

女性の骨盤底筋群は妊娠するとゆるみ、分娩が終わると徐々に回復します。しかし元通りになるには4週間から6週間、最大で半年かかると言われています。骨盤底筋群が回復する時期に無理をすると骨盤底筋群の回復がうまくいかず、子宮脱になる可能性が高くなってしまいます。

産後に子宮脱になりやすいのは、もともと骨盤底筋群が弱かった人です。あまり普段から運動をせず、肥満もしくは極端なやせ体質な人は、骨盤底筋群がゆるみがちです。また、妊娠中の体重増加が著しかった人や、多胎妊娠(双子以上の妊娠)、羊水過多、巨大児出産、分娩時間が長かった人、便秘でいきむことが多かった人も、子宮脱のリスクが高くなります。

産後は便秘や尿漏れなど、排せつのトラブルが起こりがちです。これも骨盤底筋群のゆるみが原因です。尿漏れなどのマイナートラブルがある場合、子宮脱のリスクを伴うことを覚えておいてください。

産院や母子手帳では、出産後に産褥体操(さんじょくたいそう)をすることをすすめています。これは産後の体の回復を促すためで、その効果は子宮脱の予防にもつながります。特に骨盤底筋を鍛える体操は出産直後でまだ動き回れないうちでも、仰向けに寝たままおこなうことができます。産後だけでなく、妊娠中から習慣化しておくと効果が高まります。

軽度の子宮脱の症状

子宮が腟口上部まで下がっている「子宮下垂」といわれる状態や、腟外に脱出していない軽度の子宮脱であれば、痛みや出血などの症状はほとんどありません。子宮脱は子宮が体外に脱出するまで自覚症状がない人が大半です。

自覚症状がある場合は、腟内に圧迫感や充満感があるという訴えが多くみられます。「座るとボールの上に載っているような感じがする」という表現を用いる人もいます。下腹部にひきつったような違和感を覚える人や腰痛がある人もいます。

尿トラブルが、子宮脱のサインになることがあります。尿が出にくくなったり、逆に頻尿になったりするほか、ちょっと力んだ時やくしゃみをした時などに尿漏れを起こす「腹圧性尿失禁(ふくあつせいにょうしっきん)」がみられると、子宮脱の可能性があります。実際、子宮脱の人の75%が腹圧性尿失禁を起こすと言われています。

重度の子宮脱の症状はどんなもの?痛みや出血も?

子宮の一部または全部が腟外に脱出してしまうほど重度の子宮脱の場合は、本人にも自覚症状があります。場合によっては出血や痛みを伴います。

子宮が体外に飛び出している状態なので、陰部に何か挟まっているような不快感がします。歩くときや入浴の際に気づく人が多いようです。腹圧がかかった時だけ脱出することもあり、その場合は自分の手で押し戻すこともできます。特に夕方になると症状が顕著になります。しかし重症化すると脱出したまま戻らなくなり、粘膜部分は乾燥して荒れ、下着などにすれることによって炎症を起こしやすくなります。その影響で性器出血を起こすこともあります。

重度の子宮脱には、排尿障害や排便障害を伴うことがあります。尿の通り道である尿道が圧迫され、ひどくなるとまったく出なくなります。排尿障害は膀胱炎や腎臓の病気の原因になります。便が出にくいなどの排便障害を起こすこともあります。

子宮以外の臓器が出てしまう場合がある?

子宮脱は「骨盤臓器脱」の一種です。骨盤臓器脱とは、骨盤内の臓器が腟から体外に脱出してしまう病気です。「性器脱」と呼ぶこともあります。脱出してくる臓器は子宮のほか、膀胱、尿道、小腸、直腸があります。

子宮脱とは骨盤底筋(こつばんていきん)のゆるみによる子宮の下垂(下に垂れること)のために起こる病気なので、同じように骨盤底筋群に支えられている臓器は同様に影響を受けます。これらの臓器の下垂または脱出を総称して「骨盤臓器脱」といいます。

骨盤臓器脱は落ちてくる臓器によって呼び方が異なり、「子宮脱」・「尿道脱」・「膀胱脱」・「小腸脱」・「直腸脱」なとされます。子宮脱以外は「尿道瘤」・「膀胱瘤」・「小腸瘤」・「直腸瘤」とよぶこともあります。「瘤(りゅう)」とは、こぶのことのです。いずれも骨盤底筋がゆるくなったために腟から臓器が飛び出してしまう病気であり、本質的には同じものです。

骨盤底筋群のどの部分がゆるむかによってかかりやすい骨盤臓器脱は異なります。腟の前方がゆるくなると膀胱脱と尿道脱が、腟の後方がゆるくなると小腸脱と直腸脱を、膣の上方がゆるくなると子宮脱を起こしやすくなります。割合としては膀胱脱が最も頻繁に見られ、次に子宮脱や直腸脱が多くなっています。複数の骨盤臓器脱が同時に発生することもあります。

子宮脱のリスク

子宮脱はすぐさま生命に直結するような病気ではありませんが、さまざまなリスクがあるのも事実です。重症化すると他の病気を併発することもあり、生活の質に大きく影響します。

子宮脱は排尿に関するトラブルを起こしやすい病気です。頻尿・尿漏れ・尿の出が悪くなるなどです。子宮脱が重症化すると、尿がまったく出なくなることがあります。これは下に垂れてきた子宮が尿道を圧迫するからです。排尿がされない状態が長く続くと膀胱炎の原因となります。膀胱炎はひどくなると膀胱から逆流した尿によって細菌が入りこむ「腎盂腎炎(じんうじんえん)」を引き起こします。高熱や腰・背中の痛みを伴うつらい病気です。

また、本来体内にあるべき子宮が体外に脱出するため、粘膜部分が外気にさらされ炎症や潰瘍(ただれ)を引き起こします。出血や痛みを伴い、二次感染(外に出た部分が原因で、別の病気にかかること)の原因にもなります。また、陰部に痛みや異物感があるため、歩行もままならないことがあります。

子宮脱に伴う不快感や恥ずかしさのために、外出を控える人も少なくありません。子宮脱は高齢女性に多い病気で、生活活動量が減少すると運動不足や筋力不足になり健康維持に大きく影響します。子宮脱には、老化を早めるリスクも潜んでいるといっても過言ではありません。

子宮脱の予防方法

子宮脱は、早期発見よりも予防することが大切です。子宮脱を予防するには、骨盤底筋群を鍛えることが効果的です。「骨盤底筋体操」「骨盤底筋トレーニング」「ゲーゲル体操」などと呼ばれる運動をおこないます。

骨盤底筋体操とは、簡単に言うと腟や肛門を自分の意思で動かすトレーニングです。腟と肛門をキュッと縮めたりゆるめたりするのを繰り返します。尿を途中で止める感覚をイメージしてください。仰向けの状態や座りながら、あるいは机に手をつくなどしておこないます。骨盤底筋体操は、子宮下垂や子宮脱になってからおこなっても効果はありません。普段の生活に取り入れるようにして習慣化しておきましょう。また、出産後は特に意識しておこなってください。

また、無理な出産をしないことも子宮脱の予防になります。高齢出産や巨大児出産の場合、自然分娩にこだわらない方が安全な場合もあります。帝王切開も視野に入れて、出産によって骨盤底筋を傷めないようにすることが大切です。

その他、肥満や便秘の防止も子宮脱の予防に役立ちます。いずれも子宮脱の主な原因になるものです。適切な体重と排便習慣のため、運動と食事に気をつけて健康的な生活習慣を身につけましょう。

普段からの骨盤底筋のトレーニング、無理のない出産、健康的な生活習慣が、子宮脱予防のポイントとなります。気になる方は、かかりつけの医療機関に相談してみるとよいでしょう。


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子宮脱の原因や症状などについてご紹介しました。女性器周辺の症状に不安を感じている方や、疑問が解決されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?「病院に行くまでもない」と考えるような、ささいなことでも結構ですので、活用してください。

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