子宮脱の手術やリングなどの治療 妊娠希望や高齢化で変わる?子宮脱時の妊娠可能性、妊娠中治療の影響も解説

  • 作成:2016/05/16

子宮脱とは、文字通り、子宮が体外に出てしまう病気です。リングを使った治療も可能ですが、根本的な解決のためには手術が必要となります。ただ、高齢化や妊娠希望などの場合、治療の選択肢が減る可能性もあります。妊娠との関係を含めて、専門医師の監修記事でわかりやすく解説します。

近藤恒正 監修
落合病院 副院長
近藤恒正 先生

この記事の目安時間は6分です


子宮脱の治療で使うリングとはどんなもの?
子宮脱の手術はどんなもの?費用はどれくらい?
近年注目される「TVM手術」とは?
高齢の場合、治療選択肢はかわる?
子宮脱になっても妊娠は可能?
妊娠を希望する場合、治療の選択はかわる?
妊娠中は、治療の選択肢がかわる?胎児、母体、出産への影響は?

子宮脱の治療で使うリングとはどんなもの?

子宮脱にはさまざまな治療法があります。大きく分けると手術をおこなわない「保存的療法」と、根本的な治療をめざす「手術的療法」に分類できます。

保存的な療法の代表的なものには「ペッサリー」があります。ペッサリーとは硬質プラスチックあるいは軟らかいポリ塩化ビニル(PVC)製のリング状の器具で、直径5cmから10cmの間でいくつかのサイズがあり、自分に合った大きさのものを使います。ペッサリーを腟内に挿入・装着することにより、垂れてきた臓器を下から支える治療法です。

手術的療法と違って体への負担が少なく、装着にも時間はかかりません。ただし、おりものが増えてしまったり出血したりする場合があり、入れっぱなしにしていると、まれに器具が腟壁に埋もれこんでしまうという副作用があります。違和感や性交時の不快感から、使用を中止する人もいます。

ペッサリーによる子宮脱の治療には、医師が挿入する「連続装着方式」と、自分で挿入する「自己着脱方式」があります。自己脱着については、はじめは医師が挿入し、続いて脱着の指導を行います。ペッサリーの自己脱着に不安を感じる人は連続装着方式のほうが良いですが、2カ月か3カ月に一度、定期検診のために通院する必要があります。自己着脱方式なら、子宮がん検診のついでにチェックする程度で済みます。

ペッサリー以外の保存的療法としては、骨盤底筋体操(原因となっている筋肉を鍛える方法)、ホルモン補充療法、サポート下着の使用、漢方薬の服用などがあげられます。いずれも予防・対症療法に重点が置かれたもので、これらの方法によって子宮脱が完治することはありません。根本的な治療を望むのであれば、手術が必要になってきます。

子宮脱の手術はどんなもの?費用はどれくらい?

子宮脱の手術には、さまざまな種類があります。手術方法は、年齢・持病の有無・体への負担度、妊娠を希望するかどうかなどによって決定します。

日本では、手術時間が短く、体への負担が少ない腟からの手術が一般的です。日本でよくおこなわれてきた手術方法は、「子宮全摘徐術(しきゅうぜんてきじょじゅつ)」と「腟壁形成術(ちつへきけいせいじゅつ)」を併せた手法です。子宮をすべて切除し、伸びてしまった腟壁の一部を切って、縫い縮める手術方法です。腟側から行う手術のため、体への負担も軽く済みます。手術時間は1時間から2時間で、7日から10日程度で退院できます。

しかし、腟からの手術後に再発すると、再手術の必要性が出てきてしまいます。また、腟内腔が狭くなり、性交(セックス)障害の問題が発生します。最近では出産の予定がなくても子宮を残しておきたいと考える女性も増えていて、子宮温存を望む場合は適していません。

近年注目される「TVM手術」とは?

そこで近年注目されているのは、2005年ごろから日本に普及しはじめた「TVM手術(メッシュ手術)」という手術方法です。この手術方法も身体への負担が軽いのが特徴です。また、子宮を取る必要がなく、腟が狭くなったり変形したりすることもありません。従来の方法と同様に、腟からおこなう手術なので、お腹を切る必要もありません。ただ、再発する可能性はあります。

この手術方法は人体に無害な網(メッシュ)を使うのが特徴です。ゆるくなった骨盤底筋を補強するように、耐久性の高い「ポリプロピレン」という物質のメッシュを、腟壁に埋め込むことで、子宮をはじめとする骨盤内臓器を支えます。ちょうど、骨盤の底の部分にハンモックが張られているようなイメージです。TMV手術は5%から10%の再発率です。手術時間は1時間から1時間半で、7日もすれば退院できます。

TVM手術では、まれに合併症がおこります。主な合併症は痛み・出血・尿失禁・メッシュの露出です。痛みや出血は1か月以内におさまります。尿失禁は、尿道の屈折がなくなり排尿がスムーズになる反動で起こります。必要に応じて腹圧が原因で起きる尿失禁のための手術もおこないます。メッシュの露出は、メッシュが膣壁から出てきてしまう現象で、5%未満の確率でおこります。状態によっては露出したメッシュを切除して腟を再縫合します。

子宮摘出手術とTVM手術のほかには、腟の出口をふさいでしまう「腟閉鎖術」、伸びてしまった子宮頸部を短くして子宮を固定する「マンチェスター手術」、腟をメッシュテープで骨盤の上方後部にある「仙骨」という部分に固定する「仙骨腟固定術(LSC)」があります。

いずれの手術も保険が適用され、3割負担で15万円から25万円ほどになりますが、自己負担額を超えた医療費がもどってくる「高額医療制度」を利用することで、実際の自己負担は年収に応じた上限までということになります。ただし入院期間や施術内容によって負担額は変わってきます。気になる方は、医療機関で確認してみましょう。

高齢の場合、治療選択肢はかわる?

高齢の場合、手術による治療にはリスクが伴います。たとえば、長期間の入院生活による日常生活動作の低下、麻酔による副作用の危険性、手術後の合併症や感染症です。したがって高齢者が子宮脱の治療をおこなう場合、できるだけ短時間で体への負担が少なく、かつ効果が高いものを選ぶ必要があります。

持病や高齢でどうしても手術ができない場合は、ペッサリーによる保存的療法をおこないます。腟内にリング状の器具を留置させることで子宮の脱出を防止するもので、処置も簡単なので高齢者でも負担になりません。しかし、定期的な検診も必要なことから、通院が難しい場合は別の方法が検討されます。また、ペッサリーは人によっては異物感・出血・おりものなどの副作用がおこることがあります。高齢者の中には重度の子宮脱になっても病院に行くことに抵抗があるため炎症や出血を起こしているケースが少なくありません。その場合、ペッサリーの装着は難しくなります。

高齢者によく用いられる手術法としては、前後の腟壁を縫合する「部分腟閉鎖術(Le Fort手術)」があります。これは、再発が少なく高齢者の体に負担がかかりにくい治療法です。歩くことが困難な人、心臓などが悪く全身麻酔などがかけられない人でも手術可能です。局所麻酔でおこなうので、全身麻酔のリスクはありません。ただし腟をふさいでしまうので、術後は性交と子宮がん検診ができなくなります。

腟や子宮を切除せず効果的に手術をおこなう方法としては、メッシュを用いた骨盤底補強術(TVM手術)もあります。高齢といえども、子宮の全摘出や腟を閉鎖してしまうことに抵抗がある人も少なくありません。また、医学的見地からも子宮や腟は温存したほうが治療による侵襲性が低い(体への影響が小さい)ことから、温存させる方向性になってきています。TVM手術であれば子宮や腟を傷つけることなく子宮脱の治療ができます。また、手術時間も短く、身体への負担も軽く済みます。術後は性交痛を伴うことが多いため、高齢女性に適用されることが多い治療法です。

子宮脱になっても妊娠は可能?

子宮脱と診断された後でも、妊娠することに問題はありません。また、子宮脱や子宮下垂が直接的に不妊の原因となることはありません。

性交ができれば妊娠は可能です。軽度であれば子宮脱でも性交には差しさわりがないと言われています。完全子宮脱でも自分で位置を戻せばできなくはないといいますが、現実には難しいものがあるかも知れません。

また、ペッサリーを用いた治療中でも、サイズや位置が適切であれば性交には問題ありません。ただし、ペッサリーを挿入していると性交の際に痛みを感じる場合があります。またおりものの増加やにおいが気になるようになると、夫婦生活に悪影響を及ぼすことが心配されます。

子宮脱になっても基本的には妊娠は可能ですが、間接的に性交に影響するため妊娠しにくくなる可能性はあります。

妊娠を希望する場合、治療の選択はかわる?

将来的に妊娠を希望する場合、子宮脱の治療の選択肢はかわります。基本的にはペッサリーをはじめとした保存的療法になりますが、どうしても症状が改善しない場合は手術となります。しかし、妊娠に必要な子宮を摘出する手術や、性交ができなくなる腟閉鎖術などの治療法は選ぶことができません。

妊娠を希望する方の子宮脱の手術方法としては、従来型では「マンチェスター手術」、最新のものでは腹腔鏡を使用した「仙骨腟固定術」があります。マンチェスター手術とは、出産などのために伸びてしまった子宮の出口部分を切断し短縮することで、子宮を支えているじん帯を短くする方法です。

仙骨腟固定術とは、下垂した腟をメッシュで仙骨に固定する方法です。かつては開腹しておこなっていましたが、最近では腹腔鏡式が主流です。腹腔鏡式仙骨腟固定術は2014年4月から保険が適用されるようになった最新医療です。他の手術方法と違い性生活や妊娠に影響がないため、比較的若い(65歳未満)人に適用されます。手術時間は3時間から4時間と長めですが、術後は1週間程度で社会復帰することが可能です。仙骨腟固定術は、再発率も少なく生活への影響が少ない手術方法ですが、まだ施術できる病院は限られています。

子宮を摘出せず、かつ再発の確率が低い治療法としてはメッシュを骨盤内に入れるTVM手術がありますが、一般的に50歳以下の人にはすすめられません。性交痛を伴うことがあることと、性交によってメッシュが腟から露出してしまうことがあるからです。

妊娠中は、治療の選択肢がかわる?胎児、母体、出産への影響は?

妊娠中でも、子宮下垂や子宮脱になることがあります。女性の骨盤は妊娠と同時にホルモンの影響でゆるみ始めるので、妊娠中に子宮脱になることは珍しくありません。子宮に問題があるとなると胎児への影響が心配されるところですが、胎盤が正常に機能している限り必要な酸素や栄養は送られるので、子宮脱のために胎児が成長不良になることはありません。

妊娠中は子宮脱の治療法は限られます。ペッサリーなどの保存的療法および腹帯などによる補強、そして安静が重要になります。

妊娠10週から15週にかけての妊娠初期には、骨盤内臓器を支える力がゆるんで、まだ子宮も大きくないため、子宮が下がってくるケースが見られます。しかし、妊娠が進んで子宮が大きくなるにつれて一度は下がった子宮の位置が上昇することがあるので、しばらく静観するように指示されることが多いようです。この時期にペッサリーを挿入すると腟炎や膀胱炎をおこすおそれがあるので、使わない方が安全という意見もあります。

妊娠中期から後期になっても子宮脱がなおらない場合は、ペッサリーを使用します。後期になるとお腹が重くなるので、「ちょっと力んだ拍子に子宮脱になった」という声がよく聞かれます。医師の判断によっては感染予防や安静のために入院することもあります。妊娠中に子宮脱の手術はできないので、基本的にペッサリーなどの保存的療法をおこない、あとは腹圧がかからないようゆったりと過ごすことが大切です。腹帯やサポート下着で補強する方法もあります。妊娠中は便秘に注意し、過度の体重増加を避けるようにしてください。出産方法は妊娠末期に骨盤の状況をチェックして、経腟分娩が可能かどうかを判断します。子宮脱を予防するという観点からすると、経腟分娩が難しいと考えられる場合は、帝王切開のほうが安全ではあります。


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子宮脱の治療や妊娠、高齢化などの関係などについてご紹介しました。女性器周辺の症状に不安を感じている方や、疑問が解決されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?「病院に行くまでもない」と考えるような、ささいなことでも結構ですので、活用してください。

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