水銀中毒の原因、症状、診療科、治療、予防 液体の水銀は問題なし?
- 作成:2016/08/25
水銀中毒とは、文字通り、体に水銀が入って起こる中毒症状で、よく知られている公害の「水俣病」も水銀中毒の一種です。水俣病の原因となった工業廃水は規制が強くなりましたが、現在でも水銀中毒になる可能性がなくなったわけではありません。原因や症状、治療、予防方法を含めて、医師監修記事で、わかりやすく解説します。
この記事の目安時間は3分です
水銀中毒の原因と特徴
水銀中毒とは、文字通り、水銀が体内に吸収されて、体調が悪くなった状態のことです。水銀には「金属水銀」「無機水銀」「有機水銀」の3種類があります1)。
金属水銀は家庭用体温計、電池、電灯などに含まれる銀色の液体です。液体の状態では腸から吸収されないので、飲みこんでも中毒にはなりません。しかし、室温で気化(液体から気体に変わること)しやすく、気化した金属水銀を吸い込むと、のどや気管のやけどの原因になります。中毒症状とは違いますが、触ったり飲み込んだりすると、皮膚炎や嘔吐などを起こします。
「無機水銀」の中で多いのは「硫化水銀」と呼ばれるものです。これは火山のある地域で、イオン化した硫黄(「硫化物イオン」と言います)と水銀イオンが反応してできます。歯の治療の詰め物のひとつ「アマルガム」にも無機水銀が含まれています。歯の詰め物の水銀濃度で中毒症状は起きないと言われていますが、アマルガムを含む唾液から口内炎、皮膚炎を起こすことはあります。
有機水銀は、水銀イオンが有機物(炭素を含む化合物)と反応してできたものです。無機水銀や有機水銀が海水に流れ、魚の体内に入ります。この魚を食べた人間の腸から吸収された水銀は、血液に入って色々な臓器に到達し、水銀中毒を起こします。有機水銀の中で、もっとも毒性が強いと言われているのは、日本では水俣病・新潟水俣病の原因物質として知られているメチル水銀です。有機水銀の一種である化合物「チメロサール」は、ワクチンの防腐剤として使われていましたが、2000年代初めに米国で、子どものワクチン接種と自閉症の関係が問題視されました。これについては「明らかな根拠を示すことはできない」という研究結果も出ていますが、この議論の後にチメロサールを減量したワクチンや、チメロサールを含まないワクチンが開発されました。
水銀中毒の症状
無機水銀が体内に入ると2%から10%が腸管から吸収され、有機水銀は体内に入ると90%が腸管から吸収されます2)。無機水銀は腎臓に蓄積して腎障害を起こすことが多いです。
有機水銀は、脳、腎臓、肝臓、皮膚や毛根に蓄積しますが、特に問題となるのが脳・中枢神経の障害です。水俣病患者では、手足のしびれ、視覚・聴覚障害、言語・運動障害、精神状態の異常などの症状がみられました。また、「疲れやすい」「味覚や嗅覚が鈍くなる」といった症状が出て、日常の暮らしに困る人もいました。さらに母親の胎内でメチル水銀中毒となり、障害を持って生まれてくる赤ちゃんもいました3)。
水俣病の反省から、化学物質の廃水は現在厳しく規制されており、水銀中毒の典型的な症状を見ることは非常に少なくなっています。
水銀中毒の診療科
すでに腎機能障害や脳神経障害が出ている場合は、腎臓内科、神経内科、または救命救急センターなどで診療を受けます。自費診療(保険が使えない診療)になりますが、症状が出ていなくても病院やクリニックで、毛髪の水銀濃度測定を受けることができます。
水銀中毒の治療
水銀中毒の治療では、水銀を体の外に出す目的で、キレート剤(金属と反応して毒性をなくす薬)を使ったり、症状が重い場合は血液透析(血液をきれいにする作業を、体外の機械で実施する医療)をしたりします。しかし、症状が出て時間が経っている場合や、症状が重い場合は効果的ではありません。
水銀中毒の予防方法
日本人の水銀摂取の80%以上が、魚介類からのものと言われています。大人が食べても問題ないとされている魚介類の量でも、妊婦さんが食べた場合、胎児に影響を及ぼす可能性があります。厚生労働省はホームページの中で、妊婦さんの魚介類摂取について、「キンメダイ、マグロ類の摂取量を1人分80g」としたうえで、「週1回程度に留める」よう記しています4)。大人や子供については、はっきりと注意を促してはいませんが、「偏った食事をせずバランス良く食べる」のが大切となります。
水銀中毒について、ご紹介しました。水銀への接触があり、不安を感じている方や、疑問が解決されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?「病院に行くまでもない」と考えるような、ささいなことでも結構ですので、活用してください。
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