妊娠初期の食べ物の可否と体重の目安、食事、外食、食欲の考え方 おすすめの食品から食べてはいけない物まで解説
- 作成:2016/04/12
妊娠初期の食欲の変化や、味の好みの変化は、千差万別です。気をつけるべき食べ物や、食事が胎児だけでなく生まれたあとの成長に影響する可能性も含めて、専門医師の監修記事で、わかりやすく解説します。
この記事の目安時間は6分です
妊娠初期の食欲への影響
妊娠中の体重の目安
空腹はダメ?食べ過ぎはダメ?
妊娠初期の食事への考え方 成人後の病気にも影響?
増える低出生体重児
妊娠初期の外食について
妊娠初期にこれはOK? おすすめの栄養素と食べ物
妊娠初期に食べられる人が多いもの
辛いものは大丈夫?
酸っぱいものは?
苦手な人が多いものは何?
食べてはいけないものは?すすめられないものは?
妊娠初期の食欲への影響
妊娠初期の食欲が関係する「体重増減」と「体重維持」はすべての妊婦にとって、大変重要な健康マネジメントといえます。なぜなら、体重維持管理は母体の健康だけでなく胎児の健康にも大きな影響を与えるためです。
妊娠初期では「食欲が増加する」いわゆる「食べづわり」か「つわりのため食べられずに体重が減少する」の2パターンに分かれる傾向が出ています。また、妊娠初期は食欲の増減だけではなく、ホルモン分泌バランスの急激な変化により、妊娠前とはまったく異なった味の好みも出てきます。
一般的に、妊婦の食欲が急激に増加する傾向が高くなるのが妊娠中期からといわれており、妊娠中期からは母体の体重コントロールが大変重要になることが多いのですが、妊娠初期から食欲が増加する方では、その時期からの体重コントロールが重要です。
妊娠中の体重の目安
妊娠中の食事コントロールとは、適正体重を常に意識しながら、食事を考えることです。妊娠中の体重増加には、以下のように目安が設定されています。
・妊娠する前の体形が低体重(BMI18.5未満)の方は9㎏から12㎏の増加
・普通(BMI18.5以上25未満)の方は7㎏から12㎏の増加
・肥満(BMI25以上)の方は医師と個別に相談して決定(一応5㎏が目安)
母体の痩せは、低出生体重児を産むリスクが高いです。もともと痩せ気味の方は、妊娠初期のつわりと重なって体重が減少しないように十分気をつけてください。逆に、つわりもなく、妊娠初期から食欲が旺盛な方や肥満気味の方は、妊娠中期に妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病にならないように、適正体重と増加上限を可能な限り守る必要があります。
かかりつけの産婦人科医や栄養士からの指導が受けられますので、妊娠中の体重変動を母子手帳に記録しておくことも大切です。基本的に、妊娠初期は妊娠前と同じ食事の量を守りましょう。「妊娠したから」と、たくさん食べる必要はありません。
空腹はダメ?食べ過ぎはダメ?
妊娠初期での食べ過ぎによる急激な体重増加は、妊娠中期以降の妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病につながることがありますので十分注意が必要です。お腹が空いているのに食事を我慢することは辛いのですが、食欲旺盛でなおかつ体重増加に注意が必要な方は、食事メニューの工夫をしてください。炭水化物(糖質)は、急激な血糖の上昇を起こし、過剰な血糖は脂肪として蓄積されまる上、妊娠糖尿病を引き起こす可能性が高いため、食事全体の中での割合を下げる事は重要でしょう。
一方、タンパク質や脂質は吸収されても脂肪へ変化する事はありませんので、食事の中心になります。また、これらの吸収後の血糖の上昇はゆるやかですので、タンパク質や脂質、繊維質の多い食材を食事の最初に多く摂り、食事の最後に炭水化物を少量摂ると良いでしょう。また、タンパク質や脂質はゆっくりと吸収され、血糖をゆっくりと上げるため、これらの摂取を増やす事で、長時間の満腹感が出るようになります。繊維質の食物をゆっくりかんで食べる事で、糖質の吸収が緩やかになる効果も期待できる様です。脂質は吸収できる上限があり、少々多めに摂取しても上限以上に吸収される事はありませんので、制限する必要はありません。
過剰な塩分の摂取は血圧を上げる事になり、妊娠高血圧症候群の原因となります。食塩の1日必要量は3g程度と言われており、厚生労働省は日本人のナトリウム(食塩相当量)の目標量を男性8.0g/日未満、女性7.0g/日未満としていますが、日本人の平均的摂取量は10gを大きく超えているとされています。外食、とくにファーストフードは塩分の量が比較的多く、お薦めできません。インスタント食品では食塩量が非常に多い物があり、一食で一日の必要量を含んでいる物もありますので、注意が必要です。汁麺などのスープ系の食品は、できる限り塩分を下げたり、スープをできるだけ飲まないなどの心がけが必要です。家庭でも、できる限り塩分を控えるために、食材の中へ塩分がしみ込まない様に、塩、醤油等の調味料は調理の最後に少量だけ使う、醤油の代わりに出汁醤油(だしじょうゆ)やポン酢を使ったりしてみましょう。このように調理法や食材で取り組み、食べ過ぎないようにしましょう。
もともと痩せ気味、あるいはつわりで食欲がなく体重増加が望まれる方は、食事全体のボリュームを増やす、一回で食べられないときは食事の回数を増やしてみる、できるだけ食べられるものを食べる、食べ物のにおいが気になる場合は冷蔵庫で冷やしてにおいを抑える、など工夫してください。どうしても食べられない場合はかかりつけの産婦人科医と栄養士に相談してみましょう。水分補給も絶対に忘れないようにしましょう。
妊娠初期の食事への考え方 成人後の病気にも影響?
妊娠中は胎児の発育のために母体がバランスよく栄養をとることが重要です。なぜなら、妊娠中の食事は母体の健康を支えるだけではなく、食べたもの全てが胎児の栄養になり胎児そのものを作り上げるといっても過言ではないためです。妊娠初期や超妊娠初期といわれる妊娠0週から妊娠12週目ころは、胎児の中枢神経系、呼吸器系、循環器系、消化器系など臓器や器官のすべてが形成されます。そして妊娠13週目以降から臨月までに、胎児の頭髪、爪、筋肉、皮下脂肪、眼、聴覚、性器などが完成してゆきます。
妊娠初期だけではなく、妊娠する以前からの母体の食生活や健康が、胎児の発育そして出生後の子どもの健康に大きく影響を与えるということも重要なポイントです。
海外では「Developmental Origins of Health and Disease(DOHaD)」と呼ばれる医学研究結果の重要性をうたっています。今から25年以上前に「低出生体重児として生まれた子どもは、成人後に冠状動脈心臓疾患を発症するリスクが高い」という事実が証明されました。この研究により、現在では「胎児が置かれている子宮内での環境そのものが、その人の生涯の健康と慢性疾患の発症起源となる可能性がある」と理解されるようになりました。また、「すでに受精卵のときからの過少栄養、過剰栄養、母体が抱く心理的ストレス、貧しい生活環境や失業といった母体が受ける社会的ストレスは、出生児の成人以降の心血管疾患だけではなく、糖尿病や骨粗しょう症の発症にも関係している」と主張する医療関係者もいます。つまり、胎児の子宮内で受けた環境や栄養そして低出生体重児で生まれたという事実は、結果的に出生児の慢性疾患へとつながり、次世代まで受け継がれる可能性があるという指摘です。
増える低出生体重児
厚生労働省の報告では、日本での低出生体重児(2,500g未満)の割合は増加傾向にあり、現在では出生児の約10%(2011年時点)が低出生体重児として生まれてきています。母体の年代別統計では、母親が10代と40代の場合、低出生体重児が生まれる割合が約20%弱まで上がっています。
低出生体重児が生まれる原因としては、以下のようなものが指摘されています。
・妊娠高血圧症候群
・常位胎盤早期剥離、前置胎盤
・子宮頸管無力症
・母体の痩せや感染症
・多胎妊娠
・羊水過多症や羊水過少症
・妊娠中の喫煙などの生活習慣
・歯周病
妊娠初期の外食について
妊娠初期に、妊娠経過が順調で、つわりもひどくなく、体調が良ければ、1つの気分転換の方法として、外食をしてみるのもよいでしょう。妊娠中の外食時に気をつけたい点があるので是非覚えておいてください。
妊娠初期の食事の基本は、量ではなくバランスです。主食、副菜、主菜、牛乳や乳製品、果物、の5つをバランスよく組み合わせます。主食(ごはん、パン、麺類など)は、エネルギーの源になりますが、過剰摂取は高血糖を引き起こしますので、全体のカロリーの3分の1程度に抑える様に摂取してください。続いて副菜(野菜やきのこなど)では、不足しがちになるビタミンやミネラルそして葉酸をとることができます。主菜(お肉、お魚、大豆類、卵など)は、身体をつくり貧血防止に役立ちます。小魚や牛乳や乳製品そして果物からは、必要なカルシウムがしっかりと摂取できます。また、毎日十分な水分補給をとり、妊娠初期では一日の摂取カロリーとして約2,000kcalから多くても2,200kcalを目安基準としてください。
外食時のメニューを選ぶ際にも、栄養のバランスに配慮するとよいでしょう。ただ、あまりにもバランスばかり気にしてしまい、せっかく気分転換をしようと出かけたのに、逆にストレスを感じてしまう方は、後ほど、調節すれば、大きな問題ありません。外食の時に食べてはいけないものは、最後に解説しています。
妊娠初期にこれはOK? おすすめの栄養素と食べ物
鉄分:鉄分は、吸収率の高い「ヘム鉄」と、吸収率の悪い「非ヘム鉄」にわかれています。ヘム鉄は肉や魚や卵などの動物性食品に含まれており、非ヘム鉄は大豆製品、緑黄色野菜、果物などの植物性食品に含まれています。鉄分は胎児の発育にかかせない栄養素で、不足すると母体の貧血を引き起こします。特に妊娠後期の鉄分摂取量は出生児の体重増加に良い効果をもたらしますので積極的にとってください。植物性食品の非ヘム鉄は、ビタミンC、そしてお肉やお魚などのタンパク質といっしょに食べると吸収しやすくなります。また、昔の鉄瓶を使って沸かした湯を使って調理をすると、溶け込んだ鉄分を吸収できます。湯沸かしポットの中に入れる鉄が販売されていますので、それを利用されても良いでしょう。また、鉄の鍋やフライパン等を使われても、同様の効果が期待できます。
なお、せっかく鉄を摂っても、その直後に緑茶や紅茶などを飲んでしまうと、吸収できなくなります。これは、茶に含まれているタンニンが鉄と結合してしまうためです。食後2時間程度は、お茶を控えらた方が良いでしょう。
葉酸とビタミン群:ほうれん草、ブロッコリー、アスパラガス、カボチャ、チンゲンサイ、納豆、イチゴ、マンゴー、オレンジなどに多く含まれています。葉酸は、胎児の細胞分裂や発育に重要な栄養素です。妊娠前より十分に摂取されていれば、神経性管閉鎖障害(脳や脊椎の先天異常)のリスクを減らしてくれます。通常の食事で必要量は摂取できますが、偏食により不足しますので、妊娠中は毎日摂取するように心がけましょう。
カルシウム:牛乳やヨーグルトなどの乳製品、納豆や豆乳などの大豆製品、緑黄色野菜、小魚、海藻類に多く含まれています。カルシウムは、胎児の骨や発育に大きく関わってきます。カルシウムの吸収を助けるビタミンD(サケ、サバ、イワシ、卵など)もいっしょにとってください。
妊娠初期にこれはOK? 食べられる人が多いもの
アイスクリーム、チョコレート、甘いもの、ファーストフード、油っこいもの、ラーメン、フライドポテトやポテトチップス、焼肉などを妊娠中に限って食べたくなる方が多くいるようです。
これらの食品で注意したい点が、含まれている糖質による高カロリーです。またファーストフードやポテトチップスなどは塩分がかなり多いです。体重制限が出ていたり、肥満の人であれば体重管理の妨げとなり、妊娠中期以降に妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群を引き起こしかねませんので十分注意しましょう。「週に1度」などと、自分なりに決めてみるのもよいかもしれません。
焼肉を食べる際に注意したい点は、しっかり焼くこと、そしてレバー系は避けることです。生の状態で食べると、トキソプラズマの感染が起こることがあります。生ハムやローストビーフ等も内部は生肉と考えてください。野生動物の肉(シカやイノシシなど)は、絶対に生で食べないでください。特にレバーはE型肝炎の原因となり、非妊婦でも死亡することがあります。また、意外に塩分が多いため、できる限り薄味を心がけてください。
辛いものは大丈夫?
また、キムチやカレーライスなど辛いものを食べたくなる人も多くいます。辛いものは妊婦や胎児にとって問題はありませんが、塩分のとりすぎに気をつけてください。キムチを含む漬け物にはかなりの量の塩分が含まれていることがありますので、注意が必要。また、辛いものは食べ過ぎると胃を刺激するので適度な量を守りましょう。
酸っぱいものは?
梅干しなど酸っぱいものを食べたくなる人も多くおられます。酸味そのものは全く問題無いのですが、梅干しで注意したい点は、やはり塩分量です。梅干し一粒の塩分量は平均1gから2gといわれています。比較としてお醤油に含まれる塩分は小さじで約1gといわれています。妊婦に限らず一般的に塩分のとりすぎは、高血圧、生活習慣病の発症リスクがあがりますので、注意が必要です。厚生労働省では、成人女性の塩分摂取量上限を1日7g以下と設定しています。一方、WHO(世界保健機関)では5g、米国でも6gを上限としているため、日本は塩分への注意が必要です。
苦手な人が多いものは何?
妊娠すると嗜好が大きく変わり今まで好きだったのに食べられない、あるいはその逆もあります。妊娠初期のつわりがひどい時期には、ニオイが強いものを苦手とする方が多いようです。あるサイトが実施したアンケートでは、妊娠中に嫌いになった食べ物として、お肉、ごはん、ニンニク、魚、玉ねぎ、コーヒー、カレー、甘いもの、納豆、だし類(和風だし)が上位にあがっています。ただし、これらがまったく平気な方もいらっしゃいますので、好みは千差万別といえます。どうしてもにおいが気になる場合の対策としては、冷蔵庫で冷やしておくことです。冷めた食品は臭いが少ないため食べやすくなります。
食べてはいけないものは?すすめられないものは?
「摂取してはいけない食品」等は以下の通りです。外食の際でも、変わりませんので、できるだけ注意を払うことが重要です。
うなぎなどビタミンAが多いもの:妊婦のビタミンAの1日摂取上限は「3,000・RE」とされています。うなぎはビタミンAが豊富で、かば焼き1串約80g程度に約1,200・REが含まれています。妊婦のビタミンAの過剰摂取は胎児の形態異常を発生するリスクが高いといわれていますので、一度に大量を摂取する事は避けた方が良いでしょう。他には、ビタミンAを多く含むものは、レバー、フォアグラ、あんこう、きも、うなぎ、ほたるいか、などがあります。これらの食材約100g摂取で容易に1,000・REを超えてしまいます。1日の推奨量は成人女性であれば約650・REから700・RE程度ですので、毎日レバーやうなぎなどを食べるなど、過剰摂取しなければ大きな問題はないでしょう。食品標準成分表などを利用して普段から摂取量を把握し、妊娠初期のビタミンAの過剰摂取を避けておきましょう。なお野菜や果物のβカロチンはプロビタミンAといわれ別物です。先天異常には関係ありません。
刺身とお寿司:妊娠中に刺身とお寿司を食べることにまったく問題ありません。ただ、自然界の大型の魚介類に含まれている水銀濃度が胎児への聴覚反応への影響を与えるといわれているため、魚介類の種類と量に気を配ってください。妊婦が摂取できる魚介類の量と種類にも制限が出ています。この制限は、刺身だけでなく、焼き魚、煮魚などを合わせた量として考えてください。
特に注意が必要なく制限なく食べられる魚介類→キハダ、ビンナガ、メジマグロ、ツナ缶、サケ、アジ、サバ、イワシ、サンマ、タイ、ブリ、カツオなど
80g週1回摂取が可能な種類→キンメダイ、メカジキ、クロマグロ、メバチ
80g週2回(1週間160g)摂取が可能な種類→キダイ、マカジキ、カサゴ、ミナミマグロ
刺身一切れあるいはお寿司一貫は約15g程度ですので、食べたいお魚の種類と量を是非計算してみましょう。また刺身とお寿司のネタは鮮度が良いものを選んでください。生臭いと思ったら、食中毒にならないためにも食べるのをやめましょう。食べて良いものなどは、厚生労働省から出されているファイル(http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/suigin/dl/051102-2a.pdf)を参照したり、産婦人科医や栄養士に訪ねてみるのもよいでしょう。
チーズのなかのナチュラルチーズ:ナチュラルチーズとは、乳を固めて発酵熟成させたもので種類は豊富です。代表的なものに、ゴーダ、チェダー、ブルー、ロックフォール、ゴルゴンゾーラ、カッテージ、クリーム、カマンベール、などがあります。妊娠中はナチュラルチーズのリステリア菌に感染しやすく、リステリア食中毒を発症するリスクが高くなっているため、ナチュラルチーズを加熱しないで食べる事は避けてください。リステリア菌は食品を介して感染し、冷蔵庫の中でも菌が増殖するタイプです。リステリア菌は、生ハム、スモークサーモン、パテなどにも潜んでいる可能性があります。
妊娠初期の食べ物について注意点や食材などをご紹介しました。妊娠初期の栄養摂取に不安を感じている方や、疑問が解決されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?「病院に行くまでもない」と考えるような、ささいなことでも結構ですので、活用してください。
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