胃下垂の検査と治療 放置はダメ?手術や薬が必要?効果は?
- 作成:2016/09/20
胃下垂が疑われ場合、レントゲンでわかります。治療の必要性や、手術や漢方薬を含む薬の意味を含めて、医師監修記事で、わかりやすく解説します。
この記事の目安時間は6分です
目次
胃下垂の検査 レントゲンでわかる?
胃下垂の検査は、一般的に腹部のレントゲン検査(X線検査)を行います。X線を当てると、胃下垂の場合、胃の曲がり角である「胃角部」という部分が、おへそより下の骨盤内にまで落ち込んでいる状態が観察できます。特に健康診断などでは、バリウムという「造影剤(形がをわかりやすくするための薬)」を用いて、胃の構造を見やすくして検査します。バリウムを用いたレントゲン検査は胃がんの検診で最初に行われる検査でもあり、検診で胃下垂が発見される場合もあります。
一般的な検査の流れとしては、まず検査用のガウンに着替え、バリウムを飲みます。次に胃を膨らませて観察しやすくするために発泡剤を飲みます。この際、げっぷが出やすくなりますが、検査の間はできるだけがまんするようにします。検査中は造影剤を胃の壁にまんべんなく付着させるために、機械が動いて身体をいろいろな向きに変えます。撮影自体は数分で終了し、検査後はバリウムを排泄するため水を多く飲んだり、下剤を使用します。
胃下垂の検査というよりは、一般的には胃がん検診で経験する機会が多いかと思いますが、レントゲン検査で何か異常があれば「内視鏡検査(胃カメラ)」などのより詳しい状況が把握できる精密な検査を行っていくこととなります。また、胃下垂では、胃の蠕動(ぜんどう)運動が低下している場合もあり、バリウムが胃から十二指腸へ排出されるのが遅れることが観察できます。ただし、胃下垂自体は症状がなければ病的なものではありませんので、治療の必要はありません。
胃下垂は、そもそも治療する必要がある?放置はだめ?
胃下垂の治療の必要性については、胃下垂が病気であるのかという疑問とも重なってくる問題ですが、そもそも「胃下垂」という名前は病名ではなく、胃の状態を表わしているにすぎません。したがって、一人ひとりお腹を壊しやすい、乗り物に酔いやすいなど体質が異なるように、胃下垂も同様に捉えればよいかと思います。
問題となるのは胃下垂によって、何らかの症状があるかどうかということです。胃下垂、あるいは胃の動きが悪くなり胃アトニーの状態となって、胃もたれや胃痛、さらには胃潰瘍など病的な症状が出てくれば、治療が必要であると言えるでしょう。逆に、たまたま撮ったレントゲン検査で医師から「胃下垂があるね」と言われたとしても、症状が無かったり、ごく軽度で気になることがないようであれば、治療の必要はまったくありません。
もし胃下垂があって、胃の不快な症状がある場合には、一度胃カメラなどの検査を行って、他の胃潰瘍、がんといった病気が隠れていないかチェックをすることも大切になります。
胃下垂の治療概要
胃下垂は胃の機能あるいは形の異常であり、胃下垂自体に病気としての意義はありません。そのため、症状のない胃下垂に対しては治療の必要はありません。 症状がある場合には、まず他の胃の重要な疾患である胃潰瘍や胃がんが無いことを検査で確認します。検査で何か異常があればそちらの治療を優先しますし、検査で何も異常がなければ、胃下垂であることを認識したうえで、不安を取り除くことが大切になります。胃下垂による胃の不快感や種々の症状はストレスなど心因的な要素も強く影響していると言われていますので、そうした要因を取り除くことがまずは重要です。
それでも改善が見られない場合には、食事療法や薬物療法が選択されます。手術もありますが、現在では手術まで行うことはあまりありません。したがって、基本的には症状が改善せず、治療の対象となった場合には食事の摂り方を見直して、薬物療法で症状を取り除いていくということになります。
胃下垂で手術をすることがある?
胃下垂の場合、食事療法や薬物療法を行いながら上手に付き合っていくというのが基本的な姿勢になります。ただし、胃下垂の治療法の選択肢として手術もあります。胃下垂に対して行われる手術は「胃吊り上げ固定術」と言い、その名の通り胃を吊り上げて元の位置に戻す手術があります。しかし、胃下垂はがんなどのように命に関わるものではなく、日々の生活に気を付けることである程度コントロールもできるため、実際のところ胃下垂を治すという目的で手術に踏み切る方はあまりいらっしゃいません。手術自体は身体への侵襲も決して少なくありませんので、手術という選択肢は現実的でないというのが一般的と言えます。
胃下垂に薬がある?
胃下垂は、胃が物理的に骨盤のほうに垂れ下がった状態になることですので、薬によって胃下垂自体を治すことはできません。したがって、薬物療法はそれぞれの症状に対症療法として行っていきます。
まず胃の痛みに対しては「制酸薬」という薬などが効果的です。制酸薬は分泌された胃酸を中和する薬で、成分としては「炭酸水素ナトリウム」などがあります。また、酸の分泌を抑制する薬としてはプロトンポンプ阻害薬である「オメプラゾール」や「ランソプラゾール」、H2受容体拮抗薬である「ファモチジン」なども使用されます。吐き気や嘔吐がある場合には、さらに制吐剤(吐き気を抑える薬)や自律神経調整剤などを使用します。胃下垂による症状の出現は、ストレスなどの心因的要因が加わっていることが多いとされており、抗不安薬も有効とされています。
同時に、胃潰瘍や胃がんなどの原因として知られるようになった「ヘリコバクター・ピロリ」という細菌(いわゆるピロリ菌)に感染している場合では、除菌によって症状の改善が見られる可能性がありますので、除菌治療(プロトンポンプ阻害薬+アモキシシリン+クラリスロマイシンなど)が行われる場合もあります。
胃下垂に漢方薬が効く?
漢方薬が使われる場合もあります。効果としては、胃腸が弱い、食欲がない、手足が冷えやすいなど胃炎や胃下垂の人に合った薬として「六君子湯(りっくんしとう)」や、消化機能が衰えている方に「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」、「半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)」などが有効とされています。ただし、漢方薬も個人に合ったものを選択することがベストですので、漢方に詳しい医師や薬剤師に相談してから飲み始めることをお勧めします。
【医師による医療ページ評価 - Doctors Review】
【胃下垂関連の他の記事】
- 胃下垂の原因と予防方法 なる方法がある?メリットはない?
- 胃下垂の症状 吐き気、胃もたれ、腰痛、便秘、おならとの関係は?げっぷ、胃痛、下痢が起きる?
- 胃下垂のチェック方法 食後にお腹が出る?「大食い」「太らない」のはサイン?
- 胃下垂のセルフケア 筋トレ、逆立ち、運動に効果あり?ない?
- 胃下垂と妊娠 つわりや出産に影響する?しない?
胃下垂の検査・治療についてご紹介しました。身に覚えのない胃の不調に不安を感じている方や、疑問が解決されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?「病院に行くまでもない」と考えるような、ささいなことでも結構ですので、活用してください。
関連するQ&A
関連する記事
このトピック・症状に関連する、実際の医師相談事例はこちら
病気・症状名から記事を探す
- あ行
- か行
- さ行
-
- 災害
- 再放送
- 子宮外妊娠
- 子宮筋腫
- 子宮頸がん
- 子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がん
- 子宮頸がん検診・検査
- 子宮頸がんの症状
- 子宮頸がんのリスク・予防
- 子宮内膜症
- 脂肪肝
- 手術
- 出産後の症状・悩み
- 出産準備・入院
- 食事・授乳・ミルク
- 食欲
- 心臓病
- 自閉症
- 女性
- 自律神経失調症
- 腎炎・腎盂炎
- じんましん(蕁麻疹)
- 膵臓がん
- 睡眠
- 髄膜炎
- 頭痛薬、副作用
- 性器の異常・痛み
- 性器ヘルペス
- 性交痛
- 成長(身長・体重など)
- 性病検査
- 性欲
- 生理痛(生理・月経の痛み)
- 生理と薬(ピルなど)
- 生理不順・遅れ(月経不順)
- 摂食障害
- 切迫早産
- 切迫流産
- セミナー・動画
- 前立腺
- その他
- その他アルコール・薬物依存の悩み
- その他胃の症状・悩み
- その他うつの病気・症状
- その他エイズ・HIVの悩み
- その他肝臓の病気
- その他外傷・怪我・やけどの悩み
- その他心の病気の悩み
- その他子宮頸がんの悩み
- その他子宮体がんの悩み
- その他子宮の病気・症状
- その他出産に関する悩み
- その他腫瘍の悩み
- その他消化器の症状・悩み
- その他腎臓の病気・症状
- その他生理の悩み・症状
- その他臓器の病気・症状
- その他皮膚の病気・症状
- その他卵巣がんの悩み
- その他卵巣の病気
- その他流産の症状・悩み
- た行
- な行
- は行
- ま行
- や行
- ら行
協力医師紹介
アスクドクターズの記事やセミナー、Q&Aでの協力医師は、国内医師の約9割、33万人以上が利用する医師向けサイト「m3.com」の会員です。
記事・セミナーの協力医師
-
白月 遼 先生
患者目線のクリニック
-
森戸 やすみ 先生
どうかん山こどもクリニック
-
法村 尚子 先生
高松赤十字病院
-
横山 啓太郎 先生
慈恵医大晴海トリトンクリニック
-
堤 多可弘 先生
VISION PARTNERメンタルクリニック四谷
-
平野井 啓一 先生
株式会社メディカル・マジック・ジャパン、平野井労働衛生コンサルタント事務所
Q&Aの協力医師
内科、外科、産婦人科、小児科、婦人科、皮膚科、眼科、耳鼻咽喉科、整形外科、精神科、循環器科、消化器科、呼吸器科をはじめ、55以上の診療科より、のべ8,000人以上の医師が回答しています。