高プロクラチン血症の原因、症状、治療、予防 妊娠できない?母乳が出る?自然治癒の可能性や男性への影響は?

  • 作成:2016/10/17

高プロクラチン血症は、血液中の「プロクラチン」というホルモンが異常に多くなってしまう病気です。女性の場合は、妊娠できなくなるなどの影響が出ますが、男性にも症状があります。原因、治療、予防方法などを含めて、専門医師の監修記事で、わかりやすく解説します。

近藤恒正 監修
落合病院 副院長
近藤恒正 先生

この記事の目安時間は6分です

目次

高プロラクチン血症とは?難病なの?

高プロラクチン血症とは、血液中の「プロラクチン」というホルモンが異常に多くなってしまうという状態です。「ホルモン」というのは、体の機能のバランスを調整する物質です。プロラクチンは「脳下垂体前葉」という脳の一部から分泌されるホルモンです。「プロラクチン」には、母乳の産生を促したり、妊娠状態を維持したり、母性を誘導したりする働きがあります。

妊娠中や、出産後の一定期間にプロラクチンがたくさん分泌されるのは正常なことなのですが、妊娠中や出産後ではないのに、プロラクチンの血中濃度が上がってしまった場合、「高プロラクチン血症」と呼ぶのです。

原因は、様々ありますが、特に脳の下の方にある下垂体(かすいたい)という部分が異常に増殖してしまう「下垂体腫瘍(かすいたいしゅよう)」が原因のものは、難病にも指定されています。しかし、決して治りにくいというわけではないので、過剰に不安に思う必要はありません。

高プロラクチン血症の原因 ストレス、ピル、精神疾患の薬が関係?甲状腺に異常?

高プロラクチン血症の原因で最も多いのは、「プロラクチノーマ」と呼ばれる下垂体腫瘍によるものです。プロラクチンは脳の一部である「下垂体」という部分から分泌されるのですが、その下垂体の細胞が異常に増殖してしまい、プロラクチンが大量に分泌されるようになってしまったものをプロラクチノーマとよびます。多くは20歳から40歳代に発生し、女性だけでなく男性にも見られます。

次に多い原因としては、脳の視床下部(ししょうかぶ)という場所の異常です。視床下部は、体全体のホルモンのバランスを司る司令塔のような場所で、ここに異常があるとホルモンのバランスが崩れてしまい、高プロラクチン血症を引き起こしてしまいます。多くの場合は視床下部の働きが病気によって弱まることによって引き起こされますが、中には目立った異常がないのにもかかわらず、視床下部が弱い指令しか出さなくなってしまう事もあり、その場合は出産に引き続いて起こることが多いといわれています。

ほかの原因として挙げられるのは、飲んでいる薬によるものです。代表的なのは、吐き気を抑える薬である「シメチジン」「スルピリド」などの制吐剤(せいとざい)、不安を抑える薬であるハロペリドールなどの向精神薬(こうせいしんやく)などで、これらの薬を使っている場合に中程度の高プロラクチン血症を起こす場合があります。

また、「甲状腺(こうじょうせん)」という、成長ホルモンなどを出す器官の働きが低下することでも、高プロラクチン血症はおこります。甲状腺の働きが悪くなると、悪化を感知した脳が「甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)」というホルモンを出します。しかし、ホルモンは甲状腺を活発にするTSHというホルモンだけでなく、プロラクチンの出る量も増やしてしまうので、結果として血液中のプロラクチン濃度が高くなってしまいます。

なお、血液中のプロラクチン濃度は日によって変動し、ストレスによってもプロラクチン濃度が上がることが知られていますが、ストレスだけで高プロラクチン血症になるとは考えにくいでしょう。多くはほかの原因と合わせて、夜間や強いストレスがかかったときのみに、血液中のプロラクチン濃度が上がる「潜在性高プロラクチン血症」のきっかけとなることが多いようです。

高プロラクチン血症の症状 基礎体温に異変?生理不順に?母乳が出る?不妊になる?

高プロラクチン血症の主な症状は、以下の3つです。

・生理が正常に来なくなる「無月経」
・妊娠出産していないのに母乳が出る「乳汁漏出(にゅうじゅうろうしゅつ)」
・不妊

「プロラクチン」というホルモンは本来、妊娠期及び授乳期にたくさん分泌され、体が回復して準備が整うまで、次の赤ちゃんができにくいようにし、赤ちゃんのための母乳がたくさん出るように働きかけるホルモンです。

プロクラチンが、様々な原因で、妊娠などをしていないのに多く分泌されると、体が勘違いして母乳を作り始めたり、赤ちゃんを作らないようにしたりしてしまうので、上に書いたような3つの症状が見られるようになります。

ただし、無月経とはいっても、最初からぴたりと生理が止まってしまう事はまれで、多くは生理不順が先に現れます。生理不順からはじまる場合、基礎体温の低温期が長くなりはじめ、逆に高温期の長さが短くなってくる場合が多いようです。また、乳汁漏出についても、名前の通りあふれるように出る人もいますが、そこまで多く出る人は少なく、人によってはただの水のような母乳がほんの少ししか出ないといった場合もあります。高プロラクチン血症の疑いを持ったときは、基礎体温の変化と合わせて、細かい症状がないかどうかを気にかけると気付きやすい可能性があります。

妊娠関連以外の高プロラクチン血症の症状 肥満、頭痛、吐き気が起きる?

高プロラクチン血症には、様々な原因がありますが、その原因によっては、ほかの症状が起こってくる可能性もあります。例えば以下のようなものがあります。

「プロラクチノーマ」という腫瘍が原因の場合、不妊などに加えて腫瘍の圧迫による頭痛や吐き気、視力低下、視野欠損(目の見える範囲が徐々に狭まっていく症状)などの症状が現れることがあります。
甲状腺の機能低下が原因の場合には、代謝が落ちることによるむくみ、無気力、体重増加などが症状として現れることがあります。

また、高プロラクチン血症自体が長引いたときの症状として、「骨粗しょう症(こつそしょうしょう)」という、骨がもろくなってしまう病気を引き起こすことがあります。これは、骨を丈夫にする作用のある「エストロゲン」という女性ホルモンが減ってしまうためで、エストロゲンの減少で骨がどんどんともろくなっていってしまうのです。

高プロラクチン血症は男性にも影響?

プロラクチンは「女性ホルモン」に分類されていますが、男性にもきちんと存在しているため、割合は少ないですが、男性が高プロラクチン血症になる可能性もあります。男性の場合、主な症状が女性とは異なり、性欲減退や陰萎(いんい、男性の性機能不全)がみられます。また、病状が進行したときには乳汁漏出が見られる場合もあります。そのほかの症状は女性と同じで、背後にある原因によっては、頭痛、視力低下、体重増加などがみられる可能性があります。

男性の場合は目立った症状が出るまでに女性よりも時間がかかるため、病気の発見が遅れる場合が多いようです。心配な場合は、「高プロラクチン血症ではないか」ということを医師に伝えてみるのもよいかもしれません。

高プロラクチン血症の自然治癒、治療しないで自然妊娠する可能性はある?

腫瘍が原因だったり、あるいは甲状腺などのほかの器官の異常が原因だったりするような、原因がはっきりとしている高プロラクチン血症の場合、自然治癒するということはほとんどありません。また、増えたプロラクチンによって体全体も完全に子供を作らないような方向へと変化してしまうため、治療せずに妊娠するのはかなり難しいでしょう。ただし、高プロラクチン血症であるからといって必ず妊娠しないというわけではないので、子供をつくる予定がないのであれば、しっかりと避妊はするようにしてください。

もし、プロラクチノーマや甲状腺の機能低下が原因だった場合は、それらの病状の進行に伴って、視野欠損や体重増加などの症状が現れてくる可能性もあります。「症状が重くないから」といって放置はせず、早めの治療を行う事が望ましいです。

高プロラクチン血症と流産、不育症の関係

高プロラクチン血症では不妊になるため、赤ちゃんができた時に流産や早産になるのではないか、あるいは流産や死産を繰り返してしまう不育症につながってしまうのではないか、という心配があるかもしれません。しかし、流産、早産、不育症の心配は全くありません。

そもそもプロラクチンは妊娠期に多くなるのが自然なことで、体を妊娠、授乳に向けて整え、むしろ妊娠を維持してくれる働きもあるのです。ただし、病気や、飲んでいる薬についての不安を抱えたまま妊娠期間を過ごすのは、母体にとっても赤ちゃんにとっても良くないことですので、心配事があるのであればしっかりと医師に相談しましょう。相談しても、不安が解消されない場合は、ほかの医師にきいてみるのも選択肢のひとつです。

高プロラクチン血症は授乳に影響する?しない?

前にも述べた通り、妊娠、授乳期はプロラクチンが増えるのが当たりまえで、そのことによって赤ちゃんのための母乳がたくさん作られるようになます。したがって、高プロラクチン血症によって母乳が出なくなったり、あるいは母乳に何か影響が出て授乳できなくなるということはありません。ただし、重い高プロラクチン血症の場合は、授乳期間中も薬を飲まざるをえず、母乳が出にくくなる可能性があります。その場合は、健康状態と母乳の状態のバランスをよく医師と相談して、薬の量等を決めるようにしましょう。

高プロラクチン血症は乳がんと関係がある?ない?

高プロラクチン血症は乳汁漏出がみられるため、乳房の病気と思われがちですが、実際には体全体のバランスを調節するホルモン、ひいてはホルモンを分泌する脳の一部に関連した病気といった方が正しいです。なので、乳房の病気である乳がんと直接の関係はありません。

乳がんの原因として、「エストロゲン」という女性ホルモンの関係が指摘されているため、全くの無関係ということもでないのも事実です。ただし、関係があるとしても、プロラクチンはむしろエストロゲンを抑える方向に働くため、高プロラクチン血症のせいで乳がんになりやすくなる、ということは無いと考えられます。

高プロラクチン血症?何科にいく?

症状が無月経や不妊となるので、まずは産婦人科にかかるのがよいでしょう。ただし、「不妊」だけの症状を伝えてしまうと、正しい治療が行えない可能性もあるので、無月経や生理不順、乳汁漏出などが見られる場合は、他の症状も含めて、しっかりと伝えましょう。

男性の場合は、内科にかかって症状を伝えるのがよいと考えられます。いずれの場合も、原因によっては、脳神経外科や内分泌内科などのほかの診療科を勧められる可能性もあります。

高プロラクチン血症の検査はどんなもの?基準の数値とは?費用はどれくらい?

高プロラクチン血症が考えられる場合には、その検査検査として主につぎのようなものがあります。

1つ目は血液中のプロラクチン濃度をそのまま測定するやり方で、プロラクチン濃度が「20ng/ml(ナノミリグラム)」を超えると高プロラクチン血症と診断されます。ただし、プロラクチン濃度は変動が比較的大きいため、何回か測定を行ってから診断をする必要があります。

次に高プロラクチン血症の原因を調べるために画像診断を行うことがあります。磁気によって体の中の写真を撮ることができるMRIを用いて、頭部の画像を撮ることで、高プロラクチン血症の一番の原因である「プロラクチノーマ」があるかどうかをチェックします。

さらに、負荷試験と呼ばれるもので、日中は正常であるために見つけにくい潜在性高プロラクチン血症を診断するために用いられます。いくつか種類がありますが、最もメジャーなのはホルモン分泌を調整する「TRH」というホルモンを投与する方法で、その結果によってある程度高プロラクチン血症の原因を探ることができます。

費用はそれぞれ保険適用で、5000円から10000円の間で受けられるところが多いようです。一度にすべてを受けなければならないわけではないので、まずは血中プロラクチン濃度を測定する検査を受けてみるのが賢明でしょう。

高プロラクチン血症の治療期間の目安

高プロラクチン血症の治療では薬を飲むことがほとんどですが、原因自体は様々なので、治療期間にも幅があります。薬の副作用で、高プロラクチン血症が引き起こされている場合は、医師の指示で薬の服用をやめた後、数カ月ほどで改善する場合もあります。逆に「プロラクチノーマ」という腫瘍や甲状腺の異常が原因だった場合は、それらの治療から始めることになるので、数年単位になる可能性もあります。一番確実なのは、医師にかかって診断を受けた後、どれくらい時間がかかるかを聞いてみることでしょう。

高プロラクチン血症の治療薬カバサールの作用機序と副作用

高プロラクチン血症の治療で主に使われるのが、「カバサール」という薬です。カバサールは、脳から「ドーパミン(ドパミン)」というホルモンが出るように働きかける作用があり、ドーパミンが下垂体に作用すると、プロラクチンの放出を抑えてくれます。プロラクチノーマが原因の場合は、薬が腫瘍の細胞の働き抑えることで、腫瘍自体の大きさを小さくしていく働きもあります。

副作用としては、吐き気、嘔吐(おうと)、食欲不振や胃の不快感など、胃腸の症状がよくみられます。特にひどい場合は医師に相談して「ドンペリドン」などと呼ばれる吐き気止めを処方してもらうとよいでしょう。また、めったにありませんが、勝手な判断で急に薬を飲むのをやめた場合、高熱、体のこわばり、意識障害などが現れる悪性症候群に陥る可能性もありますので、薬をやめたい場合は必ず医師に相談しましょう。

高プロラクチン血症に漢方薬がある?きく?

一般的に東洋医学では、「炒り麦芽」などがプロラクチン濃度を下げ、高プロラクチン血症の治療に役立つとされているようです。古来、中国でも断乳のために用いられていたそうなので、一定の効果が見込めると考えられます。ただし、比較的副作用の少ない漢方であっても、体の状態やほかの薬との飲み合わせによっては、体の調子を崩してしまう事もあるので、一言医師に相談してから服用を始めるのがよいでしょう。

高プロラクチン血症の治療 どうなれば妊娠が可能になる?

プロラクチンの正常値は女性で約3ng/mlから15ng/mlなので、定期的な検診で値がこの間に落ち着いて来れば、排卵も正常に行われ、妊娠が可能になるでしょう。ただし、一度値が正常になったからといってすぐに薬の服用をやめてしまうと、また元に戻ってしまう可能性もあるので、基本的には医師がよいというまで飲み続けることになります。

また、薬の服用中に妊娠した疑いがある場合は、すぐに医師に相談してください。妊娠期間中であればプロラクチンの値は高い方がよく、薬で抑え続けてしまうとよくない影響がある可能性があるため、一般的には薬の服用を中断します。しかし、原因や症状の程度によっては服用をやめない場合もあるので、きちんと医師の指示を仰いでから薬を続けるかどうかを選択するようにしましょう。

高プロラクチン血症に効果のある食べ物がある?科学的根拠がある?

現時点において、しっかりとした科学的根拠があって、高プロラクチン血症に直接効果のある食べ物というのはないと考えられています。単純ではありますが、食事を考える際は、ホルモンの調子が乱れないようにバランスの良い食事を心がけるのがよいと考えられます。

また、高プロラクチン血症の治療に使われる薬は、胃腸が荒れる場合が多いので、過剰な油分や糖分は避け、消化に良いおかゆや豆腐、白身魚や鶏肉などを中心にした食事をとるのがおすすめです。ストレスによって症状が悪化する場合もあるので、あまり神経質になる必要性はありませんが、少しでも食生活を改善していければ、病気も治りやすくなるのです。

高プロラクチン血症は予防できる?できない?

高プロラクチン血症は様々な原因で起こってくるため、その原因によっても予防できるかどうかは変わってきます。例えば、「プロラクチノーマ」という腫瘍や甲状腺機能の低下が原因の場合は、体の外部からの要因でおこるわけではなく、様々な体の内部の要因の組み合わせによっておこるので、予防することは難しいです。一方で、薬剤によるものやストレスによるものは、それぞれの原因を取り除くことである程度の予防ができる可能性があります。

しかし、基本的には高プロラクチン血症は脳のホルモン分泌の異常なので、完全な予防は難しいと考えられます。特に高プロラクチン血症になるかもしれないからといって副作用が起きる可能性ある薬を飲まなくなってしまうと、正しい治療ができなくなってしまうので、お勧めはできません。薬の副作用による高プロラクチン血症はそう多くはないですし、もしなってしまったとしてもその時点で服用をやめれば改善しますので、過剰に気にする必要はないでしょう。

参考文献

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・「女性の病気について」(http://www.jspog.com/general/details_15.html) 
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・「甲状腺機能低下症」(http://www.kuma-h.or.jp/index.php?id=72)
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・「乳がん」(http://ganjoho.jp/public/cancer/breast/) 2016年8月11日最終アクセス
・「カベルゴリン:カバサール」(http://www.interq.or.jp/ox/dwm/se/se11/se1169011.html)
2016年8月11日最終アクセス
・「不妊症の周期療法(6) ―高プロラクチン血症について―」
(http://kanpodou.com/modules/hygiene/index.php?content_id=30)
2016年8月11日最終アクセス

高プロクラチン血症についてご紹介しました。「不妊かも」などの不安を感じている方や、疑問が解決されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?「病院に行くまでもない」と考えるような、ささいなことでも結構ですので、活用してください。

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