「他人の評価が気になってつらい」 ラクになるには自己肯定感よりも“自己受容感”
- 作成:2021/06/13
「みんなにどう思われてるだろう?」 「変な風に見られていないかな?」 などなど、”他人の評価”はだれでも気になってしまうものです。 他人の評価が気になりすぎると、人前が怖くなるばかりか病気になってつらい思いをすることも……。今回のコラムでは、そんなつらさをラクにするちょっとしたコツをお伝えしていきます。
この記事の目安時間は3分です
0.はじめに
「みんなにどう思われてるだろう?」
「変な風に見られていないかな?」
などなど、”他人の評価”はだれでも気になってしまうものです。
これに対して
「好きなことだけやればいい」
「自己肯定感を高めればいい」
こんなアドバイスもよく聞くと思います。
でもわかっているけど、なくならないのが「他人の評価が気になってつらい」です。
他人の評価が気になりすぎると、人前が怖くなるばかりか病気になってつらい思いをすることも……。今回のコラムでは、そんなつらさをラクにするちょっとしたコツをお伝えしていきます。
1.「他人の評価が気になってつらい」は治せる!
人はどうしても他人の評価が気になってしまうものです。だから、他人の評価を受ける場面で緊張するのは当たり前のこと。
人はここぞというときに、活動のための自律神経=交感神経が活発になります。交感神経には集中力や心臓の活動などを高める働きがあります。これはいい意味の緊張で、実力を発揮するのに必要なものです。
しかし交感神経の働きが活発になりすぎると、頭が真っ白になったり、息が苦しくなったり、声や体が震えてしまったりして実力を発揮できなくなってしまいます。あまりにひどいと過呼吸発作などを起こしてしまうこともあります。これが緊張しすぎた状態です。
緊張しすぎた状態では、実力を出し切れません。そんな状態で失敗してしまうと嫌な思い出が残り、やがて「他人の評価が気になってつらい」状態になってしまいます。
「他人の評価が気になってつらい」状態になると、ますます緊張してうまくできずに嫌な思い出ができ、他人の評価が気になるという負の連鎖に陥ってしまいます。
これがひどくなると「社交不安障害」と呼ばれる病気になることもあります。
社交不安障害は、人前に出たり人と接したりすることに強い不安を感じてつらくなり、対人場面を避けてしまう病気です。様々な調査によると、一生のうちこの病気にかかる人は3~13%もいると言われています。決して珍しくない病気と言えるでしょう。
しかし安心してください。「他人の評価が気になってつらい」はもちろん、社交不安障害になっても、適切な工夫や治療によって回復は可能です。
治療のひとつに、認知行動療法というカウンセリングがあります。他人の評価が気になりすぎている状態にアプローチする方法です。今回は認知行動療法をベースに他人の評価を気にしすぎなくなる方法についてお伝えしていきます。
2.自分でできるトレーニング
他人の評価を気にしすぎているとき、特に対人場面で緊張しすぎているとき、私たちの中では何が起きているでしょうか?
頭の中では、「変な風に見られているかも」とか「恥をかいたらどうしよう」とか、「迷惑をかけないようにしよう」などといった不安が渦巻いています。この不安は、自分に注意が向きすぎている時に起きるものです。つまり、「人前が怖い」とか「他人の評価が気になってつらい」のは自分に目が向きすぎているからなのです。
一度こうなってしまと、些細な変化、例えば声の震えや顔が火照ってくる様子などがとても強く感じられ、ますます不安が高まります。これがまた負の連鎖につながっていってしまいます。
では、どのようにしたら自分に目が向きすぎなくなるのでしょうか。対応策を3つのステップに分けてお伝えしていきます。
STEP1.注意の偏りに気づく
STEP2.外部に注意を向けてみる
STEP3.注意のバランスを整える
まずSTEP1「注意の偏りに気づく」は、あえて自分の状態に目を向けます。例えば、顔が赤くなっているなとか心臓がドキドキしているなとか、そういったものに気付いていきます。
次のステップ2では、外部に注意を向けていきます。目の前にあるものや周りの音を細部にわたって観察してみましょう。そしてステップ3では、自分と外部の両方に注意を向けてみます。ここで重要なのはバランスです。どちらか片方に注意が行き過ぎてしまってはいけません。私個人としては「自分2:外部8」ぐらいの割合で、交互に注意を向けるくらいがちょうどいいと思っています。
以上のステップは、いきなり対人場面で試すのではなく、イメージトレーニングなどを積んでからが良いでしょう。例えば、人物のイラストや写真などを見ながら練習するのです。慣れてきたら、親しい人とのやりとりで練習してみるのもよいでしょう。
3.気持ちがラクになる「自己受容感」とは?
ここまで、対人場面で緊張しすぎる時の対応策をお伝えしてきました。しかし、これだけでは「自分の評価が気になるのは変わらないよ」と感じられる方もいるかもしれません。
そういった時には自己肯定感ではなく「自己受容感」を高めることをお勧めします。この2つは似て非なる概念です。それぞれ解説しましょう。
まず、自己肯定感が高い状態とは、「自分はできる」「自分は強い」と良い側面に目を向け、「自分は前に進める、もっとできる」と自分に言い聞かせているような状態です。一方、自己受容感が高い状態は、ありのままの自分を受け入れて、その上でより前に進むためにはどうしたらいいかを考えられる状態を指します。「私はこうだから、こうすれば前に進めるし、できるようになるだろう」と肩の力が抜けた感じです。
自己肯定感を高めること自体は決して悪くないのですが、自己肯定感は他者評価と強く結びつく傾向があります。例えば、良くできると思っていたことが、周囲の指摘によって実はそれほどでもなかったと感じた時に、自己肯定感は下がってしまいます。それに比べ、自己受容感が高い状態は、周囲の指摘を糧にして、より前に進める方法を考えることができます。
したがって、他人の目を気にしないようにするためには、自己受容感が大切なのです。
自己受容感を高めるためには、自分で「変えられるもの」と「変えられないもの」を見極めることが重要です。そして、変えられるものをいかに変えていくかという視点を持ちます。
人間だれしも、得意・不得意があるものです。不得意なものを克服することは大事ですが、それよりも得意なことを伸ばして不得意なものをカバーしていく方が、効率が良いことが多いのではないでしょうか。今の自分を受け入れて、無理に背伸びをしない姿勢が大事です。
4.まとめ
いかがでしたか? もともと人間は他者の評価に敏感な生き物です。それに加えて最近ではSNSなどで他者の評価にさらされることが増えています。
この記事をヒントに少しでも皆様が日々を楽しく暮らせるようになれば幸いです。
なお、社交不安障害に対する認知行動療法は、本来カウンセラーとペアになって行なっていくものです。また、必要に応じてドクターの助言や薬物療法も重要です。自力でのトレーニングがうまくいかない時や、あまりにもつらい時は専門家に相談することをお勧めします。
弘前大学医学部卒業後、東京女子医科大学精神科で助教、非常勤講師を歴任。 現在はVISION PARTNERメンタルクリニック四谷の副院長とスタートアップへのアドバイザー業務を務めるとともに、企業や行政機関の産業医を10か所以上担当。ブログや著作、研修などを通じて、メンタルヘルスや健康経営、産業保健の情報発信も行っている。 共著に「企業はメンタルヘルスとどう向き合うか―経営戦略としての産業医 」(祥伝社新書)がある。
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