「10年前に知りたかった!」発達障害の子育てで、自己肯定感を育む「前」に必要なこと

  • 作成:2022/11/05

子育てをするにあたって、あちらこちらでいただくアドバイス。「その子の良いところを見て、自己肯定感を高めましょう」。そのこと自体は正しいと思います。しかし、子育てをして13年目の私は気が付いたのです。自己肯定感を高めるための周囲の声かけより先に、もっと必要なものがあったことを……。

外科医ちっち 監修
 
外科医ちっち 先生

この記事の目安時間は6分です

「子どもに伝わる声かけを」とは言われるけれど…

どの本にも書いていないことですが、発達障害の子育てで伝えたい経験則があります。これは子育てが辛かった10年前に私自身が知りたかったことです。

発達障害の子育ての実体験として、「自己肯定感を育もう」や「伝わる声かけを」が間違っているとは思いません。しかし、それよりもっと前段階で必要なものがあります。さて、なんでしょうか?

答えは「心と身体に体力をつけさせること」です。どういうことでしょうか。説明していきたいと思います。

急に不機嫌になり…意思疎通が「全く」不可能に

うちの3人の子どもたちは、ものすごく疲れやすいです。なぜかというと、本人たちなりに「わけのわからない『宇宙人の世界』のルール」に合わせようとしているからだと思います。頑張りすぎて疲れてしまったら、どうなるでしょうか。次に起こることは、会話や意思疎通が「全く」できなくなることです。

特にひどかったのは、幼児期の週末。3人とも公園が好きで、遊びに行くと笑顔で楽しんでいました。ところが、本当にちょっとしたことがきっかけになってしまいます。例えば、「転んだ」とか「滑り台に誰かが先に並んだ」など、何か1つ嫌なことがあると急に不機嫌になります。

うちの凸凹−外科医と発達障害の3人姉弟−「10年前に知りたかった!」発達障害の子育てで、自己肯定感を育む「前」に必要なこと

そうなると、本人が行きたいから連れて来たはずなのに、「無理矢理誘われてしょうがないから来たけど、ぜっんぜん楽しくない」。さらには「みんながぼくを嫌っている」といった無茶苦茶な態度に変わっていきます。

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5分前までニコニコ笑顔だったのに、急に話が通じなくなります。私も混乱しつつ、その都度「楽しかったね。今は疲れたんだね」と声かけをしていました。

数年経ち「話が通じなくなる」状態が減ったわけ

3人とも似たような「疲れる→極端にネガティブになり話が通じなくなる」状態が数年ほど続きました。しかし、小学校に入ってしばらくした頃に、こうしたことがやっと減っていったのです(小1の次男さんちは、まだ時々あります)。

減っていった理由は、自己肯定感が育ったとか、親側の言葉かけや努力の影響というより、「体力がついたこと」が大きいと思います。

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幼児期は、疲れた時になんとなく返事っぽい返答があっても、そこにあまり意味はありません。赤ちゃんが疲れ泣きしているのと同じです。この時期の困りごとに対しては、環境調整や言葉掛けなど、親側がどんなに自己肯定感を意識しても、本人たちに何かを注ぐことは難しかったと思います。

心と身体が成長して体力がつくまで、本人側が受け止められる器ができるまでは改善しないのです。根本的に「時間=成長」しか解決策がありません。

それでは、その体力はどうしたらつくのでしょうか?

(1)身体の体力づくり
基本はやはり、食事と睡眠と時間をかけていくしかありません。さらには、日々の抵抗が少ない「ながら運動」や「ストレッチ」で増強します。

(2)心の体力づくり
さまざまなことを親と一緒に経験して、「これはやったことがある」を増やすこと。誰でもそうですが、初めてのことは戸惑って疲れるものです。

そのため、「初めて」をなくすことで心の閾値を上げていきます。美術館や動物園、いろいろなイベントに連れ出し、「行ったことがある」「やったことがある」経験を増やすように意識しています。

親としては焦るが…唯一できることは

3人の中で1番心を砕かれて疲弊したのは、長男にっちの幼稚園時代でした。1度スイッチが入ってしまうと、何をしても改善せずに大音量で泣きながら暴れ回っていました。

しかし、10歳になった今は、2回に1回は自分なりにクールダウンができるようになりました。こちらの呼びかけに反応があり、会話ができるようになりつつあります。本に書いてあるような一般的な支援の一例、声かけの違いで少しは反応が違うことが、親側にも実感できるようになりました。

逆に言えば、少し前までは何をやっても、彼らは何も変わりませんでした。

そもそも不機嫌になり出したら、何も聞いていません。というより、意識が自分にしか向いていないので、彼らの頭の中にはこちらの言葉が届かないのです。これが「自閉」という意味なのだと思います。そのため、こちらの言葉をどうチョイスしても、彼らに影響することはないのです。

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話しかけられていること自体に子ども自身が気づけるまでは、「まだまだ体力不足なんだな。早く体力つくといいな」と思うしかありません

話の通じない時期に、親が「自分たちのやり方が悪いから、呼びかけが聞き入れられないのでは?」と、いくら考えても落ち込むだけです。

焦る気持ちは本当によく分かります。実際に経験しましたから。

言葉かけや環境調整も必要ですが、子どもとのやり取りがうまくいかなければ、結局のところ、親ができるのは待つことしかありません。現状は辛いし、子の未来を案じて焦るし、根気が必要です。

今、乳幼児を育てる保護者に伝えたいこと

子どもとの生活においては、「これいいのかな?」「こうした方が良かったかな」「この答え方で合ってるかな?」と眠る前に振り返り、反省する毎日です。

今だけを見ていると「正解」がわかりません。いろいろ試してみて、うまく行かない時には、こちら(親)の対応が適切ではないからなのか? と落ち込んだりもしました。

でも、子どもが小中学生になって10年単位で振り返ってみて、ようやく「待つ子育て」が必要だったと実感が湧いてきました。「自己肯定感を育む声かけ」を子どもが受け取るには、子ども自身の体と心の体力があることが前提である。その土壌が育っていないと、周囲からの関わりや声は彼らには届かないということを、今、乳幼児期の子育てで悩んでいる保護者の皆さまにはお伝えしたいです。

外科医師。妻(看護師はっは)と発達障害3児の育児中。記事中のイラストは、看護師はっはが担当。著書『発達障害の子を持つ親の心が楽になる本』(SBクリエイティブ)が2024年9月発刊予定。
・ブログ:「うちの凸凹―外科医の父と看護師の母と発達障害の3姉弟
・ブログ:「発達障害の生活は試行錯誤で楽しくなる
・note:https://note.com/titti2020/
・Twitter:@surgeontitti

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