発達障害の中学受験と進学に絶望。「普通に生きる」気持ちを手放す

  • 作成:2022/07/16

こんにちは。外科医ちっちです。小学校高学年以降になると、進学、進路、受験…乳幼児期とは違う悩みが出てきます。わが家も、長女いっちが小3だったある日(現在中1)、「中学受験をしてみたい」と言い出しました。いっちは、自閉症スペクトラム(ASD)の診断を受けています。

外科医ちっち 監修
 
外科医ちっち 先生

この記事の目安時間は6分です

うちの凸凹−外科医と発達障害の3人姉弟− 発達障害の中学受験と進学に絶望。「普通に生きる」気持ちを手放す

本人がやりたいのなら、応援したいのが親心です。いっちは進学塾に入りました。

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ところが、塾は小テストが多くて管理できない&毎晩23時までかかる大量すぎる宿題で泣く…という生活が続き、ヘロヘロでした。親も子もイライラして「このままでは心も体も壊れてしまう」と半年で退塾。退塾したら、もっと本人の受かりたいという強い気持ちが必要なのに、この有り様です↓。

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勉強のスケジュールを作り、点を取りに行く工夫を伝え、漫画とともに転がるいっちを叱ってみたり、励ましてみたり、放っておいてみたり、ちょっと脅してみたり…。

結果は、お察しの通りです。最終的には「みんなと同じ土俵で競い、進学することは難しい」と悟りました。LD(学習障害)を疑う長男にっちに関しては、より一般的な進学は難しいと感じます。

前置きが長くなりましたが、今日は発達障害の子どもたちの進学が困難だと感じた理由をお伝えします。皆さんには、世の中には、このような人がいるのだと知っていただけるだけで助かります。決して怠けているのではないのです。

親が悟りを開いた理由① 同年齢の子が自然とできることが、どうにもこうにも困難

そもそも他人と比べることがナンセンスではありますが、園や学校というくくりで生活している以上、避けることができません。特に受験においては。

発達障害の子どもは、実年齢の×7割程度のゆっくりした発達をしている印象です。他人の気持ちを想像するなど目に見えない抽象的なことは、中学生になってもベビー並みです。様々な訓練・工夫をしても、できないことが多くあります。

成長してもできないこと(小学校高学年)
① 物の管理・整理整頓・服薬・身だしなみ・風呂に入って体を洗う
② 会話(自分の話したいことだけ話し、聞きたいことだけ聞く)
③ 相手の気持ちを想像して行動する
④ カタカナを読む(長男・正確に読めないことがある)
⑤ 翌日の準備(明日は彼らにとって永遠に遠い)
⑥ ちょうちょ結び(何度教えてもわからないそうです)
⑦ 信号以外の暗黙の交通ルール(すれ違う時によける、曲がるときに後ろを見てから動くなど)

まあ、挙げたらキリがないです。先の見通しのなさ、世界にいるのは自分だけと感じていること、手先の不器用さなどが原因です。

一方で、ゆっくりですが、できるようになったことも、あります。

長男が高学年になってからできるようになったこと
① 教科書の文字を読む
② テストの問題文を読み、意味を理解し、聞かれたことを解答する
③ 枠の中に字を書く
④ 授業中に椅子に静かに座って、ただ先生の話を聞く

どれも小学校1年生ごろからできるようになる子が多い中、長男がなんとなくできるようになったのは、高学年になってからです。その頃には同級生と、遥かに獲得している能力や知識がかけ離れていました。そして、その差は今後も埋まらないだろうと思うのです。

クラスの同じ年の子が読める大きさの字で書いてある教科書は、長男にとっては文字が小さすぎて見えません。テスト問題も同様です。彼にとって見やすい文字の大きさは、常に2~3学年下の子向けの大きさです。

指定された枠(ほぼすべて、彼にとっては小さい)に収めるように字を書くということができません。

頭の中で考えたテストの解答内容が合っていても、スペースがなくて字が書ききれず、途中で終わることも多いです。もちろん途中で終わっているので、先生から○はもらえません。答えが合っていて、できたつもりでいる長男が、数日後に返却された×のついたテスト用紙を見て、「自分は勉強ができない」と思い込むのはあっという間でした。

このような状況でしたので、にっちがASD診断を受けた5歳の時から、「学習障害ではないか」と児童精神科医と学校に訴えています。ですが、5年間変わらず「もっとできない子はいる」「時間をかけたらできるのだから、障害ではない」などといわれて診断をつけてもらえません。困ったことに、診断がない=配慮のお願いが通りにくい、のです。

長女も長男も、授業中に騒がず机といすの場所にいることはできる子でした。

2人ともADHDの特性があります。手元の消しゴムでひたすら机の表面を消して大量の消しゴムのカスづくりに励んだり、それに飽きると上靴を足の先に引っ掛けて、ぶらんぶらんしてそれをずっと眺めたりしています。

本人に「今は椅子に座る時間」という意識があるだけまだましですが、背中を伸ばし、良い姿勢でいるなんて無理難題。椅子にのけぞって、そのまま後ろにひっくり返ることも週1ペースであります。

学校での様子がこのようなので、当然、3段階評価の通知表は2のオンパレード。1もあります。(1:がんばろう、2:普通 3:良い です)

親が悟りを開いた理由② そもそも試験で能力を図ることが向いていない

長女は情報のインプットは得意ですが、アウトプットは極端に苦手です。自分のペースを乱されるためか、読書は大好きなのに問題文は最後まで読めません。そのため、「聞かれていないことを答えに書く」という事態が頻発します。

試験に向いていないと思う彼らの生態
①気が向いたことを、気が向いたときにしかやらない
その日、「テストの気分」でなければ、解きません。問題の内容は頭に入りません。

②自己流が過ぎる
問題文を読んで、「思いついたこと」を答えます。なので、問題で問われていることを答えることが出来ません。さらに、読み終わると同時に興味もなくなっているので、数日後の採点で間違っていようが気にしません。

例えば、何をどんなふうに聞かれているかのキーワードチェックについては、小1から言い続けてきましたが、いまだに守ってくれることはなく、ケアレスミスの嵐です。

③字が汚い、色々な場所に書く→自分の数字を見間違えて間違える。
文字や式は好きな方向に広がっていきます。途中、別の文字とぶつかることもあります。書いた本人たちにも読めません。

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④テストの全体を見ることができず、最後の問題に気がつかない。
最後のページの裏に書いてある問題は特に、「あれ?解答用紙が余ったけど、問題がどこにあるのかわからなかった」とか言います。信じられません。解答用紙があまるわけないよ。

子どもたちの進学については、私自身が田舎の公立出身だったため公立の高校を考えていました。

しかし、公立高校の合格条件が「出席日数・ノートの工夫と期限内の提出・授業中の態度」であることを知りました。これはもう、先生から見て「オールマイティに何でもこなせる人」を選抜したいということでしょう。

年齢相当のことが遅れて習得している子たちです。当日の試験だけでも、本人の多大な努力と工夫、さらには配慮を必要とします。そのために、児童精神科医の診断が必要ですが、前述の通り、わが家にはその印籠がないのです。

出席・ノート・発言という「教師の気に入る生徒像」を彼らがこなすのは、とうてい難しいです。しかも、これができないのが「本人の努力不足」「やる気がない」からだと多くの先生方は考えるでしょう。そこに、1番の発達障害という目に見えにくい障害と健常の人との「透明な壁」があると感じます。

子どもたちには、自信をもって楽しく生きて欲しい。だからこそ、「普通に生きる」「世間では普通と思われていることを無理やりがんばらせること」は手放そう。その先にどんな進学先があり、どんな就業があるのか。好きなこと、心が躍る何かを見つけることはできるのか。

子どもたちとの道のない手探りの日々は続きます。

外科医師。妻(看護師はっは)と発達障害3児の育児中。記事中のイラストは、看護師はっはが担当。著書『発達障害の子を持つ親の心が楽になる本』(SBクリエイティブ)が2024年9月発刊予定。
・ブログ:「うちの凸凹―外科医の父と看護師の母と発達障害の3姉弟
・ブログ:「発達障害の生活は試行錯誤で楽しくなる
・note:https://note.com/titti2020/
・Twitter:@surgeontitti

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