妊娠中の服薬、注意点は?【医師が監修】

  • 作成:2021/07/10

妊娠中に口にするものは色々と気になるものです。飲んでも良い薬、飲んではいけない薬、その差はどこにあるのでしょうか?

アスクドクターズ監修ライター アスクドクターズ監修ライター

この記事の目安時間は3分です

妊娠中の服薬、注意点は?【医師が監修】

Q.妊娠中は、全ての薬を飲んではいけない?

A.妊娠中でも、薬を使うことで母子が得られるメリットがデメリットを上回ると判断された場合、薬を使うことがあります。

妊娠中は、「全ての薬を使ってはいけない」というわけではないですが、「全ての薬を使っても良い」というわけでもありません。時と場合によって、使える薬や避けた方が良い薬というのは個々に異なります。そのため、自分の主治医と必ず相談の上で、判断を行うようにしてください。

「使っても大丈夫な薬」と「使ってはいけない薬」の間に、「時と場合による薬」がたくさんある

薬というものは、それを使って得られるメリットがデメリットを上回る場合に使うのが基本です。妊娠中は、ここに「胎児へ影響する恐れ」というデメリットが加わるため、“より慎重に”薬を使うかどうかを考える必要があります。
たとえば、一度使っただけでも胎児に取り返しのつかない大きな障害が起こる恐れのある薬であっても、その薬を使わなければ母体を救うことができない、といった状況であれば、使うこともあります。
一方、これまでに多くの妊婦に使われ、特に胎児への悪い影響も観測されていないような薬であれば、ちょっとした不快な症状くらいでも使われることがあります。
また、同じ薬であっても、症状が軽いのであれば別の薬を使った方が良いとか、妊娠の後期にはリスクが高いので避けた方が良い、といったように、症状や妊娠の時期などの個々の状況によっては「使う」「使わない」の判断が人によって異なることもあります。

つまり、薬は「妊娠中でも大丈夫な薬」と「妊娠中には使ってはいけない薬」という2つに綺麗に分けられるのではなく、「妊娠中でもよく使われる薬」と「妊娠中は基本的に使わない薬」の間に、「時と場合によっては使うこともあるし使わないこともある薬」が結構ある、ということです。こういった意味で、自分自身がこの薬を飲んで良いかどうかを判断する際には、薬の性能だけでなく、自分自身の状況も踏まえてしっかりと考える必要があります。そのため、自分の状況をよく把握しているかかりつけの医師・薬剤師に相談することがとても大事になります。

「貼り薬なら大丈夫」・・・ではない

「貼り薬」や「塗り薬」であれば、妊娠中でも使える・・・と考える人も少なくありません。しかし、たとえば痛み止めの『ロキソニン(ロキソプロフェン)』は、胎児のとても重要な動脈に悪影響を及ぼす恐れがあるため、妊娠28週以降(※)は使わないよう注意喚起されています。これは、飲み薬に限らず、貼り薬(テープ剤、パップ剤)や塗り薬(ゲル、ローション)などでも同様です。実際、痛み止めの貼り薬で胎児の動脈発達にトラブルが起きた事例も報告されている1)ため、注意が必要です。

※米国食品医薬品局(FDA)は、2020年10月に「20週以降」の使用を避けるよう注意喚起を出しています。

「ドラッグストアで買える一般用の薬であれば、大丈夫」・・・でもない

医療用の薬はなんとなく怖いけれど、ドラッグストア等で買える一般用の薬であれば大丈夫・・・と考える人も居ます。しかし、医療用の薬でも妊娠中によく使われる薬はたくさんありますし、一般用の薬でも妊娠中には基本的に使わない方が良い薬もたくさんあります。
たとえば、「かぜ薬(総合感冒薬)」には先述の痛み止めがよく配合されています。また、「カフェイン」は1日200mg以上になると流産のリスクが高くなる可能性が指摘されています2,3)。さらに、胎児への影響がどのくらいあるかがきちんと検証されていない薬もよく使われています。そのため、妊娠中には“基本的に使わない方が良い薬”に分類されます。
また、漢方薬も身体にやさしいイメージがありますが、大黄(ダイオウ)や芒硝(ボウショウ)、牡丹皮(ボタンピ)、桃仁(トウニン)、ゴシツ(牛膝)などの生薬は子宮に影響して流産・早産リスクを高める恐れがあるとして、基本的には“避けた方が良い”とされています4)

「一般用の薬だから・・・」「天然由来の薬だから・・・」といったイメージで判断するのは危険なため、必ず医師・薬剤師などの専門家に相談するようにしてください。

“使わない方が良い薬”を「うっかり使ってしまった」場合にも、落ち着いて専門家に相談を

妊娠の初期には、「妊娠していることに気付かず、うっかりと薬を使ってしまった」ということは、よくあります。そういった場合、なぜ薬を飲んでしまったのかと自分を責めるような思いに取り憑かれる人は多く、メンタル面でも非常に大きな問題になります。
こういった場合も、焦らず、落ち着いて医師・薬剤師などの専門家に相談をして欲しいと思います。先述のとおり、薬は「妊娠中でも大丈夫な薬」と「妊娠中には使ってはいけない薬」とに綺麗に二分できるわけではありません。“具体的にどのくらいの影響が考えられるのか”は、薬の種類や量、薬を使ったタイミングなどによって大きく変わります。妊娠に気付いた時点で薬を変更するので十分なこともありますし、中には薬の説明書(添付文書)には「使ってはいけない」と書かれていても、実際には臨床的に問題となるような悪影響は出にくいという薬も、あったりします5)

妊娠中は、自分の身体だけでなく、お腹の子どものことにも気を配らないといけない分、心配事や不安は倍以上に増えます。インターネットの情報や、他人の体験談を見聞きして、その心配や不安が膨らんでしまうことはよくあると思いますが、「個々の状況によって色々と異なる」ということを前提に、こまめにかかりつけの医師・薬剤師に相談をしていただければと思います。

(参考文献)
1) Pharmaceuticals and Medical Devices Safety Information No. 312 April 2014
2) Hum Reprod. 2003 Dec;18(12):2704-10.
3) Am J Obstet Gynecol. 2008 Mar;198(3):279.e1-8.
4) 南山堂「薬物治療コンサルテーション 妊娠と授乳(改訂2版)」
5) 日本産科婦人科学会「産婦人科診療ガイドライン-産科編2020」

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