皮膚が黒くなる?ステロイドをめぐる俗説とは【医師監修】
- 作成:2021/08/02
「ステロイドの塗り薬」を使っていると皮膚が黒くなる・・・という俗説を耳にしたことはないでしょうか。実はこれ、ステロイドに対する大きな誤解の1つ。今回はなぜこのような誤解が生まれてしまったのかも含め、解説します。
この記事の目安時間は3分です
Q.ステロイドを塗っていると、皮膚が黒くなる?
A.ステロイドに、皮膚を黒くさせる作用はありません。
アトピー性皮膚炎などに用いられる「ステロイドの塗り薬」を使っていると、皮膚が黒くなってしまうから、使わない方が良い・・・そんな情報は、インターネットや口コミでよく流れます。しかし、ステロイドに皮膚を黒くさせる作用はないため、この情報は根本的に間違ったものと言えます。
この間違った情報が支持され、よく出回ってしまうのには、いくつかの理由があります。
皮膚に強い炎症が起きると、皮膚が着色することがある
ニキビ・湿疹・虫刺されなどで皮膚に強い炎症が起きると、皮膚にメラニン色素が増えて、皮膚が黒っぽくなることがあります。これを「炎症後色素沈着」と呼びます1)。
アトピー性皮膚炎では、皮膚に炎症が強く、長く現れ続けます。この炎症を鎮めるために「ステロイドの塗り薬」を使うのですが、薬を使って炎症が少し落ち着いてくると、皮膚がこの「炎症後色素沈着」によって黒っぽく見えることがあります。そのため、まるで「ステロイドの塗り薬」を使ったことで皮膚が黒くなったように感じられてしまうのです。
この「炎症後色素沈着」は、基本的に軽いものであれば時間経過によって消えますが、中にはシミのように残ってしまうものもあります。そのため、皮膚で強い炎症を起こさせないこと、長引かせないことが大切です。そういった意味で、「ステロイドの塗り薬」はむしろ皮膚が黒くなってしまうことを防ぐために有用な薬とも言えます。
皮膚を何度もこすっていると、皮膚が着色することがある
強い炎症には、痒みを伴うことが多いです。そのため、炎症が起きている場所をヒトはどうしても爪や衣服でなんども強く掻いたりこすったりしてしまう傾向があります。こうした“摩擦”のストレスを皮膚に与え続けると、皮膚は黒くなってしまうことがあります。これを「摩擦性黒皮症」と呼びます1)。
「ステロイドの塗り薬」は、皮膚に強い炎症が起きているときに使いますが、このとき同時に皮膚の痒みも感じているケースがほとんどです。そのため、強い炎症が起きていることと、何度も“摩擦”のストレスを皮膚に与え続けることで、皮膚は黒っぽくなってしまうことがよくあります。これを、ちょうどそのタイミングで使っていた「ステロイドの塗り薬」によって起きた現象だ、と勘違いしてしまうことになります。
この「摩擦性黒皮症」を防ぐためには、皮膚を爪で掻いたり衣服などでこすったりする機会を減らす必要があります。ステロイドの塗り薬をしっかりと使って炎症や痒みの症状を和らげること、さらに皮膚の乾燥を防ぐことなどが大切です。
ステロイドの塗り薬の不正使用が、皮膚を赤黒くさせることがある
アトピー性皮膚炎の治療には大切な「ステロイドの塗り薬」ですが、この薬も間違った使い方をすると、皮膚が赤黒く見えるようになってしまうことがあります。
「ステロイドの塗り薬」には、皮膚の毛細血管を一時的に収縮させる作用があります。そのため、強力な「ステロイドの塗り薬」を皮膚の薄い顔などに塗ると、一時的に皮膚が白っぽく見えるようになります。これを“美白”と称して、強力な薬を顔に塗り続けていると、次第に顔の皮膚が薄くなってきます。すると、毛細血管が透けて見えるようになるため、顔が赤黒く見えるようになってしまいます。
こうした副作用は、皮膚の厚い足や背中などの強い炎症に使うべき強力な薬を、なんの症状もない顔などの皮膚の薄い場所に使い続けていた場合に起こるものです。使う薬の強さや場所・回数などをしっかりと守っていれば基本的に起こることはありません。また、一時的に皮膚が薄くなっても、治療が終われば数ヶ月以内に元に戻ります2)。
「ステロイドの塗り薬」は、たかが塗り薬だと油断して使われていることも多いですが、きちんと医師・薬剤師の指示を守って使うようにしてください。
(参考文献)
1) Dermatology. 2014;229(3):174-82.
2) J Am Acad Dermatol. 1989 May;20(5 Pt 1):731-5.
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