「聞いてないよ」「治療を後悔…」がんの重い後遺症~自らも経験した医師の場合は?
- 作成:2021/10/09
がん自体の症状はもとより、治療の副作用や後遺症も患者さんを悩ませる問題です。よく知られる脱毛や吐き気のほか、口内炎、手足のしびれ、痛み、皮膚障害など、さまざまな影響が生じます。患者さんによっては、副作用や後遺症が辛すぎて治療を後悔する人も…。子宮頸がんのサバイバーの田所園子氏は、自身の経験を振り返りながら、「患者さんは冷静に自分の治療を〈知る〉ことが大切」と呼びかけます。
この記事の目安時間は3分です
手術の影響で排泄障害。「このままだったら…」と泣いた日々
私は41歳の時、子宮頚がんになり、広汎子宮全摘術を受けました。子宮のほか、卵巣や腟の一部、子宮周辺の組織、リンパ節も摘出する大きな開腹手術です。
術後の後遺症は、私の生活に支障をきたしました。例えば、手術の影響で腸の動きが悪くなり、慢性的なひどい便秘症になりました。また、手術による膀胱周囲の神経損傷で排尿障害が残ってしまいました。50個以上のリンパ節を摘出したので、リンパ浮腫になる可能性があることもずっと気がかりでした。
当初は辛くて、毎日泣いていました。他人には見えないものの、変わってしまった自分の体や身体機能に「このままだったらどうしよう」「もっとひどくなったら?」と不安を抱えながら生きてきました。
診察の時、主治医に相談したこともありますが、「工夫しながら生活することが大切ですね」と言われました。そこから10年という時間がたち、自分なりに工夫を重ねてきました。例えば、食事量を減らし、食事回数を増やすことで便秘症を改善することができました。排尿障害の克服はまだできていませんが、トイレに行く時間を決めたり、姿勢を工夫したりすることで少しは過ごしやすくなりました。「うまくつきあうこと」がコツだと思っています。
今では「後遺症による不都合は、命と引き換えに自分が失ったもの」と理解しています。後遺症を自分の一部として受け入れられたように感じるのです。
女性生殖器のがんで手術を受けた際の後遺症は、妊娠の可能性なども含めセンシティブな一面があり、患者さんが一人で抱えがちです。でも、周囲の人がその辛さを知るだけでも、患者さんにとっては救いとなります。
私は、自分ががんになってから知りたかったことを、患者さんやその周囲の人たちに、しっかり伝えていきたいと思っています。
医師の説明が記憶に残っていない患者も
がんの治療には、少なからず副作用や後遺症が伴います。私は緩和ケア医として患者さんから相談を受けていますが、よく聞くのは「知らなかった」「聞いていない」という驚きの声です。
もちろん、治療の前に主治医から副作用(後遺症)の説明をするのが普通ですが、がんに直面した患者さんは気持ちが焦り、記憶に残らないことがあるようです。こんなはずじゃなかったという思いから、「治療を受けなければよかった……」という気持ちになってしまうこともあります。
副作用(後遺症)に対して落ち着いて対応するには、事前によく説明を聞き、対処法を聞いておくことが大切だと思います。
「副作用が辛い」と言えば薬を減らされてしまう不安
患者さんの話を聞いていると、副作用の捉え方は実に千差万別だと気づかされます。「治るためには仕方がない」「がんばる」と立ち向かう方もいれば、副作用を避けるために「治療を受けない」と選択する方もいます。
がん治療の中でも、抗がん剤治療の副作用は非常に多様で、吐き気や嘔吐、下痢、便秘、脱毛、口内炎、手足のしびれや痛み、皮膚障害、味覚障害、骨髄抑制(出血)などが出現します。ある患者さんは、副作用で指先が壊死してしまいましたが、治療を続けることを強く希望していました。
一方で、倦怠感と吐き気に耐えられず、数日後に治療を断念した方、脱毛など外観の変化を伴う副作用を機に、治療を受けない決断をする方も少なくありません。
また、治療中に「副作用が辛い」と言えば薬を減らされたり、弱い薬に変えられたり、治療が中止されてしまうのではないか……といった不安から、ひたすら我慢している患者さんもいます。「一生懸命やってくださる医師に申し訳ない」という理由で、副作用の辛さを話せない方もいます。
治療のために避けられない副作用もありますが、まずは医師や看護師、薬剤師に相談できる環境が必要だと感じています。
副作用が「治るための通過点」ではないこともある
ただ、中には「治るための通過点」ではない副作用もあります。
以前、がん治療の病院から、私が務める緩和ケア病棟に緊急入院の要請を受けたことがあります。その患者さんは、抗がん剤治療のために受診したのですが、体調が悪く、主治医が「これ以上の治療はできない」と判断したのです。
あとから聞いた話では、患者さんは辛い副作用に耐えながら抗がん剤治療を続けていました。自宅ではずっと横になっていて、食事は無理やり流し込み、次の治療日までの時間をつないでいたそうです。
少し前に、主治医から治療の弊害について話があったそうですが、ご本人は治療継続を希望してきました。緩和ケア病棟に入院した夜にお亡くなりになりましたが「後悔していない」とおっしゃっていたのがとても印象的でした。
私は、患者さんの数だけ治療法があるのだと思います。
漠然と副作用の辛さを想像するだけでは恐怖心が先走りますし、限界まで我慢するのは心身ともに苦しいものです。患者さんには、冷静に自分が受ける治療の副作用を知ることを大切にしてほしいと伝えています。
田所園子(たどころ・そのこ)
医療法人生寿会 かわな病院/内科、緩和ケア、麻酔科
1995年高知医科大学医学部卒業。 同大学医学部麻酔科蘇生科入局。41歳の時に子宮頸がんが見つかり、手術を受ける。しばらくはがんであることを受け止めきれず、周囲に言えない日々を過ごした。現在は、がんの経験を生かして緩和ケアに携わり、患者によりそう医療を提供している。
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