大規模災害時、それでもあなたは帰りますか?「帰宅困難者」になったときの心構え
- 作成:2021/11/10
外出先で、地震など大規模災害が起きて交通網がストップしたとき、どうすべきか考えたことがありますか? 多くの方は、災害対策として備蓄などについてはある程度準備していることと思います。しかし、出先で移動手段がなくなることについては、以前に体験したことのある方以外はあまり意識していないのではないでしょうか。 そこで今回は、「帰宅困難者」の行動についてDr.ソナエル氏に伺ってみました。
この記事の目安時間は3分です
帰宅困難者とは?
2021年10月7日の夜に発生した、千葉県北西部が震源の東京23区で最大震度5強を観測した地震では、首都圏の鉄道各社が運転を見合わせたこともあり、多くの帰宅困難者が発生しました。その結果、駅やタクシー乗り場には人々が長い行列を作り、帰宅を諦めた人々で駅周辺のホテルは満室となりました。
帰宅困難者とは、近距離徒歩帰宅者(近距離を徒歩で帰宅する人)を除いた、帰宅断念者(自宅が遠いなどにより帰宅できない人)と遠距離徒歩帰宅者(遠距離を徒歩で帰宅する人)を指します。
2011年の東日本大震災では、首都圏では515万人の帰宅困難者が発生(内閣府推計)しました。政府の地震調査委員会が今後30年以内に70%程度の確率で起きると予測しているマグニチュード7クラスの「首都直下地震」の場合、東京都において約517万人の帰宅困難者発生が見込まれています(平成24年「首都直下地震等による東京の被害想定」)。
大規模災害時に徒歩帰宅(自転車含む)することの危険性
大規模災害では公共交通機関は停止します。そのような中で大量の帰宅困難者が一斉に徒歩帰宅しようとすると、警察・消防・自衛隊の救助・救命活動に支障をきたします。また徒歩帰宅では、道に溢れた多数の人により身動きがとれない状況が予測されます。さらなる地震や建物の倒壊、瓦礫や悪路などによる負傷、首都直下地震で予想されている大規模火災や火災旋風(炎の竜巻)に巻き込まれるなどにより2次被害に遭う可能性や、これまでにも実際に死亡例のある「群衆雪崩(いわゆる将棋倒し)」のリスクがあります。
東日本大震災や今回の首都圏で最大震度5強を観測した地震では、建物や道路の損壊、大規模火災は発生していません。そのため、マグニチュード7クラスの首都直下地震においては、これまでより大きく状況が異なることが予想されます。
政府、自治体の帰宅困難者への対策
東日本大震災をきっかけとして、2011年に首都直下地震帰宅困難者等対策協議会が開催され、2013年4月1日より、東京都では「東京都帰宅困難者対策条例」が施行されました。
帰宅困難者対策の行動指針が示されており、「大規模災害発生時はむやみに移動を開始せず、職場や学校や外出先の安全な場所に最大3日程度留まる」というのが基本原則です。
大規模地震発生後の3日間(72時間)は人命救助のデッドラインとされ、救助・救出活動を優先させる必要があります。そのため3日間程度はむやみに移動せず安全な場所に留まる必要があり、企業等では従業員等を施設内に待機させる必要があります。そのため企業等や一時滞在施設に対して、帰宅困難者の一斉帰宅抑制やその対策、水や食料の備蓄が政府により推奨されています。
一時滞在施設に留まり、救助・救命活動が落ち着いたら徒歩帰宅にて自宅を目指します。その際、地方公共団体と協定を結んでいるコンビニエンスストア、ファミリーレストラン、ガソリンスタンド、都立学校などが要請を受け、災害時帰宅支援ステーションとして利用され、可能な範囲で水、トイレ、道路情報などを提供してくれます。
過去の「帰宅成功体験」が仇となる可能性も
先の2021年10月7日に発生した、東京23区で最大震度5強を観測した地震においては、帰宅困難者対策のため、行政が設置した東京、神奈川、千葉の6カ所の公共施設では122人の帰宅困難者を受け入れています。その他、一部の駅では列車の車内が待機場所として開放されました。
しかしその一方、都内のシェアサイクルでは、街中の拠点(サイクルポート)から自転車の在庫が一斉に無くなったそうです。これは公共交通機関がストップし、タクシーにも乗りそびれた人々が、「足」を求めてシェアサイクルを求めた結果です。
今回の地震では、シェアサイクルで帰宅できた方も多数いらっしゃるようです。近年人気となっているシェアサイクルが災害時に有用である可能性が示された事例と思われますが、この「成功体験」が「本番」の首都直下地震にておいて仇となる可能性があります。
同様に、2011年の東日本大震災においても、首都圏では多くの人が徒歩で数十kmを何時間もかけて帰宅“できた”経験があります。
これらの「成功体験」が、次の災害の時にも大丈夫という自信に繋がってしまう危険があります。実際、東日本大震災で帰宅困難者となったが帰宅できた人の8割以上が、次も同じ行動をとると回答しているアンケート結果もあります。
先に述べたように、マグニチュード7クラスの首都直下地震では建物の倒壊や火災の多発など、今までの帰宅困難とは大きく状況が異なることが予想されます。恐らくこれまでの「成功体験」が仇となり、無理に徒歩帰宅しようとした人々の中に、残念ながら命を落としたり負傷する人が多く出てしまう可能性があります。
実際に帰宅困難者になることを想定しておく
大規模災害時には無理に帰宅しないのが基本にあるとして、実際の大規模災害時にその場に留まるという選択をするのは実は難しいことでもあります。
通信障害(輻輳など)により連絡が取れない状況で、家族の安否が気になり家に帰ろうとするのは自然なことです。自宅にペットを残していたり、特に小さな子どもがいる場合は何としてでも家に帰らなければと考えるのも当然のことだと思います。
また、災害時における心理的な要素も影響します。先の首都圏での地震を見ても、その場に留まるという帰宅困難者対策の基本方針が周知されているとはいえず、人々は何とか帰宅を目指します。このような場合、自分は留まることが安全と知っていても、周囲の人々と同じ行動を取ろうとする「同調性バイアス」が影響し、自分も帰宅を目指して移動してしまうことも考えられます。
このような事態を避けるためにも、無理に徒歩帰宅することの危険性を知っておくこと、周知しておくことが重要です。
そのうえで、安心して職場や一時滞在施設に留まるためにも、常日頃から災害時の行動を家族内で話し合っておくべきです。いざというときにどういう行動をとるのか(とらなければいけないのか)、連絡手段はどうするのか(災害用伝言ダイヤル171、携帯電話伝言板サービス、LINEなどのSNS)、連絡がつかない場合に落ち着いたらどこに集合するのかなどを、家族内であらかじめ決めておくことが必要です。
そして、カバンの中に必要最低限の物を入れた防災ポーチを常に入れて持ち歩き、突然帰宅困難者となっても困らないようにしておくことも重要です。防災ポーチの中身は、モバイルバッテリー、小銭、ウェットティッシュ、ホイッスル、小型ライト、アルミブランケット、携帯トイレ、常用薬、替えのコンタクトレンズ、女性は生理用品などを入れておくのがおすすめです。
日頃から防災を意識し、帰宅困難者となっても極力困らない準備・心構えをしておきましょう。
消化器病専門医、消化器内視鏡専門医、総合内科専門医
神奈川県生まれ。現在は関東で内科医として勤務。
長男誕生をきっかけに家族を守るということに直面し、防災に目覚める。知識を得ていくにつれ防災にのめり込み、現在では防災好きが高じてInstagramやTwitterで防災対策を発信している。
認定特定非営利活動法人 日本防災士機構認証 防災士。
Twitter:@Bousai_love_Dr
Instagram:bousai_daisuki_doctor
ウェブサイト「Dr.ソナエル@内科の防災図書館」
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