死につながるおそれも?災害時にはお口のケアにも気をつけよう!
- 作成:2022/10/12
普段何気なく行っている歯磨きも、災害が発生し、避難所生活や水が貴重になる状況においては、歯磨きなどの口腔ケア(オーラルケア)をためらうことが多く、口の中が不潔になりがちです。行動や気持ちの余裕を持てないかもしれませんが、口の中を清潔に保つ口腔ケアは非常に重要になってきます。そこで今回は、災害時の口腔ケアについてDr.ソナエル氏に解説していただきます。
この記事の目安時間は3分です
災害関連死につながる!?「誤嚥性(ごえんせい)肺炎」に影響する口腔ケア
大地震で建物倒壊による圧死・窒息死、津波に巻き込まれて溺死するなど、災害に直接関係する死とは別に、その後の避難生活などで病気を発症して死亡したり、持病の悪化などで死亡することを「災害関連死」「震災関連死」といわれます。そして、避難生活において誤嚥性肺炎を発症し、死亡することは災害関連死に該当します。
「誤嚥性肺炎」は、口の中で細菌が繁殖し、それが気管から肺へ侵入することによって引き起こされます。災害時は疲れ、ストレス、低栄養で免疫力が低下しやすい状態であり、特に高齢者の方は誤嚥性肺炎発症の危険性が高くなります。
また、高齢者の誤嚥性肺炎は死亡率が高く、災害時は医療体制の混乱から初期治療が遅れやすいため、死亡率も高まることから、肺炎予防の観点からも、災害時の口腔ケアはおろそかにすることはできません。
1995年の阪神淡路大震災では災害関連死の24%が肺炎で、そのほとんどが誤嚥性肺炎であったと考えられています。また2011年の東日本大震災でも、震災発生から1~2週間後の死亡原因として、肺炎が最も多かったという報告もあります。この他の災害においても、誤嚥性肺炎による災害関連死は常に多数発生しています。
災害時の口腔ケアについて
水が少ない時
災害時、水は非常に貴重ですが、口腔ケアは必ず実施する必要があります。
一般社団法人日本口腔ケア学会では、災害時の水の使用を最小限にしたい時の口腔ケアについて、下記のように紹介しています。(同ホームページから抜粋)
1.水で少し湿らせたティッシュペーパーを準備し、口角切れや口唇の亀裂を予防するために、口腔ケア開始時に軽く口唇を拭きます。
2.洗口2回分の水(約30mL)をコップA(最後に洗口で使用)として準備。
3.別のコップB(歯ブラシすすぎ用)に約20mL の水を用意し、その水で歯ブラシを濡らしてから口の中へ入れ、歯みがきを開始。(適宜「加湿」しながら磨くのがポイント)
4.歯ブラシが徐々に汚れてくるので、1のティッシュペーパーで歯ブラシの汚れをできるだけ吸い取り、3のコップBで歯ブラシをすすぎ、また歯みがき、これを小まめに繰り返します。
5.最後に、2のコップAの水で2回洗口します(1回あたり15mL)。30mLを一気に含むのではなく、2回に分ける方が圧倒的にきれいになります。
この他、日本口腔ケア学会のホームページでは、要介護者や嚥下障害のある方の口腔ケア方法についても紹介されています。ご家族に該当される方がいる場合、一度日本口腔ケア学会のホームページを参照しておくとよいでしょう。
歯ブラシがない時
避難所などで歯ブラシがないということも想定されます。その場合、食後に30mL程度の水やお茶でしっかり口の中をゆすぎ、ハンカチなどを指に巻いて歯ブラシ代わりに歯をぬぐうと効果があります。
歯磨き用のウェットティッシュも販売されていますので、避難所へ行く可能性を考え、非常用持ち出し袋には、歯磨き用ウェットティッシュを入れておくのをおすすめします。
また、唾液には、口の中の汚れを洗い出す働きがあります。水分をしっかりと摂取し、あごの付け根・耳の真下の部分(唾液を分泌する顎下腺・耳下腺があります)をマッサージしたり温めたりすることで、唾液の分泌を促してくれます。
キシリトール入りシュガーレスのガムを食後に噛むことも有効です。こちらも唾液の分泌を促すことで、口の中を清潔に保ちやすくなります。
液体歯磨きなども災害時には有用。ローリングストックを
デンタルリンスや洗口液を、歯磨き粉の代わりに液体歯磨きとして使うこともできます。
適量(約10mL)を口に含み、20秒ほどゆすいで、口腔内に行きわたらせた後にブラッシングします。ブラッシング後は水でゆすぐ必要はありません。味や香りが気になる場合は、少量の水でゆすいでもかまいません。
液体歯磨きには殺菌成分が含まれているため、口腔内の菌を減らすのに非常に有効です。イソジンガーグルなどのうがい薬も、口腔内の菌を減らしてくれる作用があります。
普段からデンタルリンスや洗口液を使っている方は、常に1つ未開封の在庫を確保しておく「ローリングストック」で備蓄しておき、なじみのない方はデンタルリンスや洗口液を使う習慣をつけて、日常生活の中で防災対策を取り込むのはいかがでしょうか。
高齢者や子どもに合わせた備えも忘れずに
意外と盲点!入れ歯のケア
入れ歯を使用している方は、入れ歯のケアについても備えておく必要があります。高齢者がいるご家庭では意外と忘れがちですので、入れ歯用のウェットティッシュや入れ歯洗浄剤も、ローリングストックを意識して、常に在庫を確保しておきましょう。
乳幼児の歯磨きの準備も
小さなお子さんがいるご家庭では、子どもの歯磨きにも注意点があります。大人用の歯磨き粉やマウスウォッシュは刺激が強く、子どもには使えないこともあります。赤ちゃん用の歯磨きティッシュ、子ども用の歯磨き粉やマウスウォッシュを、大人用とは別にしっかりと備えてください。
日々の歯磨きにも防災の意識を
口腔ケアは、身だしなみとしてだけではなく、災害時には命を守る行為と言えます。また防災対策は、災害時でもどれだけ平時と同じような生活を送ることができるかが重要です。
次に歯ブラシや歯磨き粉、デンタルリンスを買う時は、1つ多めに買ってみるといった行動から、防災対策を始めてみると、日々の口腔ケアの考え方が変わってくるかもしれません。
消化器病専門医、消化器内視鏡専門医、総合内科専門医
神奈川県生まれ。現在は関東で内科医として勤務。
長男誕生をきっかけに家族を守るということに直面し、防災に目覚める。知識を得ていくにつれ防災にのめり込み、現在では防災好きが高じてInstagramやTwitterで防災対策を発信している。
認定特定非営利活動法人 日本防災士機構認証 防災士。
Twitter:@Bousai_love_Dr
Instagram:bousai_daisuki_doctor
ウェブサイト「Dr.ソナエル@内科の防災図書館」
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