災害時、どうしたらいいの? 出るものは我慢できない「非常用トイレの備え」
- 作成:2022/02/09
前回までは在宅避難の必要性、ローリングストックによる備蓄の必要性についてDr.ソナエル氏に解説していただきました。そこで、次に考えなければならないのは排泄に対する備えです。今回はこの点についてうかがいました。
この記事の目安時間は3分です
在宅避難のために「非常用トイレ」は必ず備える
食事や飲水はある程度我慢できますが、排泄は我慢できないという現実があります。トイレに行く回数を減らすために水分摂取や食事を控えめにすると脱水状態になり、血液が固まりやすくなって静脈内に血の塊(血栓)ができやすくなります。その血栓が肺の動脈に飛ぶと肺塞栓症、通称「エコノミークラス症候群」を引き起こし、場合によっては死に至ることもあります。
また、脱水状態では尿が少なくなるため、特に女性や高齢者では尿路感染症のリスクも上がります。いずれもこれまでの災害で、実際に死亡例が出ているので軽視できません。
災害により断水した場合、そもそもトイレで流す水が確保できなくなります。停電した場合は、ポンプで水を汲み上げている高層マンションやビルでは、水が使えなくなるばかりでなく、下水の排水にもポンプが使用されているため、トイレはまったく使用できなくなります。バスタブなどに溜めておいた水で流すという方法もありますが、大地震が発生した場合は下水管の損傷の危険性があり、無理に流すと汚水が溢れる可能性があります。
排泄物が適切に処理できないと、衛生が保てないばかりか悪臭により在宅避難が困難となります。
このように、自宅がマンション、一戸建てに関わらず、非常用トイレは必ず備えておく必要があります。
自宅トイレが使えない時、仮設トイレや避難所のトイレでよいのか?
災害時に自宅のトイレが使えなくなったら、仮設トイレや避難所のトイレを使えばよいと考える方もいらっしゃるかもしれませんが、そもそも仮設トイレが設置されるのは、災害発生後早くて数日、遅ければ1週間以上かかる場合があります。
また避難所のトイレは、多くの避難者が使用するためかなり混雑し、ゆっくり用を足すことはできません。そのほか、女性や子どもは性犯罪に遭うリスクもあります。清掃が行き届かず不衛生であることが多く、手を洗う水の不足から、胃腸炎などの感染症も蔓延する恐れがあります。
災害用トイレのひとつとして、近年マンホールトイレが整備されてきています。下水道管路にあるマンホールの上に、簡易便座と囲いのパネルを設けた災害用のトイレです。排泄物はそのまま下水道に流される仕組みとなっています。速やかに設置できるメリットはありますが、下記注意点もあります。
- 設置方法を熟知した施設担当者や自治体の担当者がいないと設置できない。
- 設置されるのが屋外である。
- 下水道が破損していると使えない。
- 水洗用水が必要なマンホールトイレの場合は、十分量の水が確保されていないと使用できない。
在宅避難が可能であるなら、自宅で非常用トイレを使用するのが最も安全で快適です。
3種類ある非常用トイレの使い方と使用後の保管方法
非常用トイレは、基本的に排泄用の袋、凝固剤(兼、消臭剤)、廃棄用の袋がセットになっており、10年程度の長期保存が可能となっています。袋を広げて和式便器のように使用するか、洋式便器や簡易便座に被せて使用します。
非常用トイレは携帯用、備蓄用、簡易の3種類に分けられます。
(1)携帯用トイレ
非常用だけでなく、ドライブ用やアウトドア用としても販売されている、携帯しやすいようにおおむね1回分が個別に包装されているトイレ。型紙が入っていて、小便がしやすいようにできている商品もある。非常用持ち出し袋などに備えるのは、このタイプになる。
注意点としては、小便のみで大便に対応していない商品もあるので、購入する際に必ず確認すること。
(2)備蓄用トイレ
排泄用の袋、凝固剤などが50回、100回分とセットになって箱詰めされている商品。回数が多くても比較的コンパクトに箱詰めされており、保管場所はそれほど必要ではない。自宅で避難生活を送るために備蓄したり、職場などで非常時用に備えておくためのトイレとなる。便器自体に破損がなければ、洋式便器に被せて使用し、排泄後に凝固剤を入れて便や尿を固めて袋を閉じ、ゴミに出す。
(3)簡易トイレ
備蓄用トイレに簡易便座が付属しているトイレ。段ボール製やプラスチック製、パイプ椅子のようになっている簡易便座に袋を被せて使用。自宅の便座が破損していたり、トイレがない場所で避難生活を送るために使用する。
非常用持ち出し袋や防災ポーチに入れておくのが携帯用トイレ、自宅に備えておくのが備蓄用トイレ、便器の破損や自宅以外で避難生活を送ることも考慮して厳重に備えるなら簡易トイレ、と考えるとわかりやすいと思います。
成人1人の1日あたりの平均排泄回数は4~7回であり、それを1週間分(30〜50回分/1人)は備えておきましょう。
また、非常用トイレを備えた時に忘れてならないのが、排泄物が入った袋の保管方法です。
忘れがちなことですが、災害時は基本的にゴミの回収は行われません。ゴミの回収が再開するまでは、ベランダや庭などにまとめて保管しておく必要があります。その際に最も重要なのが臭い対策となります。そのため、非常用トイレは消臭力が強い商品を選ぶべきです。まとめて保管しておくゴミ袋に消臭機能があるとさらに便利です。
大災害時だけではないトイレ問題
毎年11月10日はNPO法人日本トイレ研究所により、語呂合わせで「いいトイレの日」と定められており、トイレの大切さや重要性を改めて確認する日、とされています。
これまでどの災害においても、トイレ問題は発生しています。しかし大地震だけでなく、断水、停電、集中豪雨で下水が溢れるなど、どれかひとつ発生しただけでも水洗トイレは使用できなくなる可能性があります。そのため、トイレ問題は非常に身近な問題であるとも言えます。
自宅にまだ非常用トイレを備えていない方は、トイレの大切さ・重要性を認識していただき、必ず購入して備えるようにしてください。
消化器病専門医、消化器内視鏡専門医、総合内科専門医
神奈川県生まれ。現在は関東で内科医として勤務。
長男誕生をきっかけに家族を守るということに直面し、防災に目覚める。知識を得ていくにつれ防災にのめり込み、現在では防災好きが高じてInstagramやTwitterで防災対策を発信している。
認定特定非営利活動法人 日本防災士機構認証 防災士。
Twitter:@Bousai_love_Dr
Instagram:bousai_daisuki_doctor
ウェブサイト「Dr.ソナエル@内科の防災図書館」
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