暴力、幻覚、不潔行為…対応が難しい認知症のBPSD。周囲がまず確認すべき9項目は?

  • 作成:2021/12/11

認知症の人の中には、「認知症に伴う行動・心理症状(Behavioral and psychological symptoms of dementia: BPSD)※ 」と呼ばれる、様々な困った症状を表すことがあります。BPSDは、本人が辛いだけでなく、介護する人にとっても非常に大きな負担となります。今回は、認知症のBPSDについてお話します。

この記事の目安時間は3分です

暴力、幻覚、不潔行為…対応が難しい認知症のBPSD。周囲がまず確認すべき9項目は?

周囲が困る症状にも「本人なりの理由」がある

認知症のBPSDは非常に多種多様です。よくあるものに、抑うつ、不安、意欲低下、睡眠障害、易怒性(怒りやすくなる)、興奮、暴力、家から出て行ってしまう、幻覚、妄想、過食、拒食、不潔行為などが挙げられます。

なぜ、そうした行動が起きるのでしょうか。

認知症によって記憶障害や実行機能障害(ものごとを計画通りに実行できない)がある人は、不安を抱きやすくなり、ストレスに対する抵抗力が少なくなります。すると、生活環境の変化や体調の変化にも敏感に反応してしまうことがあります。

例えば、大事なものをしまったあとに、そのことを丸ごと(エピソード全体)忘れてしまい、「誰かに取られてしまった」と思い込んでしまうことが「物取られ妄想」の背景と言われています。思うようにいかない時や体の調子がわるい時には、不機嫌になって怒ってしまうことや、暴力を振るうこともあります。
あるいは、引っ越しのあとに新しい環境に慣れず、落ちつかなくなる人もいます。見当識障害※2があると、自分が今どこにいるのか分からなくなって、自分の家に帰ろうと外に出ていってしまう人もいます。
脳の機能障害が重度になると、大声を出し続けてしまったり、食事を食べなかったり、何でも口に入れてしまったりすることもあります。

BPSDの理解には、認知機能障害を背景とした本人なりの理由があるという視点が大切です。BPSDかな? と思った場合は、まず次のことを確認してみましょう。

①本人の訴えに耳を傾ける
②熱が高いこと、脈の変化、呼吸が荒いことがないかのバイタルサインのチェック
③食事状況の確認
④排便状況の確認
⑤睡眠と覚醒の状況の確認
⑥痛み、苦痛、ケガなどがないかの確認
⑦歩行の状態の確認
⑧皮層の状態の確認

これらはBPSDの背景や、本人なりの理由を探るヒントになります。BPSDの背景や理由がわかったら、それぞれに応じた対応を行いましょう。痛みや苦痛を解消したり、食事に問題があるなら改善したりと対応していくと、BPSDを軽減できることがあります。

BPSDには本人を中心に家族、介護者、医療者のチームで向き合う

それでもBPSDが続く場合は、介護の専門職や医師などとも相談していくことが必要です。その際は、以下のことを確認しましょう。

①症状の経過
②認知症の診断はされているか
③認知症のタイプ
④身体の病気はあるか
⑤内服薬の確認
⑥環境の変化の有無
⑦介護者の対応
⑧元々の性格
⑨感覚機能(視力、聴力など)の確認

BPSDは、非常に個別性が高いので、ここで挙げたような観点で、認知症のある本人を中心にして、家族、介護者、医療者が、情報共有をしてチームを作って向き合うことが大切になります。※3

薬でBPSDが改善することもあるが、逆効果の場合も

なお、認知症の進行を抑制する薬剤や漢方薬が、BPSDへの治療として一定の効果があると言われています。しかし、逆にこれらの薬剤によってBPSDが引き起こされることもあります。また、抗精神病薬という、より鎮静効果の強い薬を使うこともありますが、副作用として転んだり、食事をむせたりしてしまい、転倒や肺炎などの身体合併症を引き起こすこともあります。

家族や介護者の生活を支えることや燃え尽きの防止、認知症のある本人の事故や身体合併症を避けるといった観点からは、薬物療法を注意深く慎重に実施することが大切です。薬の効果が見込みにくいBPSDや、認知症の種類によってはやむを得ないBPSDもありますので、介護の専門職や認知症の専門医と相談して、介護環境そのものや認知症の鑑別の見直しを検討することも必要です。

BPSDは認知症の症状の中でも対応が難しく、介護者の負担の大きな部分を占めます。専門家でも、対応が難しいことがありますので、家族だけで我慢して抱え込まないようにしてください。

まとめ

  • 認知症の困った症状のことをBPSDと呼ぶ。
  • BPSDの背景には、本人なりの理由があることを理解する。
  • いくつかの観点で本人のことを理解する。
  • 家族だけで抱え込まないで、本人を中心としたチームで向き合う。
  • 薬には効果も限界もある。本人とともに、家族や介護者のことも考えて使用する。

※1 以前は「周辺症状」という言葉が使われていました
※2 時間や居場所がわからなくなること
※3 「認知症のことで困ったら」平成24年度厚生労働科学研究費補助金(認知症対策総合研究事業)“病・診・介護の連携による認知症ケアネットワーク構築に関する研究事業”より

千葉悠平

精神科医 医学博士
精神保健指定医
日本精神神経学会専門医 指導医
日本認知症学会専門医 指導医
積愛会横浜舞岡病院 医師
YUAD 代表
認知症の早期診断、画像診断、バイオマーカーなど、認知症について総合的に臨床・研究を行っている。

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