自分の最期は自分で決める。「ACP=人生会議」をしていた人、していない人で、人生の最終段階はどう違う?
- 作成:2022/04/14
「終活」という言葉はメディアなどで多く取り上げられ、多くの人が意識するようになりました。しかし、「アドバンス・ケア・プラニング(ACP)」について知っている方はまだ多くないでしょう。アドバンス・ケア・プラニングは、人生の最終段階をどう迎えたいのか、自分らしい人生を全うするにはどうしたらいいのかを考え、実現させていくための準備です。自身や家族の最期に向き合うためにはどうしたらいいのか。がん経験者であり、訪問診療に携わる医師の田所園子先生に伺いました。
この記事の目安時間は3分です
「結果」よりも、繰り返し話す「プロセス」が大事
アドバンス・ケア・プラニング(Advance Care Planning :ACP)とは、人生の最終段階に受けたい医療やケアについて、患者さんを主体にしてご家族や近しい人、医療・ケアチームが、繰り返し話し合いを行い、患者さんの意思決定を支援するプロセスのことです。「人生会議」という愛称でも呼ばれています。
ACPで大切なのはプロセス=過程です。「こう決めた!」という結果よりも患者さん自身がどうしたいかを考え、意見を出し、周囲がそれを理解し支えていくことが重要です。
心身の健康状態や環境の変化によって患者さんの意思は変化することがあるので、繰り返し行います。患者さん自身が意思決定できなくなった時に備え、代理で意思決定できる人を選定しておくことも大切です。
医療や介護を受ける際、患者さんやご家族は多くの選択をしなければなりません。選べる選択肢が多いということは一見恵まれているようですが、希望や意思がある程度固まっていないと、ひたすら迷うことになってしまいます。
治療法の選択から始まり、継続するかどうかの選択、病状変化時の対応、やがて食事がとれなくなった時に人工栄養を選択するか、するならどの方法にするか、しないなら今後どうするか……その選択は枝分かれし、ほぼ無限に広がっていきます。
もちろん、する・しないといった「YES/NO」が重要ではありません。どんな生活を送りたいか、どんなことはしたくないのか、そういったことを話し合いながら患者さんの望む生き方を知ることが大切なのです。そして私たち医療者はそれが叶えられるようにアドバイスをしていきます
ACPをしている人・していない人、何が違う?
イメージしやすいように、AさんとBさんの例を見てみましょう。
【ACPをしたAさんのケース】
肺がんを患ったAさんは、家族などと一緒にACPをすることにしました。
みんなが集まった場でAさんは「私は人間、口から食べられなくなったらそこまでと思っています。ずっと点滴をするとか、管に繋がれるというのは望みません。寝たきりも望みません。でもこうしてすいすいと動けなくなった以上それはあきらめます」とおっしゃいました。
一人で何でもできていたAさんでしたが「できるだけ」自分のことは自分でやるという方針変更を受け入れ、人の手を借りながら生活されました。希望通り入院はせず、食べられるものを食べるようにして過ごせました。
ACPの中では息子さんの思い、娘さんの思いはそれぞれ異なっていて、それらはAさんご自身の思いともまた異なっていました。
そこに医療者・ケアスタッフ達が介在することで、常にAさんの思いが中心となるよう、また子どもさん達の不安や心配が大きくならないよう話し合いが進められました。その結果、肺がんが頸椎に転移し介護を受ける生活になったあとも、Aさんらしい生活を送ることができました。「らしさ」とは人それぞれの希望が叶えられて初めて出てくるものなのです。
【ACPをしなかったBさんのケース】
一方、ACPをしていなかったBさんは、がんが進行し食事量が減ると点滴を始め、やがて人工栄養を受けるようになっていきました。
人工栄養がBさんの希望なら問題ありませんが、Bさんは「点滴は嫌。痛いし体が楽になるわけじゃない」と言っていましたし、人工栄養に関しては話を聞くことすらしませんでした。しかし、パートナーや子どもさん達の強い希望でBさんも渋々受け入れました。
その後、状態は悪化し、ご自身で人工栄養を止める選択もできないまま過ごすことになってしまいました。もしACPの場があったら、医療スタッフも介入し、Bさんの意向を中心にBさんらしい療養ができるようにご家族にもお話ができたと思います。
その人らしさを失わず、生活の質を極力保つために
昨今、エンディングノートがよく売れたり、就活にかけて終活という言葉が使われたりするなど、人々の人生の最終段階に関する関心は高まっています。しかしACPを知らない、言葉だけ知っている、やったことが無いという医療者・介護者がたくさんいるのが現実です。医療・介護の現場でかしこまることなく自然にACPの場が提供できるようになるとBさんのような方が減ると思います。
私は、長い間、緩和ケア医として患者さんを診てきました。緩和ケアの基本はACPだと思っています。病気、症状、治療、環境、生活……。色々なことを出し合って、現状も含めて今後どうしたいかを話し合います。
早期から行う緩和ケアでは、患者さん自身が困っていないことが多く、「もし治療ができなくなったら」「もし痛みが出たら」という仮定で話をされる患者さんがほとんどです。そのお話の中にも患者さんや、患者さんの周囲で患者さんと生きている方々のたくさんの「思い」が出てきます。それらを丁寧にキャッチし今後に繋げていくのです。
病気のことをしっかり理解していただき、今後出てくる症状についてはよい時期を選んで的確にお伝えしますが、それに備える方法を一緒に考えることもとても重要だと思っています。
緩和ケアの現場で提供するお話は、よいお話ばかりではありませんが、すべては「その人らしさ」が失われないように、生活の質を保つために必要です。病気でつらかった時、自分らしさを失いかけた自分だからこそ、医療現場でやるべきことがあると思っています。
田所園子(たどころ・そのこ)
医療法人陽明会まごころの杜クリニック/訪問診療
1995年高知医科大学医学部卒業。 同大学医学部麻酔科蘇生科入局。41歳の時に子宮頸がんが見つかり、手術を受ける。しばらくはがんであることを受け止めきれず、周囲に言えない日々を過ごした。その後、がんの経験を生かして緩和ケアに携わり、患者によりそう医療を提供している。2022年4月から現職。
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