約5万人に1人が発症、診断されていない人も多い「HAE」
- 作成:2022/04/28
健康な人でも日常的にむくみは起こりますが、実は、むくみ(腫れ)が発作的に現れる、遺伝性の病気があります。それが「遺伝性血管性浮腫(HAE)」です。HAEは放っておくと命にも関わる指定難病です。本記事では、HAEの現状と遺伝について説明します。
この記事の目安時間は3分です
日本ではあまり知られていない「HAE」
HAEは、10~20歳代での発症が多いのですが、あらゆる年齢で発症しうるとされています。また、世界中で約5万人に1人が発症すると推定されています。そうすると、人口1億数千万人の日本では、約2,000人以上HAEの人がいると推定されることになりますが、実際にHAEと診断されているのは450人程度です1) 。診断されていない人が多い原因の1つとして、日本ではこの病気があまり知られていないことが挙げられています1) 。
HAEは、名前に「遺伝」と付いている通り、親から子へ遺伝する可能性のある病気です。つまり、家族や親せきに複数人、同じ病気の人がいる可能性があります。一方で、両親ともにHAEではなく、子どもで初めて発症するケース(孤発例)もあり、親族にHAEが疑われる方がいない場合にも、一定の注意が必要です。
HAEは、まだ病気の全容が解明されているわけではなく、根本的に(遺伝子から)治療する方法も見つかっていません。こうした理由などから、国の指定難病対象疾病になっています(指定難病65、原発性免疫不全症候群の1つ)2) 。また、小児慢性特定疾病の対象にもなっています3) 。いずれも、国の公的な医療費助成制度で、HAEと診断された場合はこれらの助成が受けられます。
参考サイト
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1) Hide M, et al. Management of hereditary angioedema in Japan: Focus on icatibant for the treatment of acute attacks. Allergol Int 70 (2021) 45-54.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1323893020301027 - 2)難病情報センター https://www.nanbyou.or.jp/
- 3)小児慢性特定疾病情報センター https://www.shouman.jp/
HAEの多くの原因、「C1インヒビター」の遺伝子変異とは
HAE患者さんの多くは、「C1インヒビター」というタンパク質の量が少なかったり、働きが弱かったりすることが指摘されています。C1インヒビターとは、「ブラジキニン」という、体液を体の組織にしみ出させる働きがある物質の産生を制御するタンパク質で、C1インヒビターの量が減ってしまうと、ブラジキニンが過剰となり、体の組織に体液が必要以上に蓄積してしまい、これが激しい腫れやむくみ、腹痛を引き起こすとされています。
このようにC1インヒビターの量や働きが正常でない場合にHAEの症状が現れるとされていますが、臨床現場では、患者さんの病型をI型、II型、III型の大きく3つに分けてアプローチするのが一般的となっています。
このうち圧倒的に多いのはI型とII型で、I型が「C1インヒビターの量が少なくなり、働きも悪くなる」ような変異なのに対し、II型では「作られるC1インヒビターの量は十分だけど、働きが悪くなる」ような変異が起こっているとされています。 III型については、非常に稀だとされていますが、C1インヒビターの量・働き共に正常ではあるものの、遺伝子に何らかの変異があることでブラジキニンが過剰に産生され、体の組織に必要以上に体液が蓄積した結果として、むくみなどの症状が現れるとされており、原因の詳細についてはまだ十分に解明されていない状況です。
C1インヒビターの遺伝子の異常については遺伝性があるとされており、いずれも両親のどちらかがHAEを発症していると、子どもに50%の確率で遺伝するというデータがあります(常染色体優性遺伝)。つまり、HAEは、同じ家族に複数人いる可能性もある病気と言えるのです。「急に顔の腫れや強い腹痛に襲われ、しばらくして治まるのを繰り返す」といった症状のある人が、自分だけでなく親や、血のつながった親せきにもいるという方は、毎回我慢してやり過ごすのではなく、一度医療機関を訪れてみるとよいでしょう。
参考サイト
- QLife遺伝性疾患プラス https://genetics.qlife.jp
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