「まだ母乳を飲ませているの?」周囲に言われて悩む保護者も…。母乳のやめ時に基準ってあるの?
- 作成:2022/05/23
AskDoctorsでは、子どもの病気やケアで親が悩みがちなポイントについて、小児科医の森戸やすみ先生に解説をしていただいています。連載第8回のテーマは「母乳をやめる時期」。巷では「1歳を過ぎたらやめる」などという声もありますが……? 悩める保護者に森戸先生のアドバイスをお届けします。
この記事の目安時間は3分です
1歳児健診の「母乳の中止を促す指導」は行われなくなった
母乳は1歳前後まで――。そんな情報をネットなどで目にしたり、先輩ママからアドバイスされたりしたことはありませんか?
実は2002年3月までの母子健康手帳には、1歳健診と1歳6か月健診の欄に母乳の中止を促すような記載がありました。そして、続けていた場合そろそろやめるようにという指導があったのです。
しかし、医学的な根拠をもとにこの時期の断乳が推奨されていたわけではありませんでした。近年は、母乳が子どもの成長に与えるメリットも明らかになり、小児科医の間では「1歳を過ぎても無理に母乳を止める必要がない」という考え方が主流です。現在の母子健康手帳は「母乳を飲んでいるかどうか」を確認するだけの記載に変わっています。
とはいえ、いつ頃まで飲ませるか悩む方もいることでしょう。結論 から言えば、子どもがほしがるうちは、ずっと与え続けてかまいません。大人が意図して計画的に母乳を中止する「断乳」よりも、子どもが自分から母乳やミルクを飲まなくなる「卒乳」を待っても問題ないのです。
厚生労働省の「授乳・離乳の支援ガイド」では、赤ちゃんの個性を見極めつつ自然に離乳を進めることの重要性が示されています。WHO(世界保健機関)でも、なるべく2歳まで母乳を続けるように勧めていますし、海外では4~5歳まで飲ませている国もたくさんあります。一方、3〜4ヶ月でミルクだけに切り替えて母親が復職するのが普通という国もあります。1歳で母乳をやめなくてはいけないという根拠はありません。
授乳はデリケートな問題。外野の口出しは気にしないで
授乳には、栄養面だけではなく、スキンシップという大事な役割もあります。子どもがまだ母乳を飲んでいたい、あるいは親があげたいと思っているなら、無理やりやめる必要はありません。一方、授乳を続けたいけれど、仕事復帰や体調不良などのために終了しなければならない場合もあります。
授乳をいつ終えるかは、極めてデリケートで個人的な問題。外野が軽々しく口を出すべきではないと私は思います。周囲から「食事から栄養を摂れるのに、まだ母乳を飲んでいるの?」「保育園に入園するんだから、やめたら?」などと言われても、気にしないで下さい。
食事から栄養を取らないと「鉄欠乏症貧血」のリスクが
ただ、母乳を続ける上で注意してほしいことが2つあります。
1つ目は、子どもの月齢に見合う食事を食べられるようにすること。離乳食を始める生後5か月くらいまでは母乳だけでも十分栄養を摂取できますが、それ以降は鉄分やカルシウム、ビタミンなどが足りなくなりやすく、食事からこれらの栄養を摂る必要があります。
とくに鉄分は母乳だけでは不足しやすいのです。離乳期になっても母乳が栄養の主体だと、「鉄欠乏性貧血」(母乳性貧血)に陥ることが知られています。鉄の不足は、神経の発達に障害を起こすことも。成長に伴い必要量が増すことから、ビタミンDが不足すると「くる病」の心配もあります。母乳は飲むけれど極端に食が細い場合は、まず食事を摂れるようにすることが大切です。食事がきちんと摂れている上で母乳を飲むなら、好きなだけ飲ませてかまいません。
なお、「食事を食べるようになってからも母乳を続けていると、カロリーオーバーで太ってしまうのでは…?」と心配する保護者もいますが、ご安心ください。母乳で太ることはありません。
もう1つの注意点は、「虫歯」です。まだ歯が生えていない赤ちゃんであれば虫歯の心配はないのですが、歯が生えてくると虫歯に注意する必要があります。母乳には虫歯菌のエサになる砂糖(ショ糖)は含まれていません。でも、砂糖が入ったものを食べ始めると、口の中の環境は虫歯ができやすくなります。夜、授乳をして歯ブラシをしないまま寝かせてしまうのは避けたいところです。
なお、授乳期間中の女性は、排卵や月経は起こりづらくなります。「そろそろ次の子どもが欲しい」と思ったときは、母乳をやめることを検討するといいでしょう。また、授乳期間中、月経がなくても排卵はしていることがあります。妊娠を望んでいない場合は忘れずに避妊をしてくださいね。
1971年、東京生まれ。小児科専門医。一般小児科、NICU(新生児特定集中治療室)などを経て、現在は東京都内のどうかん山こどもクリニックに勤務。『小児科医ママが今伝えたいこと! 子育てはだいたいで大丈夫』(内外出版社)、『小児科医ママの子どもの病気とホームケアBOOK』(内外出版社)など著書多数。二児の母。
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