希少疾患HAE、医師が感じる「日常生活での悩み」
- 作成:2022/06/01
急に、皮膚や粘膜に「腫れ」や「むくみ」が発生する希少疾患「遺伝性血管性浮腫(HAE)」。その治療や、患者さんの日常生活の支援にも以前から携わっている堀内孝彦先生(九州大学病院別府病院・院長)に、HAEをめぐる社会的課題や、医療者としての思いについて伺いました。
この記事の目安時間は3分です
HAE患者の日常生活、課題は
先生はかなり早期から、NPOの立ち上げに携わり、患者さんの支援にも携わられています。そうした活動を起こされたのは、なぜでしょうか。
堀内先生
現在でこそ治療環境が整ってきたHAEですが、1990年当時は今以上に認知度が低く治療できる医療機関も限られていて、患者さんからさまざまなお問い合わせがあったのです。
そうした声を集約したり、相談したりできる場づくりをしていったことが活動の出発点ですね。
患者さんからは、どのような相談が寄せられたのでしょうか。
堀内先生
当時から多いのは、受診に関することですね。
HAEは希少疾患ということもあって治療法を熟知している医師はどうしても限られます。患者さんからは、その紹介をお願いされたり、「修学旅行に行っている間に、子どもにHAEの発作が起きたらどこの医療機関に受診したらよいか」「どの程度の発作が起きたら医療機関を受診したらよいか」など、実生活を送るうえでの切実な声が今もなお寄せられています。
それから多いのは、HAEの「遺伝性」に関連したご相談ですね。「どれくらい遺伝するのか」「遺伝したら必ず発症するのか」など。複雑な思いを感じながらもきちんと病気に向き合おうという方は多く、その過程で必要な知識について、医学的側面からお教えしています。
HAEを抱えながら暮らすうえで、患者さんが日々苦労する点はありますか。
堀内先生
突発的に発作が起きて急遽お仕事を休まないといけない場面がでてきたり、目に見える場所に浮腫が出ると外出するのも億劫になったりと、さまざまな面で苦労される方はいらっしゃいます。また、HAEでは腹痛や吐き気、下痢など多様な症状が現れるので、その点をどの程度職場や、周囲の方々に伝えるべきかと悩まれる方もいらっしゃいますね。
このように大変残念ながら、HAEには治療薬だけでは解決できないような社会的課題も存在するのが実情です。
医学的にお伝えできる部分についてはお伝えをしつつ、当事者にならないと分からない思いの部分については、ほかの患者さんとも共有していただきしながら、HAEを抱えながらのライフスタイルを考えていっていただきたいと感じています。
「治療の選択肢がある」だからこそ不安な方は受診してほしい
最後に、HAEの臨床にも携わりながら、患者さんのサポートや疾患自体の認知向上など、多岐にわたる活動に携わられているお立場から、何かメッセージをいただけますでしょうか。
堀内先生
予防薬の登場や、疾患に対する認知向上、患者会活動の進展など、HAEを取り巻く環境は、この数年で劇的に変化しており、早期に発見できるほど、その恩恵は大きなものになると確信しています。
もちろん希少疾患であるため、「ひょっとしてHAEかもしれない」と検査をしていただいても、実際にはそうでない可能性は高いかもしれません。しかし、もしHAEだと鑑別ができた場合、治療に移行すればQOLを大きく改善できる可能性があります。
「せっかく良い治療があるのだから、まずはたくさんの患者さんにこの病気を知ってもらい、きちんと受診してもらいたい」というのが私をはじめ、現場でHAEの治療にあたる医療者の思いなのではないでしょうか。少しでもご不安のあるかたは、ぜひ医療機関を受診してみてください。
九州大学医学部卒。国立がんセンター研究所研究員、米アラバマ大学医学部フェローなどを経て、2008年九州大学大学院医学研究院准教授、2013年九州大学病院別府病院教授、2016年4月から同病院長を併任。専門は臨床免疫学、リウマチ学。「血管性浮腫」の実態を解明してその成果を社会に役立てることを目的として設立したNPO法人「血管性浮腫情報センター」(略称:CREATE)の代表として活動するとともに、「HAE患者会 くみーむ」にて患者とその家族のサポート活動に精力的に従事。また、日本補体学会が作成する我が国の「HAE診療ガイドライン2010年初版、改訂2014年版」の作成に責任者としてかかわった。「改訂2019年版」では再び責任者として厚生労働省研究班と連携・協力し、我が国のHAE診療ガイドラインを作成。アジアで初めてHAE3型の原因遺伝子を同定した。
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