過度の飲酒は短命のもと。毛利元就、長寿の秘訣は禁酒にあり!
- 作成:2022/06/22
大河ドラマの主人公にもなった戦国時代きっての頭脳派と言われる毛利元就。三人の息子に「三矢(みつや)の訓(おしえ)」を説いたことはあまりにも有名です。その明晰な頭脳ゆえに健康にも大変気を使っていたようです。 今回は、毛利元就の長寿の秘訣について歴女医の馬渕まり先生にうかがいました。
この記事の目安時間は3分です
不遇の幼少期を経て中国地方の覇者となった元就
のちに中国地方の覇者となる毛利元就は、明応6年(1497年)3月14日に生まれました。
元就の父は安芸の国人領主(こくじんりょうしゅ)である毛利弘元、母は正室でしたが、興元という兄がおり、元就は次男でした。
この頃の毛利氏は大内氏の勢力下にあり、元就の父・弘元は、諸事情で33歳の若さで家督を興元に譲ると、本拠であった郡山城を去り、3歳の元就を連れて支城に隠居しました。
その翌年に実母が死去、元就が10歳の時、父は『酒毒』で身体を壊して急逝。この時、元就は後見役であった家臣に領地を横領され、城を追い出されるという憂き目に合い、「乞食若殿」と呼ばれるほど生活は困窮を極めました。
捨てる神あれば拾う神ありで、父の後添えがそんな元就を不憫に思い再婚もせず養育します。後年、元就が息子へ宛てた手紙の中で「養母は立派な人だった」と書いているので、血の繋がりはなくても良い母だったのでしょう。
さて、そんな元就ですが、家督を継いだ兄がこれまた『酒毒』で死去。元就は毛利家を継いだ幼い甥の後見人となり、初陣で見事な勝利をおさめました。その甥も9歳で早逝すると、今度は元就が毛利家の当主となります。
家督を継いだ元就は安芸国内で勢力を拡大、婚姻関係で周囲との結びつきを強めていきました。次男を妻の実家である吉川家へ、三男を安芸東部の名門小早川家へ養子に出し、毛利家を支える体制を作った話は有名ですね。
天文20年(1551年)、主君筋であった大内義隆が家臣の陶晴賢(すえ はるかた)に殺されたのち、弘治元年(1555年)大内氏の主権を握った陶晴賢と厳島の戦いで激突。嵐にまぎれた奇襲作戦で圧倒的な戦力差を跳ね返し勝利すると、翌年に大内氏を攻め滅ぼし、永禄3年(1560年)には尼子氏を降伏させ中国地方の覇者となりました。
このように、華々しい戦歴の元就ですが、私生活は家族思いで健康に気をつける良き父でした。夫婦間は仲むつまじく、正室が死去するまで元就は側室を置きませんでした。息子や嫁いだ娘には何通もの手紙を送り、気にかけていました。
毛利の家系はアルコールに弱かった!?
前述の通り、元就の父と兄は酒で身体を壊して亡くなっています。実は祖父もお酒が原因で亡くなったようです。
アルコールを大量に飲むと肝臓での分解が追いつかず、肝細胞で作られた脂肪が肝臓に蓄積します。これが肝細胞にダメージを与えてアルコール性肝障害を起こします。最初のうちは症状もなく禁酒で容易に改善しますが、進行するとアルコール性肝炎に、最後にアルコール性肝硬変まで進むと、肝臓の機能が保てなくなり(肝不全)、黄疸・腹水・低血糖・電解質異常・脳症などを発症、しばしば死に至ります。
また、アルコール性肝障害は飲酒量が多いほど、飲酒期間が長いほど起こりやすくなります。それに加えて遺伝的な素因も関係します。元就の家系は、祖父が33歳、父が39歳、兄が24歳という若さで死去しています。おそらく元就の家系はアルコールに強くなかったのでしょう。禁酒した元就の判断は賢明です。息子や孫にも過度の飲酒をたしなめる文を送っています。
禁酒以外も健康に気をつけていた元就は、老齢になるまでほとんど病気をせず、70歳の時に瘧(おこり:熱病)にかかった記録がある程度です。当時としては長命である75歳まで生き、なんと71歳で子どもに恵まれています。
酒を慎み75歳で「隔の病」に屈した元就
元就の死因については毛利家の文章に「隔(かく)の病」とあり、手紙に腹痛の症状があることから消化器系のがん(おそらく胃がん)ではないかと推測されます。74歳の時に発症し、1年4カ月後の元亀2年(1571年)6月14日、吉田郡山城において死去。享年75歳。嫡男隆元が死去していたため、嫡孫の毛利輝元(隆元の嫡男)が後を継ぎました。
なお、元就の臨終に際し3人の息子を枕元に呼び「1本の矢はたやすく折れるが、3本まとめると折れない」と3人が結束することの大切さを説いた逸話は、嫡男が元就より8年早く亡くなっていたため史実ではありません。しかし、まったくの作り話というわけではなく、元就が60歳の時、3人の息子に送った『三子教訓状』が元となっています。
酒を慎み長生きした元就でしたが、酒が好きな部下にはそれを諌めることはせず、褒美に酒をふるまい、酒の飲めぬ部下にはモチを配ってその労をねぎらったそうです。相手の嗜好を尊重する姿勢が人気の秘訣だったかもしれませんね。
元就は大病になって死を覚悟したのちに奇跡的に軽快し、数カ月は穏やかに過ごせたようです。死の3カ月前には知人を呼んでの花見ができるほど体調は回復し、その時に詠んだ歌が辞世となっています。
「友を得て なおぞ嬉しき 桜花 昨日にかはる 今日のいろ香は」
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