「お気に入りの物」への執着、こだわりに親はヘトヘト…。「物は壊れる」をどう伝える?
- 作成:2022/10/08
こんにちは、外科医のちっちです。突然ですが、みなさんには長年使っているお気に入りの物はありますか? パスケース、ハンカチ、ボールペン……きっと何かしらあるのではないでしょうか。「いつもと同じ」がある安心感・快適さは、誰もが共感できるところでしょう。ただし、うちの子どもたちの場合、「同じがいい」がちょっと極端なのです。
この記事の目安時間は6分です
破れてしまっても「これじゃなきゃだめ」
長女・いっちは、小学校入学の時にイオンで買った、至って普通の手さげカバンがお気に入りです。学校にも毎日持っていきますし、休日に図書館へ行く時や、家族で出かける時にも持っています。
6年間、ほぼ毎日持ち歩いているので、手さげの持ち手部分は破れかかり、洗って落ちない汚れも目立ってきています。それでもいっちは「これがいいの。これじゃなきゃだめなの」と言い、毎日そのカバンを持っていました。
そんなある日、長男・にっちが、かんしゃくを起こしました。その時、いっちの大切な手さげを手で引きちぎってしまったのです。
もちろん、にっちのことは𠮟りました。しかし、困ったのはいっちのほうです。
「破れてしまったね。新しいのを買いに行こうよ。きっと気に入るものがあるよ」と慰めてみたものの、「これがいい」としか答えないいっち。
壊れたら新しいものを買えばいい。皆さんはそう思うでしょう。
しかし発達障害の特性のひとつに、「『これがいい、落ち着く』と決めたら、融通が利かない」ということがあります。
いっちからは、「どうしてもこれじゃなきゃいけない」という強いこだわりと執着を感じていました。本人がそう言う以上、なんとかするしかありません。私たち親二人は、どうにかして同じカバンが手に入らないか、いろいろと模索しました。
1)買った店に探しに行く↓
6年前に販売されたものなので、すでに生産が終了していました。
2)フリマアプリで同じ手さげを探す↓
見つかりませんでした。
3)似たようなデザインのものを見つける↓
見つかりましたが、いっちは「手触りが違う」と言います。長年使っているので、革製品じゃなくても手さげの布は柔らかくなるし、手になじんできます。それを言われたら、もうお手上げです。
万策尽きてしまった私は、どうしたらいいのだろうと途方にくれました。
お気に入りが見つかった先の「困った」
実はわが家では、同じようなことがよくあります。
そして、「これが気に入った」→「毎日使う」の先にあるのは、失くした・壊れた→同じものがなくて「困った」です。
気に入った物が見つかったのなら、予備として同じ商品をいくつか買えばいいのでは? と思う人もいらっしゃるでしょう。しかし、それは難しいのが現実です。
なぜなら、うちの子どもたちは物に対してノラ猫のように接するため、落ち着いて使えるようになり気に入ったことがわかるのには、数日~数週間の時間が必要だからです。
「この子は、これが好きだな」と確信してから再び買いに行っても、すでにお店に置いてある商品は替わっていて、見つからないことが多いのです。
そんな時には、商品タグに書いてあるメーカーに電話をかけます。そして事情を説明し、在庫があれば購入させてもらいます。しかし、9割は「在庫がない」か、「個人のやり取りには対応していない」と答えられます。まぁ、仕方がないですよね。
購入するとしても、個人ですから10個程度です。数百、数千単位の取引と比べたら、手間や労力、得られる利益も当然違ってきます。ですから、「これは気に入った!」と判断した瞬間、お店にダッシュして、あるだけ買い占めています。
服や靴下、食べ物であればこうして対応するのですが、「カバン」となると予備をずっと保管しておくわけにもいかず、今回は困ってしまいました。
壊れたカバンを自分たちで修理! 気に入ってくれるのか…?
さて、いっちの手さげなのですが、結局は自分たちで修理をすることにしました。大雑把で細かい作業が苦手な妻が、いっちのために立ち上がったのです。
努力が実った実物をお見せできないのが本当に残念ですが……。写真の代わりに、イラストでその成果をどうぞ。6年前に手さげとセットで買った上靴入れを活用しました。
カバンと違って、こちらはピカピカです。いっちは「上靴入れを持っていくのが面倒」だと言って、上靴を手で抱えて持って行っています。ですから、6年間ほぼ未使用なのです。この上靴入れを使って、カバンの持ち手を修理することにしました。
途中、マチ針が貫通したり、縫ってみたら持ち手が曲がっていたり……。一時はどうなることかと思いましたが、本体に縫い付けたら、持ち手の曲がり方は気になりませんでした。
努力して何とか形になった手さげカバン!
ただ、難しいのは「親から見て直ったカバン=落ち着くカバン」ではないことです。本人の中で「元通りと判断されるレベル」に戻っていないと、むしろ状況を悪化させてしまうこともあります。いっちに直ったカバンを渡すまで、私たちはドキドキしていました。
幸い、いっちはこのカバンを元通りと思ってくれたようで、「直してくれてありがとう」と、元気になりました。
「物は壊れる」ことに対する折り合いのつけ方
「同じものがいい」というこだわり。わが家の子どもたちには、毎日同じ服、毎日コロッケ、毎日干し芋……など、数々のこだわりがあります。
今回は、いっちが毎日使っていたお気に入りの手さげカバンが壊れてしまいました。しかし、なんとか修理することで、いっちは落ち着きました。普段から、子どもたちは過ごしにくい外の世界で本人たちなりの不快さを飲み込んで生活しています。親として快適な環境づくりを手伝いたいものの、「判断基準が独特」「『大切』と言う割に物の扱いが雑」など、上手くいかないこともよくあります。
おそらく、いっちのカバンは遠からずまた壊れてしまうでしょう。「物が壊れること」との折り合いをどうつけさせるか、悩みながら答えを探していきたいです。
外科医師。妻(看護師はっは)と発達障害3児の育児中。記事中のイラストは、看護師はっはが担当。著書『発達障害の子を持つ親の心が楽になる本』(SBクリエイティブ)が2024年9月発刊予定。
・ブログ:「うちの凸凹―外科医の父と看護師の母と発達障害の3姉弟」
・ブログ:「発達障害の生活は試行錯誤で楽しくなる」
・note:https://note.com/titti2020/
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