信仰を貫き、異国の地で『アメーバー赤痢』に倒れた高山右近
- 作成:2022/10/25
1549年フランシスコ・ザビエルによって我が国に伝えられたキリスト教は全国で信者を獲得し、戦国大名の中にもキリスト教に帰依する者もいました。今回は、信仰を貫き異国の地で果てた武将「高山右近」について、歴女医の馬渕まり先生に解説していただきました。
この記事の目安時間は3分です
数奇な運命をたどるも、決して信仰を棄てなかった右近
高山右近は天文21年(1552年)摂津国の出身です。父の友照は三好長慶とその重臣松永久秀に仕える国人領主でした。キリスト教に感銘を受けた父が洗礼を受けたのち、右近も12歳でキリスト教徒となります。
長慶の死後、三好氏が急速に衰退、高山親子は新たに摂津守護となった和田惟政(これまさ)とその子惟長に仕え、主たる相談役となりました。しかし、元亀4年(1573年)に家臣の讒言(ざんげん)で惟政が2人の暗殺を計画、事前にこれを知った高山親子は惟長に呼び出された先で刃を交えました。この時、右近は惟長に致命傷を負わせますが、自身も首を半分切断する大怪我をしてしまいます。到底助からない傷であったにもかかわらず、奇跡的に回復した右近はキリスト教に傾倒していきます。
この事件の後、親子は荒木村重(あらきむらしげ)配下となり、友照が布教のため引退すると右近が高槻城主となりました。
ところが、天正6年(1578年)、主君である村重が織田信長に謀反を企ててしまい、右近はこれを止めようとするも失敗。信長は「降伏しないと宣教師とキリシタンを皆殺しにする」と高槻城の開城を迫り、右近は悩んだ末に信長に降伏。結果的に見ると、右近は再び高槻城主としての地位を安堵された上に、2万石から4万石に加増される異例の措置を受けました。
さて、その4年後、本能寺の変で右近は羽柴秀吉の幕下に駆けつけ、その後も賤ヶ岳の戦い、小牧・長久手の戦いなどにも参加し、秀吉の信頼を勝ち得ていきます。右近は人徳者であったため影響を受けた蒲生氏郷や黒田官兵衛など多くの大名がキリシタンとなりました。
天正13年(1585年)、右近は高槻4万石から6万石に加増の上、明石に転封となりましたが、その2年後に秀吉は「バテレン追放」を発令してしまいます。ここで右近は信仰を守ることと引き換えに、領地と財産をすべて捨てることを選びました。この時秀吉は右近の才能を惜しみ、茶道の師である千利休を説得に向かわせましたが、右近は棄教をしませんでした。
死因は、昔は『赤痢』?今なら『アメーバー赤痢』?
追放処分となった右近は、小西行長や前田利家の庇護を受け暮らしていましたが、慶長19年(1614年)に徳川家康がキリシタン国外追放令を出すと、人々の引き止める中、右近は加賀を退去し、マニラへと渡ります。同年12月にマニラに到着した右近は大歓迎されました。しかし、船旅の疲れや慣れない気候のため老齢の右近はすぐに病気にかかってしまいます。激しい下痢と腹痛の記述から『アメーバー赤痢』が疑われます。
アメーバー赤痢は下痢、血便などを主な症状とする消化器感染症で、熱帯、亜熱帯での発生が多い病気です。細菌性に起こる赤痢と症状が似ており、昔は区別ができなかったので『赤痢』が病名に入っています。病原体は名前のとおり病原性の「赤痢アメーバー」です。
発展途上国で感染する場合は、感染者の便中にいる赤痢アメーバーに汚染された食物や水を非加熱で食べることにより感染します。アメーバー赤痢による腸炎は断続的な下痢、腹痛、そしていちごゼリー状の粘液血便を特徴とし、便の回数は1日数回から数十回におよびます。
細菌性の赤痢に比べ症状は弱く、通常は軽症で済みますが、衰弱して死亡する例や、まれにアメーバーが腸外に感染する場合もあります。日本においては一般集団で流行しておらず、流行地からの帰国者などで年間患者数は数百人程度、死亡者は数人です。治療は薬(メトロニダゾールなど)の服用です。
さて話を戻しましょう。
フィリピンの地を踏んでからわずか40日後の慶長20年1月6日(1615年2月3日) 、右近の魂は神の元へと召されました。享年64。
洗礼名ユスト(ポルトガル語で正義の人)の名の通り、地位も財産も捨て信仰を貫いた生涯でした。
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