実例でわかる軽度認知障害(MCI)の初期サインと受診の促し方

  • 作成:2023/11/14

今や65歳以上の6人に1人が認知症と診断されると言われています。認知症の研究は年々進んでおり、普段の生活に支障はないけれど、認知症の一歩手前の段階である、「軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment:以下MCI)」で発見できれば、進行を遅らせたり、症状を緩和できたりする可能性があります1)。 MCIを発見するポイントは何か、またMCIや認知症がわかったらどうすればいいか、筆者の母の事例と合わせて紹介します。

石飛信 監修
医療法人 全人会 仁恵病院 副院長
石飛信 先生

この記事の目安時間は6分です

実例でわかる軽度認知障害(MCI)の初期サインと受診の促し方

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軽度認知障害(MCI)を疑うポイント

年齢を重ねていけば、物忘れは増えて当たり前です。ただ、普通の物忘れと認知症とは少し違います。
人の名前を思い出せなかったり、予定をうっかり忘れることは、若くてもあります。いわゆる「ど忘れ」です。しかし、認知症と診断されるレベルに近づくと、これが頻繁になり、忘れていること自体を忘れてしまうことが増えてきます。
筆者の母の場合も、探し物をしている最中に、何を探しているのか、何をしていたのかが、わからなくなってしまうことが、よくありました。

加齢で起こる物忘れと認知症による物忘れの違い

軽度認知障害(MCI)を疑うポイントと受診の促し方

さらに、認知症とMCIの大きな違いは、自立した生活ができるか、ということです。
MCIの場合、物忘れをしているという自覚があるので、大切なことをメモに取ったりすることで、記憶障害を補いながら日常生活を送ることは一般的に可能です。ただし、高度な認知機能を要する複雑な作業などが苦手になっていき、「昔はこんなこと1人で簡単にできていたのにな…」と家族が思うことが多くなります。

MCIには、記憶障害が主体の「健忘型MCI」と、記憶障害は明らかではないものの遂行機能障害(段取って作業ができない)や、着衣失行(服の着方がわからなくなる)などが目立つ「非健忘型MCI」に大別されます2)
以下、最も患者数の多い、アルツハイマー型認知症と健忘型MCIの違いについて解説します。

MCIのうちに発見できれば、認知症への進行を遅らせることもできます。MCIによる物忘れは、加齢による物忘れと間違われやすいですが、以下の3つが、MCIを疑うポイントになります3)

  • 以前と比べてもの忘れなどの認知機能の低下がある、本人が自覚している、または家族等によって気づかれる
  • 物忘れが多いという自覚がある
  • 日常生活にはそれほど大きな支障はきたしていない

参考のため、筆者がのちにアルツハイマー型認知症と診断された母のMCIを疑った初期のサインを以下に記しておきます。

1)料理をしなくなる。
2)うつ状態になる。
3)何本ものサランラップが買い置きされている(同じものがいくつもある)。
4)何度も同じことを言う。
5)今日が何月何日か聞いても答えがあやふや。
6)銀行に行って、暗証番号が出てこない。
7)買い物に行って、計算がすぐできずにお札ばかり使い、小銭が増える。
8)外出したがらない。
9)掃除機をかけたのを忘れて1日に何度も掃除する。
10)ストーブの火が心配になり、消したばかりの天板に手を当て火傷する。

上記1、9、10のような具体的なもの以外は多くの方が当てはまるようで、東京都福祉保健局のチェックリストでもその多くが共通しています。

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認知症専門病院の受診方法

認知症は、本人にとってなかなか受け入れがたい病気です。そのため、前述のような物忘れや生活上の変化があっても、自ら認知症の専門病院へ行こうとはなかなか思いません。家族が「認知症かどうか調べに行こう」といっても、言うことを聞かないことも多いでしょう。そこで、記憶力が低下したと本人が感じた時、「物忘れが本当にひどいか、調べてみよう」などと、認知症という言葉をあえて出さず、本人の自尊心を傷つけないようにして受診を促すことも有用な方法の一つです。

また、受診をためらう場合は、各種webサイトに掲載されている認知症のセルフチェックを、本人、もしくは家族で行ってみるのも一案です。

筆者の母の場合も、料理中の度重なる鍋のかけ忘れなどに本人が「私の頭、どうなっちゃったんだろう」と不安を訴え、最終的には、認知症の専門病院を母自らの医師で受診しました。このときは、「物忘れが心配だったら、一度調べてみたら?」と何気ない会話で誘いました。

では、認知症かどうかを調べるにあたって、何科を受診すればよいのでしょうか。認知症の診断・治療については、神経内科、精神科を標榜している医療機関に受診するとよいでしょう。その際は医療機関のホームページを参照し、認知症を積極的に診療しているかについて調べてみるのも有用です。認知症の専門医の場合、治療や薬に対する知識はもちろんですが、認知症患者を介護する家族にも、的確なアドバイスをしてくださいます。

また、担当医や病院が合っていないと感じた場合は、疑問点を遠慮なく伝えることが大事です。それでもうまく担当医とコミュニケーションが取れない場合や治療方針に疑問を感じる場合は、病院をかえてみる、セカンドオピニオンを希望するなどの方法を検討してみてもよいかもしれません。

母の場合、最初の病院でMCIがわかり、2〜3年通院していました。しかし、通院を嫌がり、症状も悪化しているように感じました。そのため、すぐにケアマネジャーに相談し、病院をかえたところ、かわった病院では認知症の診断が下されました。
次の病院では先生とのコミュニケーションもとれ、母も明るくなりました。その後、目立った進行もなく、7年間介助を受けながらも、普通に生活できています。

※ケアマネジャー:介護保険法に規定された専門職。認知症などで介護認定された人の介護サービスのプランを立てたり、サービス全体をマネジメントする。

1)Midtown Clinic
2)精神科・内科油山病院
3)厚生労働省「知ることからはじめようみんなのメンタルヘルス」

2003年福井大学医学部卒。福井大学神経科精神科助教を経て、2013年国立精神・神経医療研究センター 思春期精神保健研究室長。2023年より仁恵病院副院長。現在、主に精神科救急医療に従事。専門は児童精神医学。児童のメンタルヘルス向上を目的とした「かかりつけ医等発達障害対応力向上研修」、「児童思春期の精神疾患薬物療法ガイドライン作成」に責任者として携わった。日本精神神経学会専門医・指導医、精神保健指定医、日本児童青年精神医学会認定医、子どものこころ専門医、日本臨床精神神経薬理学会専門医、日本医師会認定産業医、医学博士。

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