【早期発見】早期発見が重要。でも気づきにくい軽度認知障害(MCI)
- 作成:2022/11/11
本人や家族が「認知機能」の衰えを感じる機会はあるものの、日常生活に大きな支障を来たすほどではない状態のことを「軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)」といいます。このMCIの段階で適切に対応することができれば悪化を食い止めたり、認知症への進行を遅らせたりできる可能性があります。本記事では、MCIと認知症の違いや、認知症への進行を防ぐためにできることをご紹介します。
この記事の目安時間は6分です
軽度認知障害(MCI)って何?
「軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)」とは、本人や家族が「認知機能」の衰えを感じる機会はあるものの、日常生活に大きな支障を来たすほどではない状態のことを指します。「MCI」と「認知症」は、明確に線引きして区別できるものではありませんが、違いは、「本人が認知機能の衰えを自覚しているかどうか」や「日常生活に支障があるかどうか」といった点です。MCIの段階では、日常生活の中で特に大きく困ることはないので、本人も家族も気づきにくい、という難点があります。
MCIの診断は、認知症の診断と同様、「記憶力」だけでなく「注意力」や「情報処理能力」、「言語機能」など様々な機能を評価した上で行われます。まず「記憶」の機能低下が見られるかどうかによって、「健忘型」と「非健忘型」に分けられますが、機能低下を起こしている認知機能の種類の数によって、さらに「single domain」と「multiple domain」に細かく分けられます。認知症というと「物忘れ」と思ってしまいがちですが、記憶力低下がないMCIもあることに注意が必要です。
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MCIと認知症の関係
主に加齢がリスク因子になるアルツハイマー型認知症において、MCIは「認知症」を発症する前段階とされています。しかし、MCIの方全員が必ず認知症に移行もしくは進展するわけではありません。MCIの状態からアルツハイマー型認知症へ進行するのは、2年で4.8%程度1)、累積でも6.8~8.1%程度2)とされています。ただし、1つの領域にしか機能低下がない「single domain」に比べると、複数の領域に機能低下がある「multiple domain」では4年で20%程度が認知症へと進行するとされている3)ことから、同じMCIでも警戒の仕方は変える必要があります。
一方、一度MCIと診断された人でも、2年の間に20~40%程度1)の人が正常に戻るとされています。つまり、MCIと診断されたからといって、それだけで認知症が不可避なものになった、というわけではありません。適切に対応することができれば、それ以上の悪化を食い止めたり、認知症への進行を遅らせたりできる可能性もあるため、MCIと診断された時点からできる手立てを講じることが大切です。
認知症への進行を防ぐためにできること
MCIから認知症への進行を防ぐためには、たとえば有酸素運動4)や脳トレのような知的活動5)の効果が報告されています。これらの活動は、肉体や精神活動を衰えさせないためにも重要ですので、一石二鳥の取り組みになります。ただし、いずれも劇的な効果があるわけではない6)ため、複数の取り組みを組み合わせて、根気強く行うことが重要と考えられます。また、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの持病は、「アルツハイマー型認知症」や「血管性認知症」のリスクになります7)。そのため、こうした持病の治療を改めてしっかり行い、血圧や血糖値などをうまくコントロールすることも、間接的に認知症への進行を防ぐ手立てとなります。
こうした認知症への進行を防ぐ手立てを講じるとともに、実際に記憶力や認知能力が低下してきても日常生活に大きな支障をきたさないよう生活基盤を整えておく(例:曜日カレンダーを設置する、GPS機能のついた携帯電話に切り替える等)ことも、非常に重要です。
1) Alzheimers Dement . 2013 May;9(3):310-317.
2) Acta Psychiatr Scand . 2009 Apr;119(4):252-65.
3) Clin Geriatr Med . 2013 Nov;29(4):753-72.
4) Int J Nurs Stud . 2018 Mar;79:155-164.
5) Ageing Res Rev . 2013 Jan;12(1):263-75.
6) Cochrane Database Syst Rev . 2011 Jan 19;(1):CD006220.
7) Neurology . 2011 Apr 26;76(17):1485-91.
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2003年福井大学医学部卒。福井大学神経科精神科助教を経て、2013年国立精神・神経医療研究センター 思春期精神保健研究室長。2023年より仁恵病院副院長。現在、主に精神科救急医療に従事。専門は児童精神医学。児童のメンタルヘルス向上を目的とした「かかりつけ医等発達障害対応力向上研修」、「児童思春期の精神疾患薬物療法ガイドライン作成」に責任者として携わった。日本精神神経学会専門医・指導医、精神保健指定医、日本児童青年精神医学会認定医、子どものこころ専門医、日本臨床精神神経薬理学会専門医、日本医師会認定産業医、医学博士。
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