認知症にならないためにできることは?専門医に聞く「予防のポイント」
- 作成:2024/03/23
これまで「早くみつけて治療を始めること」が重要とされてきた認知症ですが、近年は「認知症になる前にリスクを予見し予防を始めること」が重視されるようになってきました。 今回は、前回に続き、認知症研究・診療の第一人者である新井平伊先生に、認知症予防のポイントについてお伺いします。
この記事の目安時間は6分です
どうすれば認知症を予防できるのでしょうか?
新井先生
食事、運動、睡眠の3つが最重要で、生活習慣の改善がまずは望まれます。喫煙習慣や飲酒習慣の改善も重要です。
認知症の予防については、2019年に世界保健機関(WHO)が12項目の指針を出しており、基本的にはこれを参考にするのがよいと思います。
認知症予防のための12項目
① 身体活動の介入
② 禁煙の介入
③ 栄養の介入
④ 適正飲酒の介入
⑤ 認知機能の介入
⑥ 社会活動
⑦ 体重の管理
⑧ 高血圧症の管理
⑨ 糖尿病の管理
⑩ 脂質異常症の管理
⑪ うつ病の管理
⑫ 難聴の管理
世界保健機関(WHO)「認知機能低下および認知症のリスク低減(Risk Reduction of Cognitive Decline and Dementia)のためのガイドライン」より
指針の①「身体活動の介入(運動)」や③「栄養の介入(食事)」について、ポイントはありますか?
新井先生
運動は、少し汗をかく程度の有酸素運動をおすすめします。同時に頭を動かすとなおよいので、体を動かしながら歌を歌ったり、散歩しながら俳句を考えたりすることなども効果的です。ただ同じことを繰り返すのではなく、楽しみや意欲を持つことで脳は活性化します。
食事も、特定の食材にかたよることなく、バランスよく食べることをおすすめします。
指針の⑤「認知機能の介入」とは、どんなことをすればよいでしょうか?
新井先生
よく認知機能を上げるための方法として、計算ドリルやパズルなどのいわゆる「脳トレ」があげられることがあります。しかし、これの有効性に関しては疑問があります。基本的には同じことの繰り返しで、脳の同じ場所しか使わないからです。
私は、そういった脳トレよりも、トランプゲームや囲碁、将棋、麻雀など、人と楽しむゲームをおすすめします。これは指針の⑥「社会活動」とも関わる話ですが、認知機能を低下させないためには人との関わりがとても重要です。
対人ゲームをやっている時は、相手がどんなことをやってくるか想像し、今までの経験を活かして自分はどう立ち回るか作戦を立て、迷いながら決定して実行します。そして勝ち負けで喜怒哀楽さまざまな感情が引き起こされます。脳のいろいろなところを使うので、一人でやる脳トレよりも認知機能の改善に効果的であると考えられます。
指針の⑦から⑫は体重や持病の管理に関する項目ですが、これらは認知症の予防にどう関わるのでしょうか。
新井先生
高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病は、心臓や脳の血管障害、さらに認知機能低下や認知症発症のリスクを高めます。特に、糖尿病の人は糖尿病でない人に比べて2倍認知症になりやすいという報告があります。認知症の予防のためには生活習慣病をしっかり治療する必要があります。
また、難聴は、コミュニケーションに悪影響をおよぼすため、孤立を招いて認知機能を低下させます。優れた補聴器などを使い、コミュニケーション能力と社会性を維持することが大切です。
睡眠のポイントはありますか?
新井先生
人は寝ているときに脳に溜まった老廃物を脳の外に洗い流しています。この機能がきちんと働かないと、脳に老廃物が溜まり続けてアルツハイマー病につながる可能性があります。睡眠を妨げる睡眠時無呼吸症候群は必ず治療しましょう。
最適な睡眠時間には個人差がありますが、疫学的なデータでは、6時間半から7時間眠る人が最も認知症になりにくく、6時間未満または8時間以上眠る人は2倍認知症になりやすいことがわかっています。
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1984年順天堂大学大学院医学研究科修了。東京都精神医学総合研究所精神薬理部門主任研究員、順天堂大学医学研究科精神・行動科学教授を経て、2019年よりアルツクリニック東京院長。順天堂大学医学部名誉教授。日本老年精神医学会前理事長。1999年、日本初の「若年性アルツハイマー病専門外来」を開設。2019年、世界に先駆けてアミロイドPET検査を含む「健脳ドック」を導入した。
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