羊水過少症とは?原因は?胎児や出産に影響?解消できる?
- 作成:2016/02/26
羊水過少とは、文字通り「羊水が少ない」状態です。原因は母体、胎児、どちらの可能性もありますが、胎児に大きな影響を与える可能性があります。どのような影響があるのかや、見落とさないためにできることなども含めて、専門医師の監修記事で、わかりやすく解説します。
この記事の目安時間は3分です
羊水過少症は「100ml未満」
羊水が基準量より少ないことを「羊水過少」といいます。羊水の量は妊娠経過にあわせ推移しますが、一般的に妊娠30週から35週目で800ml(ピーク)に達し、40週目から減少しはじめ(500ml以下)出産を迎えます。
妊娠初期では、羊水の大部分は「絨毛膜」という部分から分泌された物ですが、少しずつ胎児の尿に置き換えられていきます。胎児は、羊水を飲んで、肺、小腸、血液、腎臓へ栄養を与えます。そして排尿や、皮膚から分泌液、肺から肺胞液を出しながら、羊水量を調節しています。
羊水の大切な役割は2つあります。1つ目は胎児を守るクッションとしての役割です。日常生活のなかで急に転んでしまったり、またお腹をなにかにぶつけてしまったりということがありますが、羊水で満たされているため胎児には直接その衝撃が伝わりません。
2つ目の役割は、胎児の発達の場としての役割です。羊水のなかで胎児は手足を曲げたり伸ばしたり体を回転させたりして、自由に運動して筋肉と骨格を発達させています。このように、羊水は胎児の生育環境そのものだということが理解できます。したがって、羊水量そのものが母体そして胎児の状態と密接に関連していると考えられており、妊娠中の羊水量を適切に把握しておくことが大切といわれています。
羊水過少症は「100ml未満」
羊水過少になる原因として、医学的に、以下の6つとされています。
・羊水産出(胎児の尿)の減少
・羊膜腔からの羊水流出(破水)
・胎児の腎尿路器の器質的異常(臓器の形の異常)
・胎児の尿量産出の機能的減少(臓器の本来の働きの異常)
・医原性(医療行為が原因で生じる疾患)
・特発性(原因不明の疾患)
さらに詳しく説明すると、母体側の原因として「妊婦高血圧症候群」「抗リン脂質抗体症候群」「膠原病」「血栓症」などにより「胎盤機能不全」を起こしている場合、そして胎児側の原因として「腎無形性(腎臓ができないこと)」「腎異形成(腎臓の形成に異常があること)」「閉鎖性尿路障害」「胎児染色体異常」などが起こっている場合です。
羊水過少の原因の半分は胎児側に問題があるといわれています。また子宮の血流減少も羊水減少の要因の1つと考えられています。子宮の血流が減少すると、血液が胎児の心臓や脳へ優先され手足や腎臓は後回しとなり、結果として胎児の腎臓から産出される尿も減るため、羊水が減るという仕組みです。
また出産前に破水してしまう前期破水は妊娠中期の羊水過少の原因の約3割を占めています。妊娠中に服用する解熱剤や鎮痛剤なども、胎児の腎動脈を攣縮(れんしゅく、けいれんせいの収縮)するため尿量が減ることがわかっています。
羊水過少の症状と胎児と出産への影響
羊水過少は自分で気づくことは少なく、多くは超音波検査によって判明しています。羊水の減少が母体に異常な変化をもたらすことはないため、羊水過少による自覚症状はありません。
羊水過少の影響として、まず、胎児への負担が真っ先にあげられています。羊水が減少すると、胎児は子宮から圧迫されるため、血流が悪くなり、胎児にうまく酸素や栄養が十分に届かなくなります。そのため胎児機能不全になる可能性があります。また、胎児が飲める羊水の量が極端に減ることによる胎児の肺活動の低下があげられています。このような状態になると胎児の生命は大変危険な状態になります。羊水過少は母体よりも胎児への影響が非常に懸念されているのです。
出産時の影響としては、分娩時の子宮収縮の際、へその緒が圧迫され胎児が低酸素状態になる、あるいは微弱陣痛となりなかなか胎児が出てこられない状態になるなどもあげられており、このような場合は緊急帝王切開による出産となることもあります。
何科を受診する?治療方法について
羊水過少は、かかりつけの産婦人科を受診することで判明します。妊婦は妊婦健診において定期的に母体と胎児の健康状態を確認することになっており、検診では、内診と超音波検査がほぼ毎回行われます。また、必要に応じて血液検査が行われます。羊水量は超音波検査で判明し、また、早期破水は内診で見つかる事も多いので、妊婦健診はとても大切な機会なのです。
羊水過少症を治療するにあたり、まず、なぜ羊水が減ってしまったのかという原因を特定することが必要になります。胎児の疾患が原因なのかあるいは母体側に原因があるのか、そして妊娠週によっても治療方法が異なってきます。
まず胎児の疾患が原因の場合、産婦人科や、各地区の周産期センター等の胎児診療科や胎児外来科など胎児専門の科が治療を担当します。胎児がどのような疾患を持っているのか特定しそれに合った治療が行われます。羊水過少の場合、胎児の腎無形性、腎異形成、尿路閉塞が原因であることが多いのですが、その症状によって治療と対応は全く異なってきます。胎児の腎尿路の異常は、4つの段階に分けられています。
1致死的異常(現在の医学では腎機能の改善が全く期待できず、胎児死亡あるいは出生時の呼吸不全死亡のケース)
2重症で放置すると出生後早期に腎不全を来す疾患(多くが妊娠20週から30週で羊水過少が起こっています)
3腎不全の危険性が少ない疾患
4軽度の尿路拡張(3.4は胎児の成長や奇形の有無など詳しく検査をしてゆきます)。
現在は、尿路閉塞では、膀胱・羊水腔シャント術(子宮内で胎児の膀胱から尿を羊水腔に排出できる経路を形成する手術)が有効といわれていますが、妊娠30週目以降は予後不良になるケースが出ています。また羊水過少では胎児が仮死状態になることもあり厳密なモニタリングが必要です。胎児の仮死状態を防ぐために早く分娩して胎児を救うケースもあります。このように胎児の疾患が判明した場合は医師としっかり相談し、できる限りのことをつくします。
母体側に問題がある場合は、妊娠高血圧症候群、胎盤機能不全、肝腎機能障害など重い合併症も懸念されるため、産科と母性内科などが連携して治療を行ってゆきます。人口羊水注入(温めた生理食塩水などを子宮内に足してゆきます)を実施することもあれば、子宮への血流をよくするために子宮収縮抑制剤投入(内服や点滴)を実施することもあります。それでも羊水過少が改善されない場合は分娩を早めることを視野に入れます。分娩時に羊水過少になった場合は緊急帝王切開が必要になることもあります。
羊水過少は予防できるのか?
羊水過少には確立された予防策というものはありません。現在できることは「母体の健康管理」そして「妊婦健診で胎児の状態を把握する」この2点です。私たちが実践できることは、胎盤機能不全を引き起こさないために、母体と胎児に悪影響を与えるようなこと、特に喫煙はしない、食品摂取の徹底管理、適度な運動を心がける、感染症予防対策、ストレスをためない生活スタイルなど、日常生活そのものです。そしてなによりも大切なのは、胎児の疾患を見落とさないために定期的な妊婦健診を絶対に忘れないことです。
羊水過小についてご紹介しました。もしかして羊水過少かもしれないと不安に感じている方や、疑問が解決されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?「病院に行くまでもない」と考えるような、ささいなことでも結構ですので、活用してください。
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