IgA腎症の原因、症状、治療 扁桃腺摘出に?妊娠へのリスクとは?検査、重症度、食事の注意点、腎不全になる確率も解説

  • 作成:2016/03/24

IgA腎症は、腎臓に炎症や腎臓の機能に影響が出る腎臓病の1つですが、しっかりとした原因はわかっていません。治療には扁桃腺を摘出したり、ステロイドを用いたりします。妊娠との関係も含めて、専門医師の監修記事でわかりやすく解説します。

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この記事の目安時間は6分です

IgA腎症の症状とは?
IgA腎症患者は日本に3万人
IgA腎症の原因
IgA腎症の症状
4割が末期腎不全に
IgA腎症の検査
「腎生検」とは何か? できない人も
IgA腎症の重症度判定
IgA腎症の治療 なぜ扁桃腺摘出(扁摘)?
「ステロイドパルス」とは?有効?
IgA腎症の治療 血圧はどうする?
IgA腎症は完治する?
IgA腎症の時の食事
IgA腎症と妊娠 胎児に影響する可能性も

IgA腎症患者は日本に3万人

腎臓は小さな「糸球体(毛細血管の固まり)」によってできた臓器で、不要な水分や老廃物、電解質を尿として体の外へ排出しています。腎臓には、他にも「エリスロポエチン」という赤血球を刺激するホルモンの分泌や、ビタミンDの活性化などの役割があります。

IgA腎症は、腎炎の中で最も多く、日本では、約3万人がIgA腎症と診断されています。海外では男性が多く発症すると言われることもありますが、日本では性別ごとの発症率の差が認められていません。

IgA腎症になりやすい年齢は特になく、子供から大人までいつでも発症する可能性があります。

一般的に遺伝しないと考えられていますが、一部に家族性でIgA腎症を認める(特定の家族に高い頻度で発生する)ことがあり、その場合には「家族性IgA腎症」と呼びます。

IgA腎症の原因

IgA腎症の原因は未だに詳細はわかっていませんが、腎臓に沈着している「免疫グロブリン(IgA)」という物質は、血液中に存在するIgAに由来すると考えられています。血液中のIgA抗体(免疫機能で、外部からの異物と戦うもの)と何らかの抗原などが結合して「免疫複合体」という形になり、それが腎臓に沈着して炎症を起こすのではないかと言われています。抗原(抗体を引き起こすもの)としては、ウィルスや食べ物、自己抗原など様々ものが挙げられていますが、結論には至っていません。

IgA腎症の症状

IgA腎症の症状は腎臓の炎症の状態や障害の程度によって異なります。ほとんどの人は無症状で、健康診断などで血尿や蛋白尿を指摘され、精密検査によってIgA腎症と診断されることがあります。

時に、急性腎炎のような症状を起こす可能性があり、「急性上気道炎」いわゆる風邪などの数日後、目で見て分かる血尿を認めることもあります。目で見て分かる血尿は、コーラ色の尿、ワイン色の尿と表現する人もいます。

IgA腎症が原因で「ネフローゼ症候群」を起こすこともあります。ネフローゼ症候群を起こした場合には、足や手のむくみ、高度な蛋白尿による尿の泡立ち、高血圧などの症状が出ることがあります。

4割が末期腎不全に

IgA腎症は、慢性的に経過していく病気なので、定期的に病院で腎機能や尿の検査を行います。通院して、長期間経過を見ても、血尿や蛋白尿はあるものの腎機能障害やその他の症状が伴わないこともあれば、腎機能の障害が進行して末期腎不全に移行することもあります。

具体的には20年の経過で、約40%が末期腎不全になる可能性があると言われています。末期腎不全になった場合には、自分の腎臓が機能しないため水分や老廃物、過剰な電解質などを自力で尿として排出できなくなります。また体に溜まった尿毒素によって、めまいや吐き気、頭痛、かゆみ、眠気、意識障害、貧血などを起こすことがあります。手や足がむくむだけでなく、心臓や肺に過剰な水がたまり心不全や呼吸不全になり、命に関わる可能性もあります。

IgA腎症の検査

検査はまず血液検査、尿検査を行い、腎機能に障害がないかや、尿蛋白や血尿の程度を把握します。IgA腎症の原因に、血液中の免疫グロブリンであるIgAが関与しているのではないかと言われていますが、血液検査ではIgAの値が低い人も高い人もいるので、IgAの値だけでは、確定的な診断(間違いないという診断)はできません。しかし、IgA腎症の場合、「IgA値315mg/dL以上」という方が多くいるのも事実です。

「腎生検」とは何か? できない人も

IgA腎症の確定診断には、「腎生検」と呼ばれる検査を行います。腎生検は、腎臓に、直接細い針を刺して、腎臓の組織を採取し、顕微鏡で糸球体の変化を観察する検査です。うつぶせで超音波を用いながら、腎臓の位置を確認して針を刺すので、うつぶせの姿勢を長期間維持できない、呼吸状態や意識状態が悪い場合には実施ができません。また、腎臓に針を刺して、出血する可能性があるため、出血した際、血液の状態が原因で止血が難しい状況(「出血傾向」と言います)の人にも行うことができません。腎生検を行った後は、出血をしないように安静が必要なため、病院によりますが3日から5日間入院することが多いです。

腎生検で採取した腎臓の組織を観察すると、腎臓を構成する糸球体や尿細管、血管などの状態がよくわかります。病気を発症して間もないか、長い時間が経過しているかも分かります。

IgA腎症の重症度判定

腎生検の検査結果で、全体の糸球体の中で、障害を受けている糸球体が何%あるか、また急に症状が出たか慢性的な状態なのかで、腎臓の予後(今後の予測される経過)を予測します。最も悪い状態は、75%以上の糸球体に障害がある場合と考えられています。

また、尿蛋白と腎機能障害の程度によってIgA腎症の重症度を判定します。「1日に尿蛋白が0.5g以上」出ている状態で、腎機能がeGFR(腎臓の働きを見る指標)で「60mL/min/1.73m2未満」のものは重症度が高いと判断します。以前は、血液中の「クレアチニン値」という指標で腎機能障害の程度を判断していましたが、クレアチニン値は年齢や性別で差が出てしまうため、最近はeGFRを用いるようになりました。eGFRの計算には、血液中のクレアチニン濃度、年齢、性別が必要です。正常値は90以上で、60未満の状態が長期に渡って続く時には腎機能障害があると判断されます。

病気が進行するとeGFRは徐々に低下し、末期腎不全の場合には15未満になります。腎代替療法(腎臓の機能を補うための治療)のための準備、具体的には血液透析の場合にはシャント血管の作成、腹膜透析の場合には腹膜透析用カテーテルの挿入、腎移植のためには術前検査などはeGFRを指標に行うのが一般的です。医師の判断によりますが、15未満になると検討を始めることが多いです。

IgA腎症の治療 なぜ扁桃腺摘出(扁摘)?

IgA腎症の治療は、未だに確立されていませんが、基本的に生活指導、食事療法に加えて、降圧薬による血圧のコントロールを行います。

「急性上気道炎」(いわゆる風邪)の後に血尿を認め、IgA腎症を発症することがあることから、扁桃炎とIgA腎症の関連が原因の1つとして挙げられており、日本国内から世界に向けて、扁桃腺摘出術がIgA腎症に有効であるという報告が出されています。

「ステロイドパルス」とは?有効?

扁桃腺摘出術にステロイドパルス療法を追加することで、ステロイドパルス療法単独よりも予後が良かったという報告もあり、国内の多くの施設で行われています。

ステロイドとは、強い炎症を抑える薬で、「ステロイドパルス療法」の時には1日1g以上、大量のステロイドを点滴静注で投与します。IgA腎症では腎臓に炎症が起きているため、ステロイドを大量に投与することで炎症を抑え、腎機能が改善するのではないかと考えられています。ステロイドパルス療法の後には、状態を維持するために、1日30mgから40mgのステロイド薬を内服します。その後は2年間かけて徐々にステロイド量を減らしていく方法が、日本腎臓学会のガイドラインでは推奨されています。

しかし、治療開始時にすでに腎機能が「eGFR60未満」の場合は、腎臓の機能がかなり失われている場合は、ステロイドによる効果は少ないと考えられています。

ステロイドは強い抗炎症作用がありますが、免疫力を低下させる作用もあるため、感染症などの副作用に気をつけなくてはいけません。また胃潰瘍や十二指腸潰瘍、骨粗鬆症、血栓症などの合併症を起こす可能性があるため、それぞれに対し胃や腸の粘膜保護薬、骨粗鬆症治療薬、抗血栓薬などを同時に内服することで予防します。

IgA腎症の治療 血圧はどうする?

高血圧の状態があると、腎機能障害を進めてしまうことが分かっているため、血圧の目標は「130/80mmHg未満」です。ただし、尿蛋白が1日1g以上出ている場合には、より血圧をおさえる方向となり、「125/75mmHg未満」を目指します。

降圧効果だけでなく尿蛋白を抑制する効果も期待できる降圧薬「アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)」や「アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)」が第1選択(最優先で選択される薬)とされています。

これらの薬は効果の上では問題ないのですが、腎機能低下している方や高齢者の場合、血液中のカリウムを上昇させたり、一時的に腎機能障害が増す可能性があります。カリウムの異常な上昇は、不整脈や心停止の原因になり非常に危険なため、少量の薬から開始し、採血検査でカリウムや腎機能に異常が起きないか確認しながら増量します。

この他には免疫抑制剤による治療が試みられており、腎機能障害が進行しているIgA腎症に対し、「シクロフォスファミド」「アザチオプリン」などを、ステロイドと併用すると有効であるという報告もあります。

IgA腎症は完治する?

IgA腎症は慢性に経過し20年かけて全体の約40%が末期腎不全に至ると言われています。しかし残りの60%は、末期腎不全にはならない程度の腎機能障害があるか、治療や経過観察によって尿蛋白が正常範囲になり、腎機能障害もない人が含まれます。IgA腎症を発症したばかりで、腎臓の状態が悪くない場合には、扁桃腺摘出術とステロイドパルス療法によって完治する人もいます。ただ、中には完治した後に、風邪などをきっかけに再発する方もいます。

IgA腎症の時の食事

IgA腎症に対する食事療法の基本は、塩分制限と蛋白制限です。過剰な塩分摂取は高血圧を誘発することが分かっているため、塩分摂取量は「1日6g未満」が理想とされています。塩や味噌、醤油などに味付けを頼らず、こしょうや唐辛子、だしなどで工夫をするように指導します。

大量のタンパク質を摂取すると腎臓に負担がかかることが分かっているため、腎機能障害がある場合には「1日0.8-1.0g/kg以下(標準体順の場合)」にするように指導があります。例えば標準体重が60kgの人の場合には、1日のタンパク摂取量は48gから60gが理想です。腎機能障害がさらに進行した場合には、1日0.6gから0.8g/kgに制限することもあります。

生活習慣に関しては、禁煙、肥満がある場合には減量、適正飲酒、適度な運動を指導します。腎機能障害が高度の場合には、激しい運動は推奨されていません。ウォーキングや軽いジョギング、ストレッチなどの軽めの有酸素運動は可能です。

IgA腎症の治療は未だに確立していないため、今後も研究が重ねられ、現在よりも有効な方法が提示される可能性があります。

IgA腎症と妊娠 胎児に影響する可能性も

IgA腎症の治療ガイドラインにおいて、「高リスク群」「超高リスク群」と、リスクが高いと判断された場合には、妊娠・出産には厳重な注意が必要とされています。高リスク群や超高リスク群とは、腎生検の結果、腎臓の障害が強く、尿検査で「尿蛋白が0.5g以上」「eGFR60未満」などとなった場合です。

高血圧や腎機能障害、尿蛋白が多い状態で妊娠すると、妊娠中に血圧が上昇し脳出血や腎機能障害がより悪くなるなど、母体に様々な合併症を起こす危険があるだけでなく、胎児の発育にも影響を与える可能性があります。そのため妊娠を希望する女性の場合には、血圧や尿蛋白などの管理を行い、コントロールできた状態で妊娠を許可するようになっています。

またIgA腎症に対する降圧薬で、第1選択薬である「アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)」や「アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)」は胎児への悪影響が懸念されているため、妊娠中には内服してはいけないことになっています。妊娠を希望する前には、事前に胎児に影響の少ない降圧薬に切り替えます。

妊娠は腎臓だけでなく様々な臓器に負担がかかると言われています。IgA腎症のコントロールが良い状態で無事に妊娠・出産できた場合でも、出産後に急激に腎機能障害が進行する可能性もあるため、事前に医師とよく相談することが大切です。

IgA腎症の原因から症状、治療まで幅広くご紹介しました。腎臓の機能などに不安を感じている方や、疑問が解決されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?「病院に行くまでもない」と考えるような、ささいなことでも結構ですので、活用してください。

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