妊娠初期の腹痛、お腹の張り、腰痛、卵巣痛、卵巣の腫れと対応 要注意の腹痛とは?

  • 作成:2016/10/10

妊娠初期には腹痛や卵巣痛などが起きることがあります。腹痛は問題がない場合もありますが、危険な病気のサインの可能性もあります。お腹の張り、卵巣の腫れも含めて、専門医師の監修記事で、わかりやすく解説します。

平松晋介 監修
ちくご・ひらまつ産婦人科医院 院長
平松晋介 先生

この記事の目安時間は6分です

目次

妊娠初期と腹痛、お腹の張りの関係 チクチクする?

妊娠初期にお腹に痛みを感じると、「もしかして流産かも・・・?」と不安を感じてしまうかもしれませんが、実は、妊娠初期に腹痛を感じる人は少なくありません。特に多いのが、下腹部が引っ張られるような、チクチクとした痛みです。これは、子宮が大きくなることによって起こる腹痛です。

妊娠初期(1カ月から4カ月)はものすごいスピードで子宮が成長します。妊娠前は鶏卵くらいの大きさだったものが、妊娠4カ月までには1.5倍から2倍程度にまで膨らみます。それに伴い、子宮本体の筋肉や子宮を支える靭帯(じんたい)、および子宮の周りの組織が引っ張られるため、締め付けられるような、チクチクするような痛みを感じるようになります。子供が大きくなる時に体の靭帯や筋肉に痛みを感じる「成長痛」をイメージすると良いでしょう。

子宮の成長による妊娠初期のチクチクとした腹痛は生理的なものなので、特に心配する必要はありません。痛みを感じるのは子宮が収縮する時に多く、一時的なものです。もし子宮収縮が長時間継続し痛みが続くようなら、別の原因も考えられるので一度、病院を受診してください。

子宮が成長することによるチクチクとした痛みを、「お腹の張り」と表現することもあるようです。下腹部の張りは、生理痛の時の痛みと似ていると言います。しかし、便秘でも張りを感じることはありますし、少しアクティブに運動した時も張りを感じることがあります。同じ腹痛でも、人によって表現の仕方はさまざまで、原因もバラバラですので、医師に伝える時は「どのような時に」「どのくらいの頻度で」「どこが」「どのように」痛むのか、正確に伝える必要があります。

妊娠初期にお腹にガスがたまる?腹痛につながる?

妊娠初期にはお腹が張る、ガスがたまるといった症状がみられます。このような症状は妊娠中に大量に分泌される黄体ホルモン「プロゲステロン」に関係があります。

プロゲステロンには「基礎体温を上げる」「子宮内膜を維持する」「乳腺を発達させる」といった働きがあります。これらの変化は胎児が育つ環境を整えるために必要なものですが、同時に腸の機能を低下させる作用もあります。腸の機能が低下すると、腸の蠕動(ぜんどう)運動が滞り、つわりの原因となるだけでなく、排便がスムーズにおこなわれないようになるので、便秘を引き起こすことになります。

便秘が長引くと腸内で便が発酵し、ガスが発生します。妊娠するとお腹が張る、よくおならが出るなどの症状があるのはそのためです。

便秘はひどくなると腸内の便が腸壁を圧迫して痛みとして表れることもあります。妊娠中は子宮が大きくなることで下腹部内がせまくなっているので、通常よりも強く痛みを感じやすい状態なのです。

妊娠中の便秘はごく一般的なことなので、恥ずかしがらずに妊婦健診の受診時などに相談しましょう。妊娠中でも安心して服用できる便秘薬を処方してもらえます。まずは安全性の高い塩性の緩下剤の「マグミット錠」・「マグラックス」、その他「大黄系」と呼ばれる漢方薬が処方されます。効果がなければ、次に副作用の比較的少ないジフェノール系の緩下剤の「ラキソベロン」、センナ系の緩下剤が使われ、それでもダメな場合は座薬や浣腸を使用することになります。

便秘の解消には、薬だけに頼らず、水分補給や食物繊維の摂取、適度な運動や十分な睡眠など、生活改善からのアプローチも必要となります。

妊娠初期に気をつけるべき腹痛

妊娠中に腹痛を感じることはめずらしくないので神経質になる必要はありませんが、中には危険な病気のサインとしての腹痛もあります。以下のような症状がある時は注意し、早めに受診するようにしましょう。

絨毛膜下血腫(じゅうもうまくかけっしゅ)
子宮内膜に胎盤を密着させるために、根のようなはたらきをしているのが「絨毛」です。その絨毛の膜と子宮内膜の間に血の塊ができることを「絨毛膜化血腫」といい、妊娠初期によく発症します。血腫が大きいと流産のリスクが増す事がありますが、ほとんどの場合には、次第に自然に吸収されてなくなりますので、基本的には安静にしていれば問題ありません。定期検診をきちんと受診し、慎重に経過を観察することが大切です。

流産、切迫流産
妊娠21週までに胎児が育たなくなったり流れてしまったりすることを「流産」と言います。出血を伴う激しい下腹部痛がある時は、流産のおそれや、流産しかかっている状態の切迫流産の可能性もあり得ます。妊娠初期のうちは出血量がそれほど多くないため、流産と気付かない場合もあります。また、胎児が排出されない「稽留流産」の場合は痛みも出血も伴いません。その場合、妊婦健診で胎児心拍が確認できないことから発見されます。

異所性妊娠(子宮外妊娠)
異所性妊娠(いわゆる子宮外妊娠)は、受精卵が子宮内膜以外の場所に着床することによって起こります。出血や下腹部の痛みのどちらか、もしくは両方が症状として表れることが多いです。卵管に着床し、成長した受精卵のために卵管が破裂した場合は、激しい腹痛と出血を伴い、発見が遅れると生命にかかわることがあります。異所性妊娠の場合、妊娠の継続は難しく、手術で胎児と胎盤を取り除かなくてはなりません。異所性妊娠は超音波検査によって発見できます。

胞状奇胎(ほうじょうきたい)
本来根っこのような形をしている胎盤の絨毛が、泡のように増殖する異常妊娠のことを指します。妊娠のためのホルモンが大量に分泌されるため、重度の妊娠悪阻(おそ、つわり)、不正出血、高血圧や蛋白尿などの妊娠高血圧症の症状が出ることがあります。胞状奇胎になると、多くの場合は胎児の成長は認められず、妊娠は継続できません。手術で摘出し、注意深く経過を観察する必要があります。まれに、通常の妊娠で、胎盤の一部が胞状奇胎に変化する事があり、慎重に経過観察を行い、出産する事が可能な場合もあります。診断は経膣超音波検査か尿検査・血液検査でおこなわれます。

妊娠初期と腰痛の関係

妊娠中の腰痛には大きく分けて2種類があります。ひとつは女性ホルモンの増量により全身の靭帯がゆるみ、骨盤や背骨を支えるために筋肉が緊張して腰に負担がかかるために起こる腰痛で、妊娠初期によくみられる腰痛です。もうひとつは、子宮の拡大や重量の増加による姿勢の変化によるもので、妊娠後期によく見られます。

妊娠初期より、卵巣ホルモンの一種である「リラキシン」というものが分泌されるようになります。エストロゲンが先行して分泌された場合、リラキシンは出産をスムーズにおこなうために、骨盤の結合をゆるめるはたらきがあります。体の関節は靭帯や筋肉、腱などの組織によって支えられているのですが、リラキシンによって靭帯がゆるめられると、筋肉への負担が大きくなります。妊娠初期の腰痛はこのようにしておこります。

腰痛を予防するには、普段から運動などで筋力をつけておくことが望ましいです。妊娠してからもマタニティエクセサイズやヨガで体を動かすことは推奨されており、無理のない範囲内でおこなうことにより腰痛を防ぐことができます。また、骨盤の動きを抑制する骨盤ベルトの使用も効果があります。

妊娠初期と卵巣の腫れや卵巣痛の関係

妊娠初期には卵巣に痛みを感じることがあります。これは、ホルモンの影響で卵巣が腫れるためにおこります。

妊娠初期には、「絨毛性ゴナドトロピン(hCG)」というホルモンが大量に分泌されます。hCGは、市販されている妊娠検査薬で妊娠を検知するために用いられる成分です。妊娠を継続しやすい環境を作るには、黄体ホルモン(プロゲステロン)の存在が欠かせません。プロゲステロンは黄体から分泌され、hCGは黄体の機能を維持させるはたらきがあります。このとき、hCGによる過剰ま刺激または卵巣の過剰反応により、黄体に水がたまって卵巣がはれることがあります。これを「ルテイン嚢胞(のうほう)」と言います。妊娠初期の卵巣の腫れや卵巣痛は、ルテイン嚢胞である可能性が高いでしょう。

卵巣の腫れの痛みは、チクチク、ピリピリ、ひきつるような痛みと形容されます。左右どちらかだけの人もいれば、両方痛むという人もいますので、症状は様々です。

hCGの分泌は妊娠8週から10週目くらいがピークで、その後だんだん低下してきます。妊娠15週から16週頃になると卵巣の腫れも自然に引いてきますので、卵巣痛もなくなります。

基本的に治療などは必要のない生理的な痛みですが、妊娠中期になっても痛みが緩和しない場合は受診されることをおすすめします。卵巣の腫れ具合は人によって異なりますが、一定以上(直径7センチ)を超えると破裂や茎捻転の危険性があります。その場合は手術が必要です。

妊娠初期の腹痛、お腹の張り、腰痛、卵巣痛、卵巣の腫れと対応方法などご紹介しました。妊娠初期に今までと違った体調の変化があり、不安を感じている方や、疑問が解決されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?「病院に行くまでもない」と考えるような、ささいなことでも結構ですので、活用してください。

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