がんの告知、私はこう向き合った――3児の母でもある医師の経験
- 作成:2021/06/17
2010年秋のことです。私は41歳で子宮頸がんと診断されました。医師から告知された時のことは、断片的にしか覚えていません。しかし、こうして執筆をするにあたって当時を振り返り、改めて「辛い経験」だったことを再認識しています。
この記事の目安時間は3分です
1.再検査で大学病院へ。「ただ事ではない」
私は毎年、子宮がん検診を受けていました。その年も異常がないことを確認する検診のつもりでした。しかし、結果には「要再検査。なるべく早く検査を受けてください」と書いてあり、すぐに再受診しました。医師からは、異常といっても炎症の可能性が高いということで、「心配ない」と言われました。自覚症状もなく体調もよかったので、その言葉を信じていました。
ところが、二度目の検査でも「要再検査」となり、炎症は否定されました。心配ないと言った医師は、いとも簡単に「うちではこれ以上の検査ができないから、大きなクリニックか病院に行ったほうがいい」と言いました。炎症疑いは「前癌病変疑い」に変わっていました。次に別のクリニックを受診しました。詳しい検査で悪性所見が認められ、さらに詳しい検査を受けるために大学病院へ紹介されました。
この時すでに「ただ事ではない」と感じていました。
大学病院で何度か検査を受け、残念ながら細胞の検査(病理検査)で悪性所見が認められ、「子宮頸部腺癌」という診断が確定しました。主治医からその結果の説明を聞いた日が、がんを告知された日です。
ある程度は覚悟していたので、「やっぱり」という気持ちでした。一方で、心のどこかで「違っていました。大丈夫でしたよ」と言ってもらえることも期待していたので、確かにショックでした。
でも、がんだった場合は手術になるという説明を聞いていたので、むしろ先のことの方が気になっていました。当時、3人の子どもたちは全員小学生(6年生、4年生、2年生)で、実家は遠方です。私が入院で家を空けた時の子どもたちのことが、一番の気がかりでした。
そして、もし自分がいなくなったら……そんなことを考えては、頭の中で打ち消していました。
2.医師の説明を聞き、選択するのは自分自身
主治医には、手術はいつになるのか、どれくらい入院するのか、退院したら動けるのか、今後どれくらいの頻度で病院を受診するのか、そんなことを次から次へと質問しました。
診察室を出て、待合室で初めて涙がでました。
「なぜ私なの?」
「何もしていないのになぜ?」
悲しさ、不安、恐怖、怒り……複雑な感情に押しつぶされそうになりました。
でも、泣いても何も変わりません。誰も代わってくれません。自分で向き合うしかない。そう気が付いてからは落ち込みながらも前進していました。その夜からパソコンにしがみついて自分の病気のこと、治療のこと、そして命のことを調べまくりました。一番知りたかったのは実際の患者さんの情報でした。
私のがんは子宮頸がんの中では少ない腺癌というタイプでした。飛び飛びに広がる性質があるため、どう広がっているのかが予測できず、病巣を取り切るためには大きな手術が必要だと言われました。
また、卵巣を残すと再発する可能性が高くなるため、卵巣の摘出を勧められました。しかし、そうすると卵巣欠落症状といって、更年期障害に似た症状が現われて辛い生活を送ることになる。手術の影響で排尿障害やリンパ浮腫も生じるかもしれないという話でした。
こうして、“生きるために”こういう治療をした方がよいという話をたくさん聞き、説明の後には必ず自ら選択しなければ進まないという状況でした。
私は主治医に「卵巣を残すとどれくらいの確率で再発しますか?」と質問してみましたが、その後のイメージはわきませんでした。例えば「5%の確率で再発する」と言われて、5%って少ないの? いや、多いの? と次から次へと疑問点がわいてくるのです。
排尿障害について医師に質問した時も、「人によって自己導尿(自分で尿道にカテーテルを入れて排尿する)が必要な場合もあれば、おむつの場合もある。手術をしてみないとわからない」という説明でした。排尿は毎日何回も繰り返すことなので、ちゃんと知っておきたいと思いましたが、詳しい情報はありませんでした。術後の身体の変化については、医師であっても知らないことが多いんだな、と思いました。
3.ネットで出会った100人近くの患者仲間
そこで、インターネットで「子宮頸がん、腺癌、患者」と検索し、患者さんのための情報交換サイトがあることを知りました。そこに質問を投げかけると、たくさんの仲間が返事をくれました。同じ腺癌の患者さんの生の声は、私の知りたいことに見事に答えてくれました。全部書き出して整理し、気がついたら手術までにのべ100人近い人と交流していました。
こうして得た情報から、さらに主治医に聞きたいことをまとめて質問し、手術方法を決めていきました。自分の身体のことですから「お任せします」ではなく、しっかり納得して決めることが大切だと思います。
私は希望しませんでしたが、診断や治療について他の医師の意見を聞く「セカンドオピニオン」を依頼することも可能です。セカンドオピニオンが主治医と同じ意見のこともありますし、別の意見が出てくることもあります。いずれにせよ、セカンドオピニオンを受けた後に、もう一度主治医の元に戻り、今後どうするのか、どうしたいのかを話し合います。
こうして検査、診断、告知を経て、治療法を選択し私は手術の日を迎えました。
開腹し、子宮と子宮に付いている靭帯、両側の卵巣を切除する「広汎子宮全摘術」という方法にしました。リンパ節は50個以上摘出しました。
術後は痛みだけでなく、大変なことがたくさんありましたが、その手術方法を選択したことに後悔はありません。
4.お母さん、がんになっちゃった
私はがんであることが確定診断されるまで、夫以外には話せませんでした。不安を口に出すと現実になってしまいそうで、自分の中に抱え込んでいました。告知されてからは、仕事を休むために、職場の最小限の人達だけに簡単に伝えました。あとは手術中に死んでしまったことを考え、一番親しいママ友、実家の両親、兄に話しました、「何かあったら子ども達を頼むね」と。
でも、胸の内の苦しさや細かい不安などはなかなか話せませんでした。解ってもらえない、解るわけがないと思っていたからです。
子ども達には「具合が悪いから検査のために入院する」と言いました。でも、当時中学受験を控えていた小学校6年生の娘は、すぐには納得しませんでした。受験のラストスパートという大切な時期に、母親が入院することに大きな疑問を抱いたんですね。そこできちんと「がん」であることを話しました。受験が終わるまで待てないこと、命に関わることなど、3人それぞれ言い方を変えて話しました。
あの時のことは、今思い返しても涙が出ます。そして、今生きていること、あの時強く願った子ども達の成長を見ることができて本当に幸せです。
田所園子(たどころ・そのこ)
医療法人生寿会 かわな病院/内科、緩和ケア、麻酔科
1995年高知医科大学医学部卒業。 同大学医学部麻酔科蘇生科入局。41歳の時に子宮頸がんが見つかり、手術を受ける。しばらくはがんであることを受け止めきれず、周囲に言えない日々を過ごした。現在は、がんの経験を生かして緩和ケアに携わり、患者によりそう医療を提供している。
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