ワクチン接種してもインフルにかかる人が出るわけ【医師が解説】

  • 作成:2021/07/17

「インフルエンザの予防接種をしたのに、インフルエンザにかかってしまった」という経験談はよく耳にします。これは、ワクチンが効かなかったから起きたことなのでしょうか?今回は、この謎を解説します。

この記事の目安時間は3分です

Q.インフルエンザのワクチン接種をしていたのに、インフルエンザを発症したのは何故?

A.ワクチンでは発症を60~70%防げますが、100%ではないので発症することがあります。しかし、もし発症してしまったとしても、重症化は大きく防ぐことができるため、ワクチンを接種したのが間違いだったわけではありません。

インフルエンザの予防接種は、インフルエンザに100%かからなくするものではなく、かかりにくくする上に重症化や死亡といった事態に陥るリスクを減らすものです。「ワクチン接種したのに発症した」「ワクチン接種していないけどインフルエンザにかからなかった」という体験を根拠に、まるでワクチンがあまり意味のないもののように語られていることもありますが、これは“木を見て森を見ず”の典型です。

ワクチンの発症予防効果60%、が意味するもの

季節性のインフルエンザは、毎年流行するウイルスの型が少しずつ異なります。そのため、流行予測がうまく合った場合の効果は高く、うまく合わなかった場合の効果は低く、といったように、ワクチンの効果はシーズンによって多少の差があります。それでも、おしなべて60%くらいの発症予防効果が得られることがわかっています1,2)
これは、ワクチンを接種していなければ100人中10人が発症するような流行状況を、100人中4人しか発症しない流行状況にまで減らすくらいの効果、という意味です。つまり、ワクチンを接種しなかった100人とワクチンを接種した100人を比べて、下記のような結果が得られた際に「発症予防効果が60%」ということになります。

※「発症予防効果が60%」とは
  • ワクチンを接種しなかった100人(発症:10人、非発症:90人)
  • ワクチンを接種した100人(発症:4人、非発症:96人)

よく誤解されるのは何故か?

この100人ずつの内訳をもっと詳しく書くと、このようになります。

◆ワクチンを接種しなかった100人(発症:10人、非発症:90人)
A:ワクチンを接種しなかったが、運良くインフルエンザを発症しなかった人:90人
B:ワクチンを接種しなかったが、インフルエンザを発症してしまった人:10人

◆ワクチンを接種した100人(発症:4人、非発症:96人)
C:ワクチンを接種したが、ワクチンを接種しなくても発症しなかった人:90
D:ワクチンを接種したことによって、発症を防げた人:6人
E:ワクチンを接種したが、それでも発症してしまった人:4人

・・・そもそも、100人いたら100人全員がインフルエンザを発症するわけではありません。インフルエンザ患者と接触する機会がなければ、そもそもインフルエンザにはかかりようがないからです。Aは、そういった“運の良かった”人たちです。「ワクチンを接種しなかったけど、インフルエンザは発症しなかった!」と言っている人は、こうした運の良い人の意見だということです。
 一方で、(D)ワクチンを接種したことによって発症を防げた人と、(C)ワクチンを接種したがワクチンを接種しなくても発症しなかった人を、個人のレベルで区別することは不可能です。そのため、「ワクチンのお陰で発症しなかった」という実感を得られることは、ほとんどありません。

 さらに、ワクチンを接種しなかったシーズンには(A)、ワクチンを接種したシーズンには(E)になれば、それは「ワクチンを接種しない方が発症しないのでは?」と感じてしまっても無理はありません。そのため、ワクチンの効果は個人の体験談ではなく、集団で評価する必要があるのです。

もし発症してしまっても、ワクチンの恩恵は受けられている

では、(E)のワクチンを接種したがそれでも発症してしまった人は、ワクチンが全くの無意味だったのでしょうか。もちろん、そんなことはありません。インフルエンザのワクチンには、発症した際に重症化したり死亡してしまったりといったリスクを軽減する、というもっと大事な効果があるからです。たとえばワクチン接種によって、小児では関連死を65%、成人では入院を53%ほど減らすといった効果が確認されています3,4)
つまり、ワクチンを接種したのに運悪く発症してしまったとしても、ワクチンは無意味になってしまうわけではなく、命を守るために重要な役割を果たしてくれている、ということです。

※重症化とは、高熱が出て関節が痛むことではなく、入院が必要なほどの状態になったり、生命に関わる事態に陥ったりすることを指します。

ワクチンについての不安を煽る情報は多いので、正確な情報を

2回接種でほぼ確実に発症しなくなる「麻疹(はしか)」のワクチンや、世界的な大流行を抑制できるほどの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンに比べると、インフルエンザのワクチンの効果はやや見劣りするところがあります。しかし、現状ではインフルエンザの発症や重症化を防ぐ最も効果的な方法は、ワクチンを毎年接種することです5)。小児や高齢者、持病のある人、妊娠中の女性など、インフルエンザが重症化しやすい人にとっては、リスク軽減のための大事な予防策になることは、知っておいていただければと思います。
インターネットやSNSには、ワクチンについての不安を煽る不正確な情報が非常にたくさん出回っています。ワクチンを接種するかどうかは個人の判断に委ねられるものではありますが、こうした不正確な情報に基づいて判断してしまうと、自分や自分の家族が取り返しのつかない不利益を被る可能性が高くなります。情報収集はしっかり行ってもらって良いですが、困ったときや悩んだときはかかりつけの医師・薬剤師などの専門家に必ず相談するようにしてください。

(参考文献)
1) Vaccine.29(9):1844-9,(2011) PMID:21195802
2) N Engl J Med.369(26):2481-91,(2013) PMID:24328444
3) Pediatrics.139(5):e20164244,(2017) PMID:28557757
4) J Infect Dis.13;220(8):1265-1275,(2019) PMID:30561689
5) 世界保健機関(WHO) 「How can I avoid getting the flu?」

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