精神科医が受診を勧める『心の状態』とは
- 作成:2021/07/12
こんにちは、精神科医の林です。 最近よく眠れない、頭痛がとれない、疲れている、お腹が下っている…そんなお困りはないでしょうか? 普段診療を行なっていると、「こんな症状で来て良いのかわからなくて…」「受診するほどひどくないと思っていました」とおっしゃる方が多くて、まだまだ啓蒙活動が足りないなと反省させられます。 良くならないと諦めているその症状、もしかすると改善の余地があるかもしれません。いつ受診をするべきなのか、どうして受診をした方が良いのかを解説します。
この記事の目安時間は3分です
1.受診の目安は「困ったな…」と思った時
まず、どんな症状が出た時に受診をするべきでしょうか?
気分が落ち込んで朝ベッドから起き上がれなくなってしまった時、食べても吐いてしまい、どんどん痩せていく時、夢の中でも仕事をするほど追い詰められている時。多くの方が想像なさるのは、このような最悪の状態かもしれません。
限界まで耐え忍ばれて病院に来てくださる皆様にお伝えしたいのは、「困ったな」と思った時点で、是非ご相談くださいということです。
我々精神科医が治療の必要があると判断をするにあたり、「生活に支障があるか否か」という視点が非常に大切です。受診をする基準を、ほかの人と比べる必要はありません。
意外に思われるかもしれませんが、うつ病などの精神疾患は、体の症状もごくごく一般的に引き起こします。
頭痛、腰痛といった痛み、肩こり、めまい、ふらつき、吐き気、倦怠感、食欲不振、不眠、月経不順といった多種多様な症状が起こります。このため、どこか身体が悪くなったのではないかと思われて、半数以上の方がまず内科を受診すると言われています。
身体の病気が原因となって心の症状が出ることもありますが、いくら検査をしても異常がなければ、精神科や心療内科を受診していただくのも一つの選択です。ほかに、上手く眠れない、疲れがとれない、何となく気分が晴れない、喉に物が挟まったような感じがする、外出が怖い、動悸がする、物忘れをしやすい、戸締まりを何度も確認する、汚れが付いたのではないかと気になってしまう。
こういったお困り事がある場合には、是非、精神科や心療内科にご相談ください。
2.精神科の「診察の流れ」
精神科や心療内科を受診するとどんな診察が行われるのか、不安な方も多いかと思います。診察の流れを確認してみましょう。
①受付
一般的な内科などと全く同じです。予約をとっておくとスムーズです。
②問診票、心理検査への記載
初めて受診すると、どこの診療科でも問診票を記入することが多いと思います。精神科や心療内科でも同じで、どんな症状がいつ頃から出ているのか記載します。ご自分で症状の程度に丸を付ける簡単な心理検査も含まれていることもあります。
③予診
本格的な診察の前に、これまでどのような人生を送ってこられたのかをお聞きする時間です。精神保健福祉士、看護師もしくは、大きな病院では若手の医師が担当することもあります。小さなクリニックでは、問診票に書いていただいた内容で代用されることもあるでしょう。
どこで生まれて、どういったご家族の中で育ったのか、学歴や職歴、これまでにかかった病気や飲んでいる薬なども含めて詳細にお聞きします。
何のためにそこまでプライベートなことを尋ねるのか? と疑問に思われるかもしれませんが、どのような背景があるかが物事の捉え方に大きく関わるため、診断や治療のためにどうしても外せない大切な質問となります。
④診察
ここまでの情報をもとに、お困りの症状についてより掘り下げた問診をしていきます。
精神科や心療内科は「お話を聞いてくれる科だ」と誤解されますが、実はやみくもにお話をお聞きしているのではありません。現在の医療では、何かの検査をすれば病名がわかるという方法は確立されていません。お話の中から診断の根拠になるような要素を拾い集めて、これを検査の代わりにしています。
その他にも、来院された時の歩き方、装い、表情、声音、返答の速さ、お話の内容といった様々な要素をあわせて病状を判断しています。
可能であれば、血液検査や画像検査なども行って、身体の病気等の影響も考えます。
以上の情報をもとに診断し、治療していきます。
3. 精神科ではどんな治療をしている?
精神科の治療は、生活習慣の改善や物事の捉え方などへの助言のほか、症状や病状に応じて飲み薬が処方されることが多いです。西洋薬だけでなく、漢方薬が活用されることもあります。
精神科というと、一生山ほど薬を飲み続けないといけないのではないか……という恐怖から受診を控える方もいらっしゃるかと思いますが、そんなこともありません。
確かに、統合失調症や双極性障害といった長く薬を飲み続けた方が良い病気もありますが、うつ病や不眠症など、お困りの症状が解消すれば薬も外来も卒業できる病気も多くあります。必要な時には十分量の薬を飲んでいただくことをお勧めしますが、やみくもに薬を出す医師は昨今では少数派ですのでご安心ください。
心配なのは、薬が必要なくらい心配な状態であると医師から判断されたにもかかわらず、「まだ頑張れるから必要ない」と頑として治療を受け入れない方です。治療を受けないことで症状がどんどん悪くなってしまい、結果として治りづらくなったり、治療期間が長引いたりすることもままあります。
もし、薬を飲む期間を極力短くされたいのであれば、早めに十分な量の薬でしっかりと治療をすることを推奨します。
さて、長くなりましたが、少しでも受診の参考になったでしょうか?
我々精神科医は、本来の状態よりも元気にするような魔法は使えませんが、もともとの実力が発揮できる状態に回復するお手伝いはできます。お困りがあれば、是非一度ご相談ください。
林 安奈(はやし・あんな)/精神科医・産業医
VISION PARTNERメンタルクリニック四谷 パートナー医師
東京女子医科大学医学部医学科卒業。東京女子医科大学病院にて臨床初期研修修了後、東京女子医科大学精神医学講座に所属し、同大学の緩和ケアチームや吉祥寺病院等で精神科医として研鑽を積みつつ、医学博士号取得。現在は多くの企業で産業医としても活動している。
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