「天然由来」は体にやさしくて安全なのか?悪影響を及ぼすリスクも
- 作成:2021/09/18
昨今の健康ブームの中で「天然」や「自然」といったフレーズは、身体にやさしい安全なものの代名詞かのように、様々な商品の宣伝にも使われています。しかし、本当に天然由来のものは、安全なのでしょうか?
この記事の目安時間は3分です
Q. 天然由来の成分のものは、安全?
A. 安全とは限りません。
「天然由来」「自然由来」と聞くと、なんだか身体にやさしく安全そうなイメージを抱く人も多いと思います。しかし、天然や自然由来であることと、安全であることには、実は何の関係もありません。天然由来で危険なものは山ほどありますし、むしろ天然由来だからこそ“どんな成分が入っているのかよくわからない”こともあります。“天然だから安心”という考えで、物事を判断しないように気をつけましょう。
天然由来・自然由来のもので、人間にとって危険なものはたくさんある
たとえば「塩」を思い浮かべてみましょう。化学合成された塩化ナトリウムに比べると、海水から作られた食塩はやさしい味がしますし、様々なミネラルも含まれているため身体にも良いと言えそうです。こうしたことから、化学合成されたものや人工的に作られたものに比べると、天然由来や自然由来のものは身体にやさしく安全、という印象を受ける人は多いと思います。
しかし、だからといって「天然由来」や「自然由来」といったことが、「安全」であるということの根拠になるかというと、全くそうではありません。天然や自然由来のもので、人間にとって危険なものは山ほどあります。
たとえば、フグが持つ毒「テトロドトキシン」は、2~3mgで人間を死に至らしめるほどの猛毒です。しかし、この「テトロドトキシン」は化学合成されたものでも人工的なものでもありません。もともと海に棲む細菌が作ったものが、ヒドデや貝などの餌を通してフグに蓄積していったものと考えられています。あるいは、トリカブトという植物にも、「アコニチン」や「メサコニチン」などの極めて強い毒物が含まれています。しかし、これも誰かが合成して注入したわけではなく、植物が自ら作った天然・自然由来の毒です。つまり、完全に「天然由来」で「自然由来」の物質ですが、全く安全な物質ではありません。
我々にとって身近な天然・自然由来の食品である「ハチミツ」にも、リスクはある
もっと身近な例で言うと、「ハチミツ」は天然・自然由来の食品ですが、1歳未満の乳幼児にとっては「乳児ボツリヌス症」を起こす恐れがあり1)、決して安全な食べ物ではありません。通常、「ハチミツ」に混入していることのある「ボツリヌス菌」が身体に悪さをすることはありませんが、免疫が未発達な1歳未満の乳幼児では、この「ボツリヌス菌」が体内で増えてしまうことがあるからです。そのため、1歳未満の乳幼児には「ハチミツ」を与えてはいけません。なお、この「ボツリヌス菌」は熱にも強いため、加熱調理をしても無毒化できないことに注意が必要です。
また大人であっても、素人が自分で採取した「ハチミツ」を食べることは結構なリスクを伴います。蜂がどんな花から蜜を集めてきているかが、全くわからないからです。トリカブトやツツジなどの毒性植物の自生地区で集められた「ハチミツ」を食べたことで起きた中毒症状が起きた、などということも、実際に報告されています2)。「天然」や「自然」というのは、コントロールされていない環境でもあるため、“何が入っているのかわからない”という面もあることは、知っておく必要があります。
天然由来だから安全だろう、という油断は健康被害に繋がる
「天然由来の健康食品だから安全」「自然由来のサプリメントだから安心」・・・といった声は、インターネットやSNSなどでもよく目にします。しかし、天然由来、自然由来だからといって安全だとは限りません。天然のものにも危険なものはたくさんありますし、自然由来の物質であっても過剰に摂れば身体に害を及ぼすことがあります。実際、こうした自然由来の食品を摂ったことによる肝障害などの報告も少なくありません3)。
特に、天然・自然由来の食品やサプリメントであれば安全だろう、と油断している人は、何かの体調変化が起きても医師や薬剤師になかなか相談しない傾向があります。そのため、医薬品による肝障害よりも重症化するリスクが高いというデータもあります4)。
天然・自然由来であることは、確かに商品の魅力の1つではありますが、そのことと商品の安全性は全く無関係ですので、そこはしっかりと分けて考えるようにしてください。
1) 厚生労働省「ハチミツを与えるのは1歳を過ぎてから」
2) 食品衛生学雑誌.55(1):55-63,(2014)
3) 肝臓.46(3):142-8,(2005)
4) Clin Gastroenterol Hepatol. 2018 Sep;16(9):1495-1502.
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