妊娠時の貧血の原因、対応、予防 胎児や母体に悪影響?
- 作成:2016/04/04
妊娠時の貧血は、妊娠中の転倒リスクだけでなく、胎児や母体、出産に影響する可能性があります。どのようなメカニズムで起きるのかを含めて、対応方法などを、専門医師の監修記事で、わかりやすく解説します。
この記事の目安時間は3分です
妊娠中に貧血になる原因
妊娠中では、胎盤への血液供給、胎児への栄養と酸素の供給、分娩時の大量出血に備えるため、体内を循環する血液量は最大で通常時より36%増加しているといわれています。増加の内訳は、全身に栄養を運んで老廃物を回収する「血漿(けっしょう)」の量が最大で47%増、酸素を運ぶ「赤血球」の量が最大で17%増となっており、赤血球よりも血漿のほうが増加しているのです。つまり、血液中の赤血球の割合が低くなるため、結果的に血液が薄くなります。そのため、妊娠中は貧血が起こりやすい状態になっています。
妊娠中に鉄分と結びついて赤血球をつくっているヘモグロビンの量が「11g/dl以下(成人女性の基準値は11.5から15.0)」、ヘマトクリット値(血液中の血液の容積率、血液の濃さを示す指標)が「33%以下(成人女性の基準値は35%から45%程度)」になると、妊婦貧血と診断されます。
妊娠中期以降、特に妊娠後期では、胎児の成長に伴い鉄分需要が増加することから、妊婦の約25%から40%で貧血になるといわれています。妊娠初期では特になにも感じなかった人でも、後期になって貧血になる人も多くおられます。
貧血はどんな症状が出る?
軽症の貧血であれば、特に自覚症状はありませんが、前述のようにヘモグロビンの量やヘマトクリット値が低下していますので、重症の貧血の場合には以下のような自覚症状が出ます。
・めまいがひどくなる
・たちくらみがある
・頭痛がひどくなる
・疲れやすくなる
・全身がだるく感じる
・動悸や息切れがひどくなる
たちくらみやめまいで立っていられない、座ることもままならない場合、自宅や公共の場での転倒リスクがあり、大変危険です。妊娠中にめまいがあった場合は、すぐにかかりつけの産婦人科を受診してください。めまいなど症状が自覚できている状態では、決して自分で車を運転したり、ひとりで電車などに乗ることはせず、周囲の人の助けを借りる、救急車を呼ぶ、などを行い対応してください。
妊娠、胎児、出産への影響
母体は、胎盤を通じて胎児へ栄養や酸素を与えています。そのため、母体が貧血になると供給できる鉄分が不足してしまいますので、胎児の発育が悪くなるという悪影響が出る可能性があります。胎児への影響としては、未熟児そして産後の発育が遅くなる可能性があげられています。母体への影響としては、分娩時に大量に出血した場合にショックを起こしやすくなるといわれており、また産後の回復の遅れ、母乳出が悪くなる、といった影響もあります。妊娠中の貧血の放置は、多様なリスクを抱えることとなります。
受診科、治療、予防、再発可能性について
貧血の症状が出ている場合は、かかりつけの産婦人科を受診してください。妊娠中に鉄の不足が原因で貧血が起こっている場合の治療の第一は、鉄剤の補給です。通常は鉄剤を飲み薬で服用します。ただし、なかには便秘や吐き気などの副作用が出る人もいるため、注射によって鉄分を補給する場合もあります。担当の医師に、どのように鉄分を補給するか相談してみるとよいでしょう。 現在は、妊娠中の貧血の場合は市販のサプリメントではなく、医師の処方による鉄剤を服用することが主流になっています。医師の処方による鉄剤は吸収がよくなるように工夫されている場合がありますので、一度医療機関にかかってみると良いでしょう。
鉄剤は、胎児に影響しない
なお、鉄剤を補給することによる胎児への影響はまったくありません。また妊娠中の貧血と診断された場合は、無理して動きまわることも避けましょう。鉄剤を補給していて数値が基準値まで上がってくれば問題ありませんが、それまではなるべく安静にしてください。鉄剤を服用したからといってすぐに貧血が改善するわけではないので、数週間から数ヶ月の継続服用が求められます。
貧血をどう予防するか
貧血の予防方法は、毎日の食事による積極的な鉄分の摂取です。鉄分の含有量が多い食品として、レバー、かつお、あさり、小松菜、ひじき、などがあります。これらと同時にビタミンや葉酸などもいっしょに摂取すると、体内での吸収率が高まりますので覚えておきましょう。鉄分は血液のなかに存在するだけでなく、肝臓にも貯蔵されます。食事からの鉄分は妊娠中に限らず、肝臓での貯蔵量も増やすことで産後の体力を維持するためにも、産後も是非毎日しっかり摂取するよう心がけてください。母体と胎児の栄養補給の基本は食事です。妊娠中は、栄養のあるものをしっかり食べましょう。また妊婦健診では血液検査が実施されています。この機会に血液を調べて貧血がないかどうかを知ることで、体調管理のバロメーターともなり、貧血の予防対策になります。
妊娠後期での貧血は、多くの方にみられます。初産や経産婦など妊娠の回数は関係していません。通常あるいは妊娠初期で特になんともなかった人でも、妊娠後期に貧血になることはしばしばあります。めまいや動悸、息切れなどといった症状が現れる前に、日々の食事そして妊婦健診の血液検査で少しのサインも見逃さないように気をつけておきましょう。
妊娠中の貧血について、対応方法などをご紹介しました。妊娠中の貧血症状に不安を感じている方や、疑問が解決されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?「病院に行くまでもない」と考えるような、ささいなことでも結構ですので、活用してください。
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