私の「卵巣年齢」は何歳? 意外と知らない卵巣の老化
- 作成:2021/10/29
卵巣も私たち女性の体の一部であり、年齢とともに「老化」することが分かっています。年齢を重ねるとともに卵巣の機能は低下していき、妊娠できる力(妊娠率)も低下していきます。それでは、今の私たちの「卵巣年齢」がいくつなのか、血液検査で分かるのでしょうか?今回は、淀川キリスト教病院産婦人科医の柴田綾子先生が、卵巣の老化や卵巣年齢の検査について解説をしていきます。
この記事の目安時間は6分です
1.卵巣の老化スピードはどれくらい?
卵巣の機能の一つは、女性ホルモンを出して子宮の中を妊娠しやすい状態に整えたり、受精卵が着床したあとに妊娠が続くようにしたりすることです。女性の自然妊娠率は年齢を重ねると低下しますが、36~38歳から低下するスピードが速くなってきます(図1)。この図1にあるように、35歳の自然妊娠率は約23%ですが、40歳になると約17%と低下してしまうと報告されています(1)。また、年齢を重ねると流産率も増加していきます(図2)。ノルウェーからの論文では、流産率は25~29歳で1番低く(10%)、30歳から増加し40歳では妊娠の約40%が流産になるとされています(2)。年齢による妊娠率の変化は不妊治療(生殖補助医療)でも同じで、卵子の質が低下することが原因だと考えられています(3)。生殖補助医療(体外受精、顕微授精など)により妊娠し出産される割合(図3緑線)は、30歳で20%前後なのに比べ、40歳で10%前後に低下してしまいます(図3)。
公益社団法人日本産科婦人科学会 登録・調査小委員会 https://plaza.umin.ac.jp/~jsog-art/
2.血液検査で今の卵巣年齢が分かる?
実は現時点では、卵巣年齢を正確に測定できる検査は無いと考えられています。さらに言うと、卵巣年齢は医学的な用語ではなく、「卵巣予備能」が正確な用語になります。卵巣予備能を測定する検査は、エコーで卵巣の中にある卵胞数を測る胞状卵胞数(AFC)、血液検査で分かる卵胞刺激ホルモン(FSH)や抗ミュラー管ホルモン(AMH)などがあります。
① 胞状卵胞数(AFC)
生理が始まって2~3日目に経腟エコーで測定します。両方の卵巣内にある卵胞(直径2~10mm程度)の数を合計した数値です。年齢とともに小さくなり、体外受精などで採卵できるかどうかの一目安になります。
② 卵胞刺激ホルモン(FSH)
生理3~5日目に血液検査で測定します。脳の下垂体から分泌され、卵胞の発育を促すホルモンです。卵巣の機能が低下すると刺激を強くするためにFSHの値が上昇します。閉経すると40mIU/mLより高い数値となります。
③ 抗ミュラー管ホルモン(AMH)
血液検査で測定し、生理のどの周期でも検査できます。卵巣の中で成熟してきた胞状卵胞から分泌されるホルモンです。卵胞の数が多いと数値が高くなります。卵巣の機能が低下するとAMHの数値が低下します。
最近、いわゆる“卵巣年齢”の測定に使用されているAMHですが、個人差が大きいこと、卵巣の質を直接反映していないこと、AMHの数値で妊娠率などを予測することは難しいことが報告されています。2017年に日本産科婦人科学会では、AMHに関して4つの注意点を発表しています(5)。
(1)AMH は卵子の質とは関連しない.
(2)AMH の測定値は個人差が大きく,若年女性でも低い場合や高齢女性でも高い場合があり,測定値からいわゆる「卵巣年齢」の推定はできない.
(3)測定値と妊娠する可能性とは直接的な関連はなく,測定値から「妊娠の可能性」の判定するのは不適切と考えられる.
(4)測定値が低い場合でも「閉経が早い」という断定はできない.
2019年にはアメリカ産婦人科学会でも同様の発表があり、卵巣年齢を推測する検査の使い方や結果の判断には専門的な知識が必要です。
3.卵巣の老化を防ぐ方法は?
残念ながら卵巣の老化(機能低下)を予防する方法は、現時点ではありません。低用量ピルなどで排卵を止めていたとしても、年齢とともに卵巣の老化は進んでしまいます。一方で、卵巣の老化が進みやすい行動は徐々に解明されており、下記のような項目は、卵巣の予備能が低下しやすいので注意が必要です(2)。
- タバコ(喫煙)
- 子宮内膜症
- 卵巣の手術
- ビタミンD不足
- 全身の病気(膠原病、炎症性腸疾患など)
- 抗がん剤治療
卵巣の機能は年齢とともに低下してしまいます。現在、妊活を考えている方や妊娠について悩んでいる方は、是非産婦人科へご相談ください。
参考文献
1. S J Chua, N A Danhof, M H Mochtar, M van Wely, D J McLernon, I Custers, E Lee, K Dreyer, D J Cahill, W R Gillett, A Righarts, A Strandell, T Rantsi, L Schmidt, M J C Eijkemans, B W J Mol, R van Eekelen, Age-related natural fertility outcomes in women over 35 years: a systematic review and individual participant data meta-analysis, Human Reproduction, Volume 35, Issue 8, August 2020, Pages 1808–1820, https://doi.org/10.1093/humrep/deaa129
2. Magnus M C, Wilcox A J, Morken N, Weinberg C R, HÃ¥berg S E. Role of maternal age and pregnancy history in risk of miscarriage: prospective register based study BMJ 2019; 364 :l869 doi:10.1136/bmj.l869
3.日本生殖医学会 Q24.加齢に伴う卵子の質の低下はどのような影響があるのですか?
http://www.jsrm.or.jp/public/funinsho_qa24.html アクセス2021/09/25
4. Tal R, Seifer DB. Ovarian reserve testing: a user's guide. Am J Obstet Gynecol. 2017 Aug;217(2):129-140. doi: 10.1016/j.ajog.2017.02.027. Epub 2017 Feb 21. PMID: 28235465.
5. 抗ミュラー管ホルモン(AMH)の測定に関する留意事項.日本産科婦人科学会 生殖・内分泌委員会 生殖医療リスクマネージメント小委員会報告2017年 http://fa.kyorin.co.jp/jsog/readPDF.php?file=69/8/069081721.pdf
6. the American College of Obstetricians and Gynecologists. ACOG Committee Opinion No. 773 Summary: The Use of Antimüllerian Hormone in Women Not Seeking Fertility Care. Obstetrics & Gynecology: April 2019 - Volume 133 - Issue 4 - p 840-841
2006年 名古屋大学情報文化学部を卒業し群馬大学医学部に編入
2011年 沖縄で初期研修を開始し、2013年より現職
世界遺産15カ国ほど旅行した経験から、母子保健に関心を持ち産婦人科医となる。著書に『女性の救急外来 ただいま診断中!』(中外医学社,2017)、『産婦人科ポケットガイド』(金芳堂)、『女性診療エッセンス100』 (日本医事新報社)など。
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