「スマホ育児」への刺さるような視線…そこに医学的根拠はあるの?
- 作成:2021/12/27
電車で騒ぐ子どもにスマートフォンを見せて興味をひいた、授乳中にスマホで育児情報を調べた、SNSを見て息抜きをした……。毎日の子育てに、スマホが役立っている人は多いのではないでしょうか。一方で、そうした親の姿を好ましくないという意見も。この隔たりの背景には何があるのでしょうか? 小児科医・森戸やすみ先生に解説していただきました。
この記事の目安時間は3分です
「目を合わせて授乳しないと愛情不足」は医学的根拠がない
「スマホ育児」という言葉がありますね。子ども連れでスマホを見ていたり、子どもがスマホを使っていたりすることをスマホ育児と呼び、批判するのに使われます。
「授乳中は赤ちゃんの目を見ながら」などと言われますが、実際に授乳をしたことのある人ならわかるように、赤ちゃんが親の目を見て飲むことは稀です。横を向いていたり目を閉じていたりします。そして、特に母乳をあげているときに赤ちゃんと目を合わせようとすると、とても苦痛な姿勢になり難しいです。目を合わせて授乳をしないと愛情が育たないというのは、医学的根拠がありません。
赤ちゃんが泣いているときにスマホで音楽を聞かせたり、アプリの画面を見せたりして泣き止むことがあるかもしれませんが、それで育ちが歪むことはないでしょう。親子が同じものに向き合って過ごすのは大事な経験ですが、それは絵本でもテレビでもスマホのアプリでも同じでしょう。語りかけながら目を見合わせる、なにか言ったら返事をするということで、子どもは承認され愛されていることを感じるのは、スマホであっても同じです。
子どもの安全に気を配るのは親の努めですが、スマホを一瞬も見てはいけないということではないし、スマホに限らず以前から親御さんが待合室で新聞や週刊誌を読んで目を離していて、お子さんが椅子から落ちるということはありました。スマホだから特に危険だということはありません。
世界人口の半数以上がネットを使うのにスマホ批判?
総務省によれば、世界のインターネット利用者総数は2019年に約40億人になりました。世界の人口は2021年に78億人なので、半分以上がネットを使うのです。近いうちに人口の2/3がスマホを使用する世の中になります。
スマホは今や生活必需品で、なかった時代に戻ることはできません。電話が発明され普及してから、電話のない時代に戻れなかったのと同じです。「手書きの手紙や文書の方がいいところがたくさんある」「なんでも電話で済ませるのはよくない、やはり直接会わないと」という人が当時いたかもしれませんが、離れたところにいても直接声を聞いて会話ができる電話があるのとないのとでは、暮らしも経済状況もまったく違ったものになったでしょう。
現代では昔ほど電話による通話は多くなくなりましたが、それは良くないから控えたのではなく、それよりももっと手軽で便利な物ができたからというだけです。直接会って話したほうがいいから時代をさかのぼって、電話のない時代に戻ったのではありません。
なぜ、スマホを目の敵にする人がいるのでしょう。私は、スマホのことをよく知らないからだと思います。ネットバンキングでいつでも振り込みができること、ネットスーパーで買い物ができ届けてもらえること、仕事の連絡が会社に行かなくてもできること、保育園の健康管理や連絡帳が電子化されていることを知らない人こそ、スマホは娯楽のために使うものと思い込み咎めるのではないでしょうか。そして、自分がしてきたように子育てをしない人がいると、間違っていると思い込んでしまうのです。自分が育てられた方法、自分が育てた方法しか知らないから、偏見を持つのでしょう。
若者が年長者に教える「逆メンター制」を子育てにも!
人材育成の手法の一つに、「逆(リバース)メンター制度」というものがありますね。台湾のオードリー・タン氏はデジタル担当大臣になる前、この制度を利用して政府で働いていました。若い人が、上司に当たる人に若者の感性やデジタル機器・SNSの使い方などを教えるという先進的な制度ですが、日本企業でも採用しているところがあります。
子育てにも逆メンターが必要ではないでしょうか。年長者は、若い人のやることを感情的に叱るのではなく、どうして自分がやってきた子育てと違うことをするのか、どんないい点があるのかを尋ねる謙虚な姿勢が必要だと私は思います。
長時間、毎日スマホやタブレット、コンピュータ端末の画面を見続けていると視力が低下するのは本当です。また、子どもが見るのには適さないコンテンツやアプリをダウンロードしないようにフィルタリングすることは大事です。個人情報が流出しないようにする、課金されるページに行かないなど、大人が注意する必要があるでしょう。スマホは道具であり、何をするかが問題です。デジタル機器とは、うまく付き合っていきたいですね。
1971年、東京生まれ。小児科専門医。一般小児科、NICU(新生児特定集中治療室)などを経て、現在は東京都内のどうかん山こどもクリニックに勤務。『小児科医ママが今伝えたいこと! 子育てはだいたいで大丈夫』(内外出版社)、『小児科医ママの子どもの病気とホームケアBOOK』(内外出版社)など著書多数。二児の母。
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