子どもを「宇宙人のようだ」と思うなかれ。彼らこそ「宇宙人だらけの世界」で生きている
- 作成:2022/04/11
こんにちは。外科医ちっちです。 インターネット上などで、発達障害のある子どもの親御さんの「まるで宇宙人のようで、何を考えているのか理解できない」という感想を見かけます。確かにそうだなと思っていました。 ところが、発達障害のある長男を見ていると、当事者側も「宇宙人みたいで何を考えているのか分からない」と周囲の人を見ていることに気が付きました。
この記事の目安時間は3分です
最初に知った情報は絶対?! 修正の利かない息子
自閉スペクトラムのある長男にっち10歳は、「最初に耳や目から入った情報」を信じ続けます。まるで、ひな鳥のように。問題なのは、冗談やデマ・古い情報も文字通り受け取り、修正が効かないこと。
YouTuberになりたいと言い出したにっち。動画を編集したいと思いつき、「動画編集のやり方」をネット検索していました。
にっちが見つけたページは、「パソコンでの動画編集」の説明だったようです。それを見て、「お母さんかお父さんのパソコンを使っていい?」をエンドレスで繰り返し。
というのも、わが家では子ども用に「ラズベリーパイ」という簡易的なパソコンを与えていました。にっちは「子どものパソコンでは動画編集はできない」と思い込んでいて、修正は利きません。
私「iPadで編集や字幕を入れることができるよ」
にっち「そんなはずはない。だって、『パソコンでやる』って書いてあった」
と言い返してきます。
初心者なのだから、パソコンでしか出来ない高度な編集をしたい訳じゃない。動画を大まかに切って繋げて、BGMと字幕を挿入したいだけ。
平均的な人なら、
「iPadでも出来るの? どのアプリで、どうやるのかな」
と、一瞬で納得して済むこと。
しかし、にっちは目の前でやって見せても「パソコン、パソコン、パソコンで動画編集を」しか頭になくて、それしか話しません。
結局何を言っても聞いてくれないので、「どうぞ、パソコンでやってごらん」と言いました。
すると、今度はパソコンでのやり方について詳しく検索し始めました。
次に出てきた情報はこちら。
「撮った画像をSDカードでパソコンに取り込む」
いや、いつの時代の情報よ? と脳内でツッコミが入ります。
で、ようやく3日かけて、SDカードがなくてもできることに納得したところで、次の問題。
「USBケーブルでiPhoneをつなぐ」が発生。
で、これも、USBケーブルを使わずにiPadから画像を取り込めることを実演して、2日。
だんだん、受け入れまでの時間は短くなっています。成長しているぞ。
最終的には「VLLO」という動画編集アプリの有料会員になりました。BGMの挿入が出来ることを知って、自分や弟のおもちゃの銃を振り回す動画に、フリー音源の銃声のBGMをつける方法を覚えると、「iPadで撮影」→「アプリで編集」の流れが身につきました。
1か月と少しかかりましたが、ようやく一般的なスタートラインに立てました。
もちろん、最初に「YouTubeにぼくの好きなものを投稿してみたい」と言い出した時から、私はiPadで実際に目の前でやってみせていました。
ですが、にっちは自分の気が向いたときに、気が向いた内容しか、取り入れてくれません。
思い起こすと、以前「筆算の線は定規で引かなければならない」という担任の先生の指導を修正するのに、1年以上かかったこともありました。
そのやり方を気に入ったわけではなく、本人も辛いので泣きながら宿題をして、何冊もノートをビリビリにしました。それでも、親が言っても修正できない。何故なら「先生が言ったから」。
学年が上がり、やっと「フリーハンドでもOK」と納得できた時には、算数が大嫌いになるというおまけが付いていました。
発達障害のある子どもは、一度、信頼した情報元、特に教師や本、YouTubeからの情報は、冗談だろうと何だろうと信じてしまうことが多々あります。修正はすごく労力も時間もかかります。似たようなこだわりを持った子どもと直接関わった経験がなければ、きっと想像を超えるものです。
「彼が信じる真実と反する現実を見ても、すぐには『現実』の方を信じない」
というのは本当に難しいです。彼にとっては「誰かが言ったこと・書いたこと」の方が、自分の目で見た現実より『正しい』のです。
私たちは時折、長男の行動が理解出来ません。しかし、長男から見ると私たちが要求することが理解出来ないこともあるのだと思います。
だからこそ、長男から見ると宇宙人だらけの社会で生きていくため、「生きるための方法」として、初めに見た宇宙人たちのルールっぽいものは絶対に守るのです。そうでないと、自分には訳の分からない「宇宙人のルール」と違った行動をとって怒られるから。
そんな考えが、背景にあるんじゃないかと想像すると悲しくなります。
そんな誤解で、せっかくやる気になった動画制作はスムーズに進みません。
私からすると、こういう「本人が困る部分」が発達障害なので、個性とは全く思いません。そして、社会の仕組みの改善だけでは、本人の困りごとはなくならないのではないかと思います。
先生の発言本に書いていることに、親は簡単に勝てない
ひとくくりにはできませんが、発達障害の子どもは「得た情報を信じやすい」ところがあります。特に、小学生にとっては「先生」と呼ばれる人から言われたこと、新聞や本に書いてあったことは『絶対』です。そして、残念ながら、長時間一緒にいる親からの情報は、そこには勝てません。
修正が効きにくいことは、生きづらいことでもあります。周囲も、そして本人も、困っていることが多いです。それでも直せません。
対応としては、「本人の気持ちが向いた時に」「視覚で説明する」しかありません。そのためにも、よく観察して興味が出たタイミングを逃さず介入するべきです。
子どもと関わる機会のある方に、知って欲しい特性です。
外科医師。妻(看護師はっは)と発達障害3児の育児中。記事中のイラストは、看護師はっはが担当。著書『発達障害の子を持つ親の心が楽になる本』(SBクリエイティブ)が2024年9月発刊予定。
・ブログ:「うちの凸凹―外科医の父と看護師の母と発達障害の3姉弟」
・ブログ:「発達障害の生活は試行錯誤で楽しくなる」
・note:https://note.com/titti2020/
・Twitter:@surgeontitti
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