「家族や友達だからこそ話せない」41歳でがんになった医師が、本音を吐き出せた“場”とは…
- 作成:2022/07/05
私は41歳で子宮がんの可能性を指摘されました。大きな病院で検査を受けるように言われた時も、その後がんと確定診断された時も、病院に私をサポートしてくれる人はいませんでした。 告知されたあと、診察室を出て茫然として座っていた私に、看護師さんは大きな声で次の検査の場所や入院に必要なものなどを事務的に伝えました。立ったままで話していることや、一方的に情報を伝えてくることに怒りさえ覚えながら、ただ聞いていました。
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病院ではただ1人のがん患者。事務的に進んでいく現実
私は41歳で子宮がんの可能性を指摘されました。大きな病院で検査を受けるように言われた時も、その後がんと確定診断された時も、病院に私をサポートしてくれる人はいませんでした。
告知されたあと、診察室を出て茫然として座っていた私に、看護師さんは大きな声で次の検査の場所や入院に必要なものなどを事務的に伝えました。立ったままで話していることや、一方的に情報を伝えてくることに怒りさえ覚えながら、ただ聞いていました。
手術の日まで、私は複雑な気持ちで過ごしました。がんを取り切るという目標を持つ一方で、治療によって大切な臓器をも切除する喪失感や、後遺症への不安が募っていました。治療の苦痛、手術がうまくいかなかった時の病気の進行など、考えることは負の内容が圧倒的に多く、つらく苦しい思いをしていました。
「誰か助けて 神様はいないの?」
「一体私が何をしたって言うの!」
いつもそんなことを心の中でつぶやいていました。
病院には、診断された時から受けられる緩和ケアの専門外来や、がんに関わるすべてのこと(治療や費用、仕事など)を相談できる窓口があります。どうにもならない気持ちを聞いて欲しくて、私も「がん相談センター」に行ってみました。しかし、そこには忙しそうに受付業務を兼任する担当者しかおらず、目が合いません。しばらく立っていましたが、とても自分から「がんと言われて苦しいです」「治療がこわいです」などと胸の内を話す気にはなれませんでした。
その後、がん経験者同士が語り合う「がんサロン」に参加してみました。しかし、そこではがんを克服した人が「どんなに自分が素晴らしい治療を受けたか」を話し、治療の過程で体験した医師の悪口を言い、病院でのエピソードや噂話をしていて、誰かの話を聞く場ではないということがわかりました。
支えになったのは「ひとりじゃない」という気持ち
当時住んでいた地域には、がん患者のためのサロンや相談場所はほとんどなく、私は途方に暮れていました。
インターネットで検索して、やっと見つけたコニュニティーが私の救いとなりました。
女性に特化したがん患者のためのコミュニティーで、がんと疑われた人から治療後の人まで、たくさんの人が参加していました。トピックは誰でも自由に立てることができ、色々な人が答えてくれました。
そこでのやり取りは顔も名前もわからない同士でしたが、たくさんの情報を得ることができ、同じ立場のがん仲間からの生の声は、胸にすっと入っていました。私も胸の内も吐き出すことができ、多くの人が同じ気持ちでいることがわかりました。
何度も治療を受け、その後も再発と転移を繰り返している方からは、個別に「絶対にあきらめないでください。これからとても大変なことやつらいことが起きると思いますが、絶対にあきらめないで。あきらめたら命をもっていかれます」とメッセージをいただきました。
思いを吐き出し、共感してもらい、アドバイスや生の経験を聞くことで、私はとても強くなったように思います。
私には家族や友達がいます。これまではどんなことも自分で、もしくは家族や友達に相談して乗り越えてきました。予期せぬ病気になり自分でも驚いたのですが、家族や友達だからこそ話せないことができてしまったのです。
心配をかけたくない、話してもわかってもらえない、弱いところを見せられない……など、とても複雑な思いがあったからこそ話せなかったのですが、同じ境遇の仲間だからこそ、その複雑な思いをもわかちあえ、とても気持ちが楽になりました。
患者さんにとって何が支えになるかは、人によって異なります。私は1人の緩和ケア医として、またがんサバイバーとして関わる患者さんには「あなたはひとりじゃない」ということを伝えたいと思っています。
田所園子(たどころ・そのこ)
医療法人陽明会まごころの杜クリニック/訪問診療
1995年高知医科大学医学部卒業。 同大学医学部麻酔科蘇生科入局。41歳の時に子宮頸がんが見つかり、手術を受ける。しばらくはがんであることを受け止めきれず、周囲に言えない日々を過ごした。その後、がんの経験を生かして緩和ケアに携わり、患者によりそう医療を提供している。2022年4月から現職。
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