「手術でがんは取りきれた」=「治った」ではない。医師の言葉の真意を、緩和ケア医が解説
- 作成:2022/02/01
緩和ケア医であり、がんサバイバーでもある田所園子先生。大がかりな手術を受け、担当医から「がんは取きれた」と言われたものの、その後の検査で、がん細胞が残っている可能性を指摘されました。実は、医師が発する言葉は「その時点で」という意味合いのことがあり、患者さんは「治った」と誤解することがあるとか。医師、患者双方の心情について解説いただきました。
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「治った」と言われた1カ月後に「グレー判定」…
私は41歳で子宮頸がんと診断され、「広汎子宮全摘術」を受けました。これはがんのある子宮頚部に加え、転移や浸潤の可能性がある周辺臓器も摘出する根治手術です(根治手術:がんを全て取り除くことを目標とした手術)。
手術後、摘出した組織を病理検査に出して7つの項目を全てクリアしたので、医師から「取りきれた」というお墨付きをいただきました。手術を担当してくださったチームの医師の中には「もう治ったよ!」とおっしゃる先生もいて、とても嬉しかったことを覚えています。
ところが、1か月後の診察の時、膣断端の細胞診でグレーの結果がでました。
がんを告知された時は診察室では泣きませんでしたが、その時は思わず号泣してしまいました。医師から「がんとは限らない」と説明されましたが、私は白か黒かと言えば黒では? としか考えられませんでした。心のどこかで“手術で取り切れた=治った”と思っていましたが、大きな間違いだと気付かされました。がんはずっと続き、おそらく死ぬまで再発や転移の恐怖と戦うことになるのです。
以来、最初の1年は1か月毎、翌年は2か月毎、その翌年は3か月毎に診察を受けていきました。私の場合はそれ以降も3~4か月ごとに検査をした方がいいということで、診断から12年たった今もずっと通院しています。
術後のフォローが少なく、不安な患者は多い
子宮頸がんの疑いがあると言われた時、情報が欲しくて患者会を探しました。患者会では子宮がん・卵巣がんの患者さんが集い、ネット上で情報交換をしていました。実際の患者さんからの情報はとても貴重で、病院では教えてもらえなかった治療法や、後遺症などの実体験をたくさん聞くことができました。
私は、術後の検診の不安や、通院の煩わしさについて打ち明けました。すると「そんなに頻繁に検査してもらえるの?」「私は病院に来るように言われなかった、大丈夫なのかしら?」という人がいて驚きました。中には「検査してくれたら、手遅れにならなかったかもしれない。うらやましい」と言う人もいました。
もちろん、その患者さんごとに病状や病期も異なっていて、受診や検査の必要性もまちまちなのだと思います。でも、あまりにも診てもらえないことや検査してもらえないことに不安を抱いている方が多かったので、「自分は恵まれている」と思うようになりました。
検診は異常が無いことを確認するものだと思っていたのですが、今は取り切れずに残っているかもしれないがん細胞を見つけるための検査だと考えています。
「抗がん剤で腫瘍は消えた」はあくまで「現時点」の見解
私は緩和ケアに携わる医師として、がんの治療中の患者さんにお会いします。患者さんの中には、医師から「手術で取り切れた」「抗がん剤で腫瘍が消えた」などと説明を受け、「治った」と受け取っている方が少なくありません。患者さんによっては体調が良いと定期受診すらキャンセルしてしまう方もいます。
治ったと思いたい気持ちはよくわかります。でも、がんは怖い病気です。
手術で取り切れたというのは「取れるものは全て取った」という意味ですし、抗がん剤で腫瘍が小さくなった、画像上に見えなくなったというのは「薬が効いてそのような状態になっている」という意味です。あくまでも「現時点では」の見解です。
私は、治療中の患者さんにいつも「治ったと思っても、通院や検査を受けることを止めないでくださいね。またがん細胞が元気になって攻撃してくるかもしれません。いつでも戦闘態勢に入れるように構えているのと、無防備でいるのとは違います。しっかり身構えておきましょう」とお伝えします。
以前、それを聞いていた方が「僕はもっと早く先生に会いたかったな。そんなこと言ってくれる今まで一人もいなかった。みんな治った治った、よかったよかったと言ってくれたんでね。僕は何もしてこなかったんですよ」と話してくださいました。その方は、術後の再発や転移を繰り返し、その都度治療が遅れてしまいかなり病状が進行していました。
日頃から再発・転移に身構えていたところで、ものすごい攻撃にあえば太刀打ちできないかもしれません。しかし、「こんなはずじゃなかった」「こんなことになるなんて」といった状況にならないように、緩和ケア医としても、がんサバイバーとしても声をあげ続けていこうと思っています。
田所園子(たどころ・そのこ)
医療法人生寿会 かわな病院/内科、緩和ケア、麻酔科
1995年高知医科大学医学部卒業。 同大学医学部麻酔科蘇生科入局。41歳の時に子宮頸がんが見つかり、手術を受ける。しばらくはがんであることを受け止めきれず、周囲に言えない日々を過ごした。現在は、がんの経験を生かして緩和ケアに携わり、患者によりそう医療を提供している。
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