血圧の変化をどう見る? 高血圧症で大切な血圧の数値との向き合い方

  • 作成:2023/03/31

アスクドクターズ読者に関心の高いテーマである「高血圧症」。健康診断などで高血圧症を指摘されることも多く、血圧の数値をどう受け止めてよいのか迷う人もいるのではないでしょうか。そこで、これまで寄せられた高血圧症に関する質問のなかから、老年医学を専門とする山田悠史先生に、「血圧の数値をどう見る?」「目標値はどのように設定する?」といった具体的な質問に答えていただきました。高血圧症とうまく付き合うためのヒントもお聞きします。

山田 悠史 監修
マウントサイナイ医科大学老年医学科 アシスタント・プロフェッサー
山田 悠史 先生

この記事の目安時間は3分です

血圧の変化をどう見る? 高血圧症で大切な血圧の数値との向き合い方

日常生活で数値が変化するのはなぜ?

血圧はいつ測るのが正解ですか?

この時間という決まりはないですが、15分くらいゆっくりできるときに測りましょう。人によって、朝は慌ただしい、夜に時間がとれないなどあると思いますが、それぞれの生活スタイルでゆとりのある時間帯を選んでください。朝、起きてから、カーテンを開けて、布団をたたんで……、とバタバタしているときは、当然、血圧も高くなりますからね。

毎日、血圧を測っていると、同じように生活しているはずなのに平均値が上下することがあります。何が起きているのでしょうか。

何か起きているかもしれませんし、何も起きていない可能性もあります。というのも、血圧の値にはさまざまなことが作用しているからです。例えば、肩が凝っている、体のどこかに痛みがある、不安やストレスを感じているなど、血圧が上下する原因はたくさんあります。塩分の摂取量が多いときも上がります。また何もなくても1日の中で血圧というのは変動するものです。数日間、血圧が上がったり下がったりしたからといって、実はそこまで悩む必要はありません。

もし日ごとの血圧の変化が、健康に大きく影響するのであれば、医師は数日に1回は診療しなければならないはずです。しかし、実際には高血圧症で病院を受診するのは、数カ月に1回ですよね。つまり、その間の数値の変化を俯瞰的にとらえて、薬を増やしたり、塩分制限を始めたりすれば、治療として十分であるということです。

もちろん例外もありますが、数日間の血圧の上下で、すぐにアクションを起こさなければならないことは、他に症状がないのであればほとんどないと思ってもらって大丈夫です。それでも不安を感じる場合は、かかりつけの医師に相談してみてください。

睡眠中に胸がドキドキして目が覚めることがあります。血圧を測ると高くなっているのですが、関係はありますか?

おそらく睡眠中に血圧が高くなって目が覚めたというよりは、起きてから不安がある状態で血圧を測っているので高くなったという可能性の方が高いと思います。目覚めたときに呼吸が苦しいなどの症状があれば、それは医師に相談しましょう。

例えば、睡眠時無呼吸症候群という病気では、寝ているときの無呼吸、低酸素状態によって高血圧を招くことがあります。その場合、血圧を下げるための治療ではなく、睡眠時無呼吸症候群の治療が必要になります。このように、自分の目に見えているものは「高血圧」でも、治療は必ずしも血圧の治療ではないということもあります。

脈圧(血圧の上下の差)がだんだん大きくなるのは、動脈硬化が進んでいるからでしょうか。

脈圧が大きくなるのは、動脈硬化の進行や心臓の弁膜症が原因の場合もありますし、加齢によっても変化します。一概に動脈硬化が原因とは言えないので、気になる方はかかりつけの医師に相談してください。患者さんの生活習慣や、他の持病などを把握しているかかりつけの医師であれば、脈圧が大きくなる理由が分かるのではないかと思います。

動脈硬化の進行を抑えるにはどうすればよいですか?

一般的によく言われる「健康的な生活」にこそ、その効果が期待できます。「血をサラサラにする」といった宣伝をされている特定の食品に傾倒するのではなく、バランスの良い食事をとる、運動習慣を取り入れる、タバコを吸っているのであれば禁煙する、肥満があればダイエットをする。それら全てが動脈硬化を抑える可能性があります。できることを一つ一つやっていきましょう。

短期的な血圧の変化に、一喜一憂しすぎないことが大事

血圧に関連した体の不調には、どんなものがありますか?

高血圧は頭痛、疲労感、肩こりなどをきたしうることは知られていますが、多くの場合は無症状であり、むしろ血圧の高さは原因ではなく、結果ということもしばしばです。他に原因があり、それが体の不調につながり、結果として血圧が上がってしまっている。仕事のストレスや睡眠不足などが、不調の原因かもしれません。めまいや動悸といった症状も、高血圧が原因ということは稀で、まずは他に何が原因となっているのかを探ることが大切です。

血圧の値には個人差がありますが、目標値はどのくらいに設定すればよいですか?

血圧の目標値は、「何歳から何歳はこの値」といったように単純に設定できるものではありません。参考数値として、一般的には上が130または140、下が80または90が、よく用いられる目標値です。しかし、この数値は患者さんの年齢だけでなく、糖尿病などの疾患があるかなどを加味して、最適な値を設定します。

もし目標値が分からなければ、かかりつけの医師に相談しましょう。医療はチームで行うものですが、そのチームには医師や看護師、薬剤師だけでなく、患者さんも入っています。チームの一員として情報を共有し、共有してもらうことが、より良い治療につながります。

年齢やライフステージの変化によっても目標値は変わっていきますか?

さまざまな要因によって目標値を変えていくことはあります。その一方で、血圧は自然に変動するものなので、短期的な数値の変動に一喜一憂しすぎないことも大切です。健康な人でも、運動直後には血圧が高くなりますし、落ち着いているときには下がります。緊張やストレスでもすぐに上がります。日々の血圧の変動はあまり気にしすぎず、自分の平均値がだいたいどのくらいかを知っておく、ぐらいの姿勢で向き合うのが良いと思います。

先生のお話を伺って、血圧の数値に対する考え方が変わりました。これまで気にしすぎてしまっていたなと。

毎日の血圧の変化は、もう少し軽い気持ちでとらえてもらっていいと思います。血圧を測ることでストレスを感じるようでしたら、それはかえって不健康な習慣になってしまっているかもしれません。もっと大きな視野で全体像を捉える方が大事です。

私は普段アメリカで診療をしていますが、毎日血圧を測ってくる患者さんにはあまり出会いません。そのような方は、病院に来たときにだけ測っています。日本の患者さんは多くが真面目にチェックしているからこそ、数値の変動にも敏感なのだと思います。それ自体は悪いことではありませんが、それでストレスを感じていたらもったいないとも思います。

生活習慣病の治療に対しても「一生病気と付き合わなければならない」と悲観するのではなく、「未来の自分の健康のために」とポジティブに考えてもらえたら嬉しいです。

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次回のテーマは、高血圧症の薬との付き合い方。山田先生に、「高血圧の薬は一生飲み続けなければならないの?」「薬を飲むときにNGな飲み物は?」といった疑問に答えていただきます。

米国老年医学・内科専門医
慶應義塾大学医学部を卒業後、東京医科歯科大学医学部附属病院や川崎市立川崎病院で研修。米国NYのマウントサイナイ・ベスイスラエル病院の内科レジデント、同大学老年医学フェローを経て、現職。その他に、一般社団法人コロワくんサポーターズ代表理事、めどはぶ代表、フジテレビライブニュースαコメンテーターなど。著書に『最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM』(講談社)、『健康の大疑問』(マガジンハウス)など。

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