一生薬を飲み続けないといけないの? 高血圧症の薬の疑問にお答えします
- 作成:2023/04/07
今回のテーマは高血圧症の薬との付き合い方。高血圧症の治療では、血圧を下げるための薬の服用は欠かせませんが、「一生薬を飲み続けないといけないの?」と不安に思う人も多いのでは? そこで、アスクドクターズに寄せられた疑問のなかでも特に多かった、薬との付き合い方について、老年医学の専門家である山田悠史先生にお答えいただきました。
この記事の目安時間は3分です
「薬は飲み続けても大丈夫」だと安心してほしい
アスクドクターに寄せられた高血圧症の質問で、一番多かったのが「薬は一生飲み続けないといけないのか」というもの。一度、飲み始めた薬はやめられないのではと、不安に思う人が多いようです。
高血圧症は、血圧の数値が高いだけで、これといった自覚症状がないので、薬を飲み続けるメリットを感じにくいですよね。ただ、「一生飲まなければならない」と否定的に考える必要はなくて、むしろ安全に服用できているのですから、「一生飲んでも大丈夫な薬」だととらえることもできます。
もし薬を飲まずに収縮期血圧が150の状態で過ごしていた場合、10年後には心筋梗塞や脳梗塞を発症し、寝たきりになってしまっていたのかもしれません。血圧を下げる薬を飲むことで、それを防いでいるとしたら、大きなメリットがありますよね。副作用が出ていなければ、ほぼデメリットがないまま薬を飲み続けられるのですから、メリットがデメリットをはるかに上回る状態と、ポジティブに捉えられるのではないでしょうか。
それに、血圧やコレステロールの薬は、人が服薬しはじめてからすでに長い歴史があります。先人たちが何十年も飲んで、安全性を示し続けてくれている。そういう意味でも、安心感のある薬が多いと思います。
薬を飲み続けることを心配しすぎる必要はないと。
薬が必要であるとかかりつけ医に言われている場合には、多くの場合「自分にとって薬を飲むメリットがデメリットを上回っている」と思ってもらえるといいですね。ただ、その薬を飲み続けなければならないかは、人によって違います。もちろん薬の副作用が出た場合は、他の薬に変えることもできます。
例えば、もともと肥満の方でしたら、体重を減らすことで血圧が下がれば、薬を減らしたり、やめたりできる可能性があります。塩分制限で血圧が下がれば薬をやめられるかもしれません。一度、薬を飲み始めたからといって、一生飲まなければならないというわけでもありません。
高血圧症の薬にはどんな副作用がありますか?
血圧の薬はたくさんの種類があるので、一概にこれとは言えないのですが、日本で最もよく使われているカルシウム拮抗薬と呼ばれる種類の薬では、頻度の高い副作用として足の浮腫みが知られています。よほどひどい浮腫みがあれば、薬を変える必要がありますが、軽い症状であれば薬を飲み続けるメリットのほうが上回ると考え、薬を続けることもあります。それ以外の薬では、例えばミネラルのバランスが崩れるなどの副作用が出ることもあります。
副作用には自分でも気がつきますか?
足のむくみであればご自身で気づかれることも多いと思いますが、ミネラルバランスの異常などでは自覚症状はほとんどありません。そのため、高血圧症の診療では、血液検査を定期的に行い、副作用が出ていないかどうかを調べます。自分では分からなくても、医師が数値を見ながらチェックしますので、安心してください。
先生がこれまで診てきた患者さんのなかにも、薬をやめられた人はいますか?
いますよ。高血圧症の原因の一つが肥満だった場合、体重を落とすことで薬を大幅に減らしたり、やめたりした人をこれまで数多く診てきました。
それと、食事の見直しも効果的です。日本人は醤油が好きなので、世界的に見ても塩分摂取量が多いと言われています。アメリカの国立心肺血液研究所(NHLBI)で、高血圧の予防や改善のために考案されたDASHダイエットという食事療法や、『健康の大疑問』でも紹介した地中海式ダイエットなどを実践したことで、薬を減らせた人もいます。
もともと最小限の薬しか飲んでいなかった人は、全く飲まなくてよくなることも。ゼロにはならなくても、生活習慣の見直しによって、2種類飲んでいた薬を1種類にできるなど、減らせることはよくあります。
薬を飲み続けることに不安がある人は、食事や運動を見直すところから始めるとよさそうですね。
そうですね。ただ、サプリメントや特定の食品をとるだけで「血圧が下がる」とうたっているものは、注意が必要です。世間にはそうした健康ビジネスがあふれていますが、「これだけでいい」というようなうまい話はないと思ってください。間違った情報に惑わされてしまうと、大事な治療機会を逸してしまうことにもなりかねません。昔から言われているように、塩分を制限する、肥満であれば体重を減らすといった方法が、一番確実な方法なのです。
注意したほうがいい薬の飲み合わせ
薬を飲むときに避けたほうが良い飲み物はありますか? グレープフルーツジュースはダメだとよく聞きます。
『健康の大疑問』にも書きましたが、薬の種類によって飲み物との相性があるので、全ての薬にグレープフルーツジュースがダメなわけではないんですよ。でも、例えばカルシウム拮抗薬は、グレープフルーツジュースとの相互作用があるのでNG。他にもコレステロールを低下させるスタンチンという薬のうちのいくつかは、グレープフルーツジュースと一緒に摂取すると、薬の分解が邪魔されてしまことが分かっています。
ただ、グレープフルーツの影響を受けない薬もありますので、「摂取制限がつらい」という方は、悩まずに医師や薬剤師に相談してくださいね。状況によっては、別の薬に変えるといった対応で、摂取制限が必要なくなるかもしれません。
それ以外に、カフェインを含む飲み物や、牛乳などで、代謝や吸収に影響を受ける薬もあります。薬によって相性が違うので、もし迷うようでしたら水で飲んでおけば安心です。あるいは、詳細を薬剤師に確認してみてください。
薬を飲むタイミングを教えてください。
よく「薬は食後に飲む必要がある」と覚えている方がいますが、全ての薬で食後がベストというわけではありません。食後かどうかを気にしなくて良い薬もたくさんありますし、逆に食べ物と一緒に服用したり、食後に服用したりすると吸収が悪くなる薬もありますので、飲むタイミングは薬剤師さんの指導に従ってください。例えば、骨粗しょう症の薬は朝起きてすぐに飲むように指導されますし、鉄分のサプリを飲んでいる方も空腹時がよいとされています。
血圧の薬は、飲んですぐに効果がでるものではなく、多くは1日1回の服用で1日かけてゆっくり効くような薬なので、飲むタイミングをそこまで細かく気にする必要がないものも多いです。
先生はアメリカで診療をされていますが、日本とアメリカで薬の服用に違いはありますか?
大きな違いはなく、使っている薬もほとんど変わりません。ただ、最近では「ポリピル(polypill)」といって、何種類かの薬を1つにして1錠で飲めるようにした薬剤の開発が進んでいます。2022年にはアメリカで大規模な研究の成果が報告され、有用性が明らかになりました。日本でも合剤の種類が増えていますが、そうした薬がより個別化された形で広まる可能性があります。
…………………………
次回は、高血圧症をはじめとする生活習慣病に効果のある運動習慣や、食事などにまつわるお悩みについて、山田先生に答えていただきます。医師との上手なコミュニケーションの取り方のコツもお聞きします。
米国老年医学・内科専門医
慶應義塾大学医学部を卒業後、東京医科歯科大学医学部附属病院や川崎市立川崎病院で研修。米国NYのマウントサイナイ・ベスイスラエル病院の内科レジデント、同大学老年医学フェローを経て、現職。その他に、一般社団法人コロワくんサポーターズ代表理事、めどはぶ代表、フジテレビライブニュースαコメンテーターなど。著書に『最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM』(講談社)、『健康の大疑問』(マガジンハウス)など。
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