うちの凸凹−外科医と発達障害の3人姉弟−「そんな子、今まで見たことがない」透明化される子どもたち
- 作成:2024/09/06
こんにちは。外科医ちっちです。うちの3人の子どもは、全員が自閉スペクトラム症の診断を受けており、いくつかの困りごとを抱えています。一緒に生活するうえで、「こんな発想でこんなことをしてしまうのか」と驚かされることもあれば、「こうとしか考えられないのか」と辛い思いをすることもあります。この連載では、軽度の発達障害のわが子の日常や、子育ての様子を徒然なるままに綴ります。世の中にはこんな「変わっている子」「変わっている人」もいることを、いろいろな方に広く知ってもらい、お互いに楽に接するきっかけになったらいいと思っています。今日のテーマは「透明な子どもたち」です。
この記事の目安時間は3分です
なぜ、自分がすべて見抜けていたと思えるのですか?
子どもを観察して、何に困っているのか、どう手伝ったらスムーズかを試行錯誤して、その上で学校や病院、役所と話し合います。その機会に時々「そんな子、見たことない」とか、「自分が子どもの頃はそんな子いなかった」と言う人に出会うことがあります。
正直、かなり違和感があります。昭和の田舎育ちで、1学年が100人弱と少なかった私ですら、診断がつくかは別として級友にチック症状がある子も、算数だけ異様にできない子も、授業中に座っていられない子も見かけました。
医学生になって、生活の中の一部が極端にできない障害があると聞いて、「確かにいるだろう」と実体験として感じたし、その数がどんどん増えていると聞いても、「いや、昔からいたけど、数えていなかっただけでは?」というのが感想です。
ベテランの年代の教師から「そんな子、見たことがない」と言われた時には、「なぜ、自分がすべて見抜けていたと思えるのですか? 沢山の困っている子どもを自分が見抜けず、困らせたまま過ごさせたかもしれない可能性はないですか? 本当によく考えてからそう思いましたか? 今こう言われて、『そういえば……』と思う子どもは本当に1人もいませんか?」と聞きたくなります。
今でも一部の大人から、発達障害の子どもは透明化されているのです。
人間は、自分に関係のあるものしか見えないことがある
人間は、他人の困りごとに鈍感です。発達障害の症状として「他者への共感性が低い」と表現されることがありますが、「人間は、そもそも他人への共感性が低い」のではないかと思っています。
私が、子どもが生まれてから一番驚いたのは、「街にはこんなに子どもがいる」という事実でした。ずっと同じ街に住んでいたのに、自分自身が父親になった瞬間、今まで見えなかった子どもとその父親・母親がたくさん見えるようになったのです。
これこそが、人間の共感性の低さです。
人間には、自分に関係のあるものしか見えないところがあります。だからこそ、
「よく分からないけど、こういう人いるな」という心の余力が必要です。
こういった感覚は医者の世界でも大事にしている意識の一つです。
例えば、2005年にピロリ菌の発見についてノーベル賞を受賞したオーストラリアの医師がいました。それまでも胃がんの人の胃粘膜には変な菌がたくさんいることは、実は病理診断を担当する医師の間では知られていました。ですが、その変な菌が胃潰瘍の原因にもなりうる菌だと分かり、さらにはノーベル賞レベルの研究になったことに、我々医師は驚いたのです。
普段何気なく見ているものの意義などに気付けなくてもいい。ただ、自分が知らない・理解できないことを透明にせずに、記録や記憶をしておくことが大切ですね。
あの人には簡単にできるのに私にはどうしてもできないこと、その逆のこと。そんなことは意識して見つけようとしてみれば山ほどあります。その時に意識したいこと。
「自分ができるけど他人ができないことは意識に残りにくい、透明化されがち」
透明化され続けてきた人たちが、「特性」と言われて存在が認められるようになり、世の中の流れが大きく変わりつつあります。可視化され、次は対策が少しずつ整っていく過渡期が今です。
何気なく見ている人の行動のなかに、意外とビッグチャンスや子どもの困りのヒントが隠れているかもしれませんね。何事も透明化せず、自分の中に意味を見つけると少し大きな世界が見えてくるかもしれません。
外科医師。妻(看護師はっは)と発達障害3児の育児中。記事中のイラストは、看護師はっはが担当。著書『発達障害の子を持つ親の心が楽になる本』(SBクリエイティブ)が2024年9月発刊予定。
・ブログ:「うちの凸凹―外科医の父と看護師の母と発達障害の3姉弟」
・ブログ:「発達障害の生活は試行錯誤で楽しくなる」
・note:https://note.com/titti2020/
・Twitter:@surgeontitti
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