子宮筋腫の症状とは?妊娠・流産への影響、治療方法と手術費用
- 作成:2017/01/20
子宮筋腫とは、子宮にできるこぶのことで、近年患者が増加傾向にあります。 基本的に良性の腫瘍であり、妊娠中に初めて発覚することが少なくありませんが、不妊症の原因となったり流産の原因となったりすることがあるため、妊娠を望む方は治療が必要になることもあります。 子宮の全摘手術から経過観察まで幅広い選択肢があり、医師と相談したうえで自分にあった治療を選ぶ必要があります。 子宮筋腫の症状・変性、妊娠・出産への影響、治療・手術の費用などについて、医師監修記事で分かりやすく解説します。
この記事の目安時間は6分です
目次
- 子宮筋腫とは
- 子宮筋腫の症状
- 症状が似ている病気
- 子宮筋腫の検査と診断
- 子宮筋腫の変性とは
- 変性の種類
- 変性と症状の変化
- 悪性変性は「子宮がん」
- 妊娠中の発覚が少なくない
- 流産・陣痛への影響
- 帝王切開による分娩となるケース
- 分娩時の出血が止まらないケース
- 40歳以上の「4人に1人」は子宮筋腫?
- 子宮を全摘出するケース
- 薬物療法の条件 喫煙者はNG?
- 「サプリが有効」の根拠はない
- 子宮筋腫は良性腫瘍
- 貧血や強い痛みの場合は要手術
- 不妊・早産・逆子のリスク
- 手術で子宮の摘出が必要なケース
- 薬物治療中は妊娠できない
- 器具治療中の妊娠も難しい
- 普及していない治療法
- 手術が必要な子宮筋腫
- 子宮筋腫の手術の方法
- 手術法によって異なる費用
- お金の負担を減らせる高額療養費制度とは
子宮筋腫とは
子宮筋腫(しきゅうきんしゅ)とは、子宮にできるこぶのことで、女性の約7割は45歳までに子宮筋腫ができるといわれています。子宮筋腫の原因はよくわかっていませんが、女性ホルモンの一種であるエストロゲンの影響で次第に大きくなりやすいという特徴があります。
子宮筋腫は、こぶができた場所によって、子宮の中の部屋(内腔)にできる粘膜下(ねんまくか)筋腫、子宮の筋肉の中にできる筋層内(きんそうない)筋腫、子宮の外側にできる漿膜下(しょうまくか)筋腫に分けられています。
子宮筋腫は良性腫瘍(りょうせいしゅよう)であり、ただちに生命に影響を及ぼすものではありません。多くの場合は、自覚症状がありません。また、子宮筋腫はエストロゲンの影響を受けやすいため、閉経後はエストロゲンの減少とともに小さくなる傾向があります。
しかし、子宮筋腫は日常生活に影響を与えるほど重い症状が出ることもあります。さらに放置しておくと、次第に大きくなったり、不妊や流産、早産などが起こりやすくなることがあります。したがいまして、妊娠を希望する場合には早めに治療が必要になることもあります。
子宮筋腫は、自覚症状からは子宮体がん、子宮頸がん、卵巣腫瘍(らんそうしゅよう)などの病気と見分けるのが難しいこと珍しくありません。症状に気づいたら「気のせい」と放置せず、早めに婦人科医に相談しましょう。
子宮筋腫の症状
子宮筋腫の主な症状には、月経中の下腹部の痛み、月経中の大量の出血や血の塊、月経が長く続く、大量の出血に伴う貧血などの他、月経以外の出血、性交後の出血などが起きることもあります。これらの症状の重さには個人差があり、子宮にできた筋腫の数や大きさ、できた場所によっても異なります。
また、無症状であることも少なくありません。子宮筋腫は、次第に大きくなると子宮の周りの臓器を圧迫し、トイレが近い、便秘、腰痛などの症状が現れることもあります。
症状が似ている病気
ご自分では子宮筋腫の症状と思っていても、場合によっては生命に影響を及ぼす子宮筋腫以外の病気が原因である場合もありますので、自己判断はせずに医師の診察を受けることが大切です。
子宮筋腫と症状が似ていて、とくに注意が必要な病気は、子宮頸がん、子宮体がん、子宮肉腫、卵巣腫瘍などの病気です。良性腫瘍である子宮筋腫は他の臓器に転移することはありません。しかし、悪性腫瘍(あくせいしゅよう)である子宮頸がん、子宮体がん、子宮肉腫、悪性の卵巣腫瘍の場合は全身に転移すると生命に影響を及ぼすこともあります。良性の卵巣腫瘍の場合も、大きさや症状によって手術が必要なことがあります。
子宮筋腫と同様に、子宮が大きくなる病気に子宮腺筋症があります。これは、子宮筋腫と症状が似ていますが、子宮の筋層が厚くなってしまうために月経時に大量の出血や下腹部痛などが起こります。
子宮筋腫の検査と診断
子宮筋腫と診断するためには、内診や超音波検査を行います。超音波検査には経腹超音波検査と経腟超音波検査があります。必要があればCTやMRI検査を行うこともあります。検査の結果、とくに問題がないと判断された場合は治療の必要はありませんが、筋腫の状態を確認するため定期的な検診が指示されることがあります。
月経中の下腹部の痛みや大量の出血に伴う貧血がある場合は、痛みを和らげるための薬や貧血で不足した鉄分を補う鉄剤などを使うことがあります。
筋腫を小さくする治療としては、注射や鼻にスプレーする薬でエストロゲンの分泌を一時的に抑える方法があります。また、ピルを使って出血量を調節する方法があります。
また、筋腫の大きさや症状の程度によっては、手術で筋腫を取り出す必要があります。子宮動脈の血流を遮断するUAEという方法を使いますと手術をしなくても筋腫が小さくなりますけれど、保険適応がありません。また、今後妊娠を希望される場合には行えません。
子宮筋腫の治療法は、症状、筋腫の大きさ、できた場所や数、その人の年齢や今後妊娠の予定の有無などを考慮する必要があるため、担当医と十分相談してから治療法を選びましょう。
子宮筋腫の変性とは
子宮筋腫は、女性ホルモンの影響で子宮にできる良性の腫瘍のことで、女性の4人に1人は発症するよくある病気です。
女性ホルモンの影響で徐々に大きくなるので、生理の時に出血量が増えて動悸や息切れなどの貧血症状が出たり、腹部膨満感(ぼうまんかん)、腰痛、足のしびれが出るようになることもあります。
閉経と共に小さくなりますが、妊娠を希望するときに子宮筋腫のために子宮が変形したり、卵管をふさいでいると不妊の原因になるので手術をすることもあります。
筋腫が徐々に大きくなると、筋腫を栄養している血管が圧迫されたり閉塞することで、筋腫に十分な血液が流れなくなり、筋腫の酸素不足や栄養不足が起きます。結果として、筋腫が壊死(えし)してしまうことにより起こります。
変性は、子宮筋腫が存在する状態で妊娠をしたり、筋腫が徐々に大きくなっていくときに起きることがあります。
変性の種類
変性にはいくつか種類があり、最も多いものは硝子様変性(しょうしようへんせい)で血流不足により筋腫の内部が壊死し、ガラスの様に硬くなります。
硝子様変性が進行し、内部が粘液状になると粘液変性(ねんえきへんせい)と呼ばれます。
石灰化変性(せっかいかへんせい)は、筋腫が石のようにかたくなりカルシウムが沈着します。石灰化変性は、閉経後に起こることが多いと言われています。
他には赤色変性といって筋腫が栄養をとっている静脈血管が閉塞し、筋腫の中で出血やうっ血をすることにより筋腫が赤褐色になる変性もあります。
子宮筋腫内に水が溜まることを水腫変性(すいしゅ)、脂肪が溜まることを脂肪変性と言います。
変性と症状の変化
子宮筋腫が変性を起こすと、それに伴い強い痛みを感じることがあります。その後は痛みが治まり症状がなくなることもあれば、常に下腹部の痛みを自覚する場合もあります。子宮筋腫の変性自体は珍しくないですが、生理以外でも痛みが続く場合には、日常生活に支障をきたします。
また、筋腫が壊死した部分が感染しやすくなったり、炎症を起こし抗生物質による治療を行わなくてはいけないことがあります。下腹痛や炎症状態が続く場合には、手術で筋腫を摘出します。
子宮筋腫がある状態で妊娠をすると妊娠経過中に変性してしまうこともあり、痛みによる刺激で陣痛のような作用を引き起こし、流産や早産の危険性が高まります。また、子宮筋腫の変性に伴う感染症で、胎児に感染を起こる危険性もあります。変性時には強い痛みを伴うことが多いので、異変を感じたら早めに病院に行くようにしましょう。
悪性変性は「子宮がん」
子宮筋腫は子宮にできる良性の腫瘍なので、命に関わることはほとんどありませんがまれに悪性変性することがあるため注意が必要です。
悪性変性したものは「子宮肉腫(にくしゅ)」と呼ばれます。いわゆる子宮がんのことです。子宮筋腫のうち0.5%程度が悪性変性を起こすと考えられ、がんが疑われる場合には大きさや場所に関係なく手術で摘出します。
MRIなどの画像検査で診断しますが、良性か悪性かの判断は難しいことも多く、患者さんの年齢や腫瘍が大きくなる速度などを考慮して手術で摘出するかしないかを決定します。
妊娠中の発覚が少なくない
「子宮筋腫」は子宮の「平滑筋」と呼ばれる筋肉にできるこぶ(腫瘍)で、婦人科の疾患の中では特に多く見られます。たいていの場合は良性な腫瘍で悪性化することはまれです。
子宮筋腫ができやすいのは30歳代から40歳代の女性です。生理中のひどい痛みや出血が多いなどの症状が出ますが、子宮筋腫をわずらった方の約半数では痛みや自覚症状がないと言われ、妊娠してからの受診で、初めて子宮筋腫に気づくことも少なくありません。妊娠中の子宮筋腫の割合は約3%と言われます。
筋腫が成長する方向によって「粘膜下筋腫」「筋層内筋腫」「しょう膜下筋腫」に分けられます。妊娠、また出産に最も影響が大きいのは「筋層内筋腫」で、子宮筋腫全体の約70%を占めます。筋腫が大きいほど妊娠、出産への影響が出やすくなります。
子宮筋腫の方が妊娠した場合、筋腫が胎盤への血流を妨げてしまい、流産または早産になる場合があります。また出産時に産道が狭くなり、赤ちゃんがうまく出てこないことも考えられます。原則として妊娠中には筋腫を取り除く手術は行いませんが、妊娠の継続が困難な場合には手術による摘出が行われることもあります。
流産・陣痛への影響
粘膜下筋腫がある場合、子宮内膜への影響が大きく、妊娠に必要な「着床」の障害を起こす事があります。そのため、妊娠そのものが困難になり、不妊症を起こす事があります。
妊娠22週未満に、何らかの理由で妊娠の継続が出来なくなることを「流産」と呼びます。自然流産のほとんどは、妊娠12週未満の早期流産で、その多くは赤ちゃんに異常がある場合が多いようです。これに対し、妊娠12週以降に起こる「後期流産」は母体に異常があることが多く、妊娠の約1%に起こるとされます。子宮筋腫は後期流産の原因となる「子宮内腔の変形」を引き起こす場合があります。
さらに子宮筋腫によって子宮が収縮しにくくなり、陣痛が弱くなることがあります。「微弱陣痛」といいます。陣痛は赤ちゃんの出産には重要な生理活動で、弱すぎると分娩がうまく進みません。自然に子宮の収縮が強くならない場合には、子宮を収縮させる薬(陣痛促進剤)を投与する場合もあります。
子宮筋腫は出産へ影響があると言えます。将来的にお子さんを希望されている方は、定期的に婦人科検診を受けるようにしましょう。
帝王切開による分娩となるケース
大きな筋腫が子宮の入り口に近いところにできると、出産時に赤ちゃんの通り道をふさいでしまい、赤ちゃんがスムーズに出てくることができません。
さらに子宮筋腫は複数個できることも多く、そのために子宮の内側の膜がでこぼこになり子宮の形を変形させてしまうことがあります。変形した子宮内では赤ちゃんが逆子になったり、横に寝てしまったりすることもあります。
このような場合には、出産時のリスクや赤ちゃんにかかるストレスを軽くするために、帝王切開による分娩を行います。
分娩時の出血が止まらないケース
赤ちゃんを出産した後の子宮は、正常な場合には、自らの力で収縮して元の大きさに戻ろうとします。しかし子宮筋腫があると、筋肉が収縮するのを妨げてしまいます。
分娩時に起こる出血は、正常な場合、子宮が強く収縮することで血管をふさぎ、自然に出血が止まります。しかし子宮の収縮が不十分だと血管が開いたままで、出血が止まらなくなることがあります。出血がひどいと貧血やショック症状を起こして、ますます収縮が進まなくなります。このような場合には子宮収縮薬の投与やマッサージを施します。また子宮の収縮が正常に進まないと、産後の子宮の回復が遅れる原因にもなります。
40歳以上の「4人に1人」は子宮筋腫?
子宮筋腫とは子宮の筋層内にできる良性の腫瘍で、成熟期の女性に多く,40歳以上の女性の4人に1人は筋腫があるといわれています。原因ははっきりとは分かっていませんが、もともと持っている素因に加え、エストロゲンが活発に分泌することで成長するのではないかといわれています。そのため、閉経すると小さくなります。できる場所や個数はさまざまで、できる場所によって「粘膜下筋腫」「しょう膜下筋腫」「筋層内筋腫」にわけられ症状も違います。
粘膜下筋腫は子宮の筋層から内側に向かってできる筋腫で症状が出やすいのが特徴です。月経トラブルがおこりやすく、月経量が増える、月経日数が長い、不正出血、貧血などがあり不妊の原因にもなりやすいです。しょう膜下筋腫は子宮の筋層から子宮の外側に向かって大きくなる筋腫です。症状が出にくくかなり大きくならないと発見が遅れることがあります。筋腫が大きくなることで周りの臓器を圧迫し、頻尿や腰痛などの症状があらわれ、お腹に上から触っても筋腫が触れるようになります。筋層内筋腫は子宮筋層内で大きくなる筋腫で、大きくなって子宮の内側や外側にせりだしてくると、粘膜下筋腫やしょう膜下筋腫と同じような症状があわられます。
子宮を全摘出するケース
子宮筋腫の治療は経過観察されることも多いですが、症状が強い場合は薬物治療か手術で積極的に治療をおこないます。手術療法には筋腫のみを取る方法と子宮全てを取る方法とがあります。妊娠を希望する場合は子宮筋腫のみを摘出する方法を取りますが、子宮筋腫は子宮があり、エストロゲンの分泌が活発な間は筋腫だけを取っても再発する可能性があるため、妊娠の希望がない場合や年齢、筋腫の状態、症状の程度などによっては子宮全てを摘出するケースもあります。手術には開腹手術、腹腔鏡下手術、子宮鏡下手術があり子宮筋腫の大きさや発生場所などによって決定されます。
薬物療法の条件 喫煙者はNG?
薬物治療には女性ホルモンを停止させ、閉経と似た状態にさせるGn-RHアゴニスト療法(偽閉経療法)があります。1か月に1回注射をする方法、1日2~3回鼻に薬を噴霧する方法などがあります。この治療法は筋腫が小さくなり症状が緩和されますが、一時的に女性ホルモンを停止させるので、更年期に似た症状や、骨粗しょう症になりやすく一般的には6か月間の使用が限度になります。薬物治療には他にピルによって月経痛の軽減や月経量を抑える治療もありますが長期間の服用で副作用が出たり、40歳以上や肥満の方、高血圧の方、タバコを吸う方では「血栓症」(血のかたまりで血管がつまる病気)の危険性が高くなるため服用できないなどの条件があります。
また、いわゆる避妊リングに女性ホルモンの一種の黄体ホルモンを放出させる機能を持たせた子宮内システムは、出血の量を抑えたり、月経痛を抑える効果があります。他には漢方薬による治療法もあります。いずれにせよ薬物治療で子宮筋腫がなくなることはないため、症状緩和のための一時的な対処、閉経が近い場合は閉経までの対処、手術の前の補助治療としてなされることが多いです。
「サプリが有効」の根拠はない
子宮筋腫は悪性のがんではないので命を左右するものではないということと、エストロゲンによって大きくなるので閉経すれば萎縮して症状もなくなるため、閉経までの期間をどう対処するかが治療の選択のポイントとなります。治療法の選択は症状の程度や年齢、妊娠の希望の有無、不妊の原因の有無、生活スタイル、個人の考え方や希望なども含め患者さんが一番有益な方法が選択されます。一部、子宮筋腫に有効なサプリメントなどが売られていますが有効であるという根拠はなく、過剰な期待をもつことは避けたほうがよいでしょう。いずれにせよ積極的な治療はせず経過観察や対症療法に留まるのか、積極的に治療をおこなうのかも含め、自分に一番合う治療法を選択することが大切です。
子宮筋腫は良性腫瘍
子宮筋腫というのは、本来子宮を構成する細胞だった「平滑筋」という筋肉細胞が異常増殖することで腫瘍になったものです。ガンとは違い、腫瘍を作り出す異常増殖する細胞が転移することはなく、増殖速度自体も緩やかなため人体に大きな悪影響を及ぼすことのない良性腫瘍です。
子宮筋腫ができる原因はまだ解明されていません。しかし、筋腫は初潮後に発生し、閉経後に縮小することから女性ホルモンであるエストロゲンが子宮の細胞に何らかの影響を与えていると考えられています。女性であれば誰でも起こる可能性があり、子宮筋腫ができるかどうか、筋腫がどこにできてどれくらいの速度で成長するかなどの要因は、本人の体質的なものに左右されます。
そのため、できる場所も筋腫の成長速度も人によってバラバラでです。体質的な問題であるため、一度に多数の筋腫ができたり、腫瘍だけを摘出しても再発することがあるため、よほどの症状が出ない限り体に負担のかかるような治療をすることはありません。
貧血や強い痛みの場合は要手術
子宮筋腫は良性腫瘍であり、命に関わることがないとはいえ、症状やその人の状況によっては手術等の治療が必要になるケースもあります。
例えば、子宮筋腫が原因で月経時の出血が多く、貧血になり日常生活に支障を来す場合があります。また、純粋に強い痛みを生じるような場合も、治療の必要があるでしょう。他にも、腫瘍が大きくなりすぎたために膀胱や腸などを圧迫し、排尿や排便に異常が出るような場合にも治療が必要です。
基本的には、日常生活に支障が出るかどうか、本人がそれによって強い苦痛を受けているかどうかが手術をするかどうかの基準になるといえます。
不妊・早産・逆子のリスク
命に関わることがないとはいえ、妊娠の予定がある人の場合は注意が必要です。子宮内部にできた筋腫が不妊の原因となったり、子供がうまく育たず流産に繋がったり、早産になるリスクもあります。また、筋腫の位置や大きさによっては子宮内で子供が姿勢が正しくならず、逆子として生まれてくるケースもあります。こういったリスクを考えると、症状の緊急度が低いからといって無視できるものではありません。
手術で子宮の摘出が必要なケース
さらに、子宮筋腫を摘出する場合、子宮の全摘出が必要となる場合があり、妊娠できなくなってしまいます。しかし、技術の向上で筋腫のみ摘出が容易になり、開腹しなくても、内視鏡などを使えば母体への負担が減り、小さな傷口で手術ができるようになっています。手術に対するハードルは下がっているようです。
ただ、子宮を全て摘出しないかぎり再発のリスクはつきまといます。出産のために筋腫を摘出する場合には、手術から妊娠・出産までの流れを計画的に行う必要があるでしょう。
薬物治療中は妊娠できない
まず、子宮筋腫の薬物治療では、筋腫が成長する原因物質である女性ホルモンの分泌を抑えたり、症状を軽減させるための避妊薬などが用いられることが多いため、薬物治療中の女性は妊娠できなくなります。基本的には、すぐに妊娠予定のない女性に対して使われる方法です。
さらに、この治療で筋腫が完全に無くなることはなく、薬物治療を止めるとすぐに筋腫は成長を始めます。また、子宮筋腫は閉経と同時に小さくなっていく傾向があるため、閉経までの繋ぎとして用いられることが多いです。若い女性に使われる場合、手術前に筋腫の状態を調整したり、月経で体力が衰えるのを防いだりするために一時的に使われるだけで、長期的に投与されることはありません。
器具治療中の妊娠も難しい
また、月経時の出血が多く日常生活に支障を及ぼす様な方には、いわゆる「子宮内リング」に「黄体ホルモン」という女性ホルモンの一種を放出させる機能を持たせた、子宮内システムを使った治療をすることがあります。この治療中は妊娠ができませんが、器具を抜去すれば、すぐに妊娠可能になりますので、妊娠前の一時的な治療にも適しています。
普及していない治療法
子宮筋腫に、外部から高エネルギーの超音波を照射し子宮筋腫を焼く、「集束超音波治療」という方法もあります。治療対象に制限はありますが、体への負担の少ない治療方法です。
また、子宮をに栄養を送っている動脈の血流を一時的に止めて、筋腫を縮小させる、「子宮動脈塞栓術」という治療法もあります。血管の中に細い管(カテーテル)を入れて、子宮動脈にスポンジ状のゼラチンを詰めます。ゼラチンそのものは数週間で吸収されますが、その間に子宮筋腫が縮小します。体への負担の少ない治療方法です。
これらの治療は、健康保険の適応がなく、自費の治療となります。治療後の妊娠についての影響は十分にわかっていませんが、治療後に妊娠された方も多くいます。まだ広く普及していませんが、今後注目されている治療です。
手術が必要な子宮筋腫
子宮筋腫の主な症状は月経のトラブルや不正出血に始まり、進行すると痛みや不妊の原因になることがあります。しかし、子宮筋腫はあくまで良性の腫瘍であり自覚症状もないことも多いので、特に治療を行わずに経過観察することも少なくありません。
子宮筋腫には、女性ホルモンによって大きくなる性質があります。そのため、更年期の方であれば、閉経後に筋腫の発育が止まったり、症状が消えてしまうこともありますので、そのまま経過を見ることも多いのです。
また、卵巣から分泌されるエストロゲンを抑えることで閉経に近い状態にする偽閉経療法を行うことで,筋腫が大きくならないようにする方法があります。尚、出血をコントロールする目的でピルが用いられることもあります
手術が必要になるのは、子宮筋腫が不妊・流産の原因になっていると疑われる場合、痛みや過多月経の症状があり、薬でのコントロールが難しく日常生活に支障を及ぼす場合です。また、急速に大きくなったりして子宮肉腫といった悪性腫瘍との鑑別が困難な場合などにも手術による治療が必要になります。
子宮筋腫の手術の方法
子宮筋腫の手術は、大きく分けて二種類あります。一つが、子宮全摘術(しきゅうぜんてきじゅつ)と呼ばれる、子宮をすべて取ってしまう手術です。これにより子宮筋腫の再発や、子宮がんになるリスクをゼロにできます。もう一つが、筋腫核出術(きんしゅかくしゅつじゅつ)といって、筋腫の核の部分だけを取り除く手術です。妊娠を希望する人はこちらを選んでください。この手術によって不妊を含む症状の回復が見込まれますが、残念ながら再発の可能性は残ります。また、手術に伴って大量出血が起こったりする危険性があります。
どちらの手術にも、いくつかの手術方法があります。まず、腹部を切開する開腹手術。この手術の場合、どうしても傷跡が残ってしまいますが、確実に筋腫を取り除ける可能性の高い手術法です。
次に、腹腔鏡手術(ふくくうきょうしゅじゅつ)があります。こちらは、腹部に5~10ミリほどの小さな穴を開け、そこから腹腔鏡と呼ばれる内視鏡を入れてお腹の中を見ながら筋腫を取る方法です。また、それほど大きくない粘膜下筋腫の場合に子宮鏡下手術(しきゅうきょうかしゅじゅつ)という、腟から内視鏡を入れて切除する方法があります。こちらはお腹を切開せずに手術できるため、傷の治りも早く短期で退院できるメリットがあります。
手術法によって異なる費用
病院によって異なりますが、一般的な手術費用を紹介します。
まず、子宮全摘術の場合は、開腹手術に比べて腹腔鏡手術の方が手術点数が高くなります。また、麻酔の方法によっても保険点数が違ってきます。筋腫核出術の場合も同様で、腹腔鏡手術の方が手術点数が高くなります。子宮全摘でも筋腫核出術でも、健康保険を使ってお支払いは20万~25万円ほどになると思います。
子宮鏡下手術では、手術点数がそれよりも低く入院日数も短いので、開腹手術や腹腔鏡手術に比べて費用は少なくて済み、8~10万円程度になります。尚、所得にもよりますが、次に出てくる高額療養費制度を使えば自己負担額が少なくなる可能性があります。
お金の負担を減らせる高額療養費制度とは
高額療養費制度というものをご存じでしょうか。これは、医療費の負担が大きくならないように、医療費の自己負担額が一定より高くなると、費用の一部を支給してもらえる制度です。
対象となる金額は一ヶ月ごとにカウントされます。支給を受けるためには、事前に認定書を取得する必要があります。手続は、加入している健康保険組合などで行います。一旦は病院で自己負担する必要があり、払い戻しが完了するまでにおよそ3ヶ月以上はかかりますが、金銭的な負担を減らして治療や手術を受けることができます。しかし、あとから払い戻されるとはいえ、一時的な支払いは大きな負担になります。
70歳未満の方で、医療費が高額になることが事前にわかっている場合には、「限度額適用認定証」を提示する方法が便利です。「限度額適用認定証」を保険証と併せて病院の窓口に提示すると、1ヵ月の窓口でのお支払いが自己負担限度額までとなります。ぜひこの制度を活用してみてはいかがでしょうか。詳しくは全国健康保険協会のサイトで調べることができます。また、病院窓口でご相談いただくとよろしいでしょう。
手術を選択する際にどのくらいの費用がかかるのか気になる方は多いと思います。今回は費用についてご紹介しましたが、まだこの病気に関する疑問が解決されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?
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