妊婦の疥癬治療の考え方と注意点 オイラックス、スミスリンは可?
- 作成:2016/06/17
妊婦への疥癬(かいせん)の感染が発覚した場合、問題となるのは、薬です。オイラックスやスミスリンなどの薬の使用可否に加え、「妊娠中に使ってはいけない薬」の考え方を含めて、専門医師の監修記事で、わかりやすく解説します。
この記事の目安時間は3分です
「妊婦に安全な薬はない」の理由
妊娠中の疥癬治療の考え方
スミスリンは使用可?
オイラックスは使える?
イオウ軟膏は使える?
ペルメトリンは使える?
ストロメクトールは使える?
「妊婦に安全な薬はない」の理由
妊婦への疥癬が発覚した場合、問題となる、特別な配慮が必要となるのは薬です。原因や症状等に大きな差はありません。
一般的に、ある薬剤を妊娠中に用いても安全かどうかについて結論を得るためには、実際に妊婦に投与して、その結果を統計的に検討する必要があります。しかし、妊婦を対象とした影響を確かめる検査は、倫理的な問題があります。つまり、「悪い影響がありそう」という推測をもとに薬を投与した結果、悪い影響が出た場合、妊婦の女性や子供に対して取り返しのつかないことをしてしまうことなります。そのため、影響を厳密に確かめる試験は実行されることはなく、実際に「妊娠中に使っても安全である」と言い切れる薬はありません。
しかし、長い間用いられてきた薬剤では、偶然、妊娠中に投与されたり、病気の治療のためやむを得ず投与されたという事例や経験が、貯まってきます。そのような偶然の結果として、妊娠中に用いても安全かどうかがわかってきます。また、実績に乏しい場合でも、薬理学(薬の作用を研究する学問)や医学の知識を総合して考えると、妊娠中の投薬についての安全性について、ある程度推定することが可能な薬もあります。
妊娠中の疥癬治療の考え方
では妊娠している時にたまたま疥癬になってしまったという時は、どのようにしたら良いのでしょうか。
安全であることが確認されていない薬は一切使わないという立場をとると、疥癬が自然治癒するのを待つことになります。疥癬にある程度免疫が働くことはわかっていますが、自然治癒を待つとかなり時間がかかることは確実です。しかし、自然治癒を選択した場合、同居の家族は治療を継続する必要があります。また、やがて子供が生まれた際には、今度は「新生児に薬を使って良いか」という問題が起こってきます。したがって、自然治癒を待つのは合理的ではないように思われ、何らかの薬剤を使って治療することが望まれます。
スミスリンは使用可?
「スミスリンローション(一般名:フェノトリン)」という塗り薬は2014年に発売された新しい薬で、まだ妊婦が塗ることについての公式なデーターがないため、薬剤の添付文書(医療関係者向けに使い方や注意点を記載したもの)では、「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ使用すること」とされています。なお同様の理由により、授乳中に使うことについては、薬剤の添付文書では「避けることが望ましい」とされています。これが製薬会社の公式な見解ということになっています。
しかし学問的には「スミスリン(一般名:フェノトリン)」という物質は、蚊取り線香の有効成分と同じ。「ピレスロイド系」に分類される薬であり、毒性が低いうえ、塗った時に、皮膚から吸収されて血液中の成分濃度が高くなることはないということがわかっています。このため、妊娠中に疥癬になった、もしくは判明した場合は、担当医に説明をしてもらって、納得できれば、スミスリンローションを用いた治療を考慮しても良いと思われます。
オイラックスは使える?
「オイラックス(一般名:クロタミトン)」は古くから使われてきた薬剤で、今までに特に大きな問題は生じていませんから、妊娠中の疥癬治療に用いる薬剤の候補となります。しかし、オイラックスの公式の添付文書では「妊婦又は妊娠している可能性のある婦人に対しては大量又は長期にわたる広範囲の使用は避けること」という記載があります。疥癬治療の原則である「首から下の全身に2週間から3週間塗ること」が「大量又は長期にわたる広範囲の使用」に該当するかどうかの記載はなく、曖昧なところが残ります。なお、オイラックスを、皮膚炎がひどくてジクジクしたところや、ひどいかき傷にぬると刺激を与え、皮膚の状態が悪化することが多いので、そのような部分は避けて塗ることが必要です。
イオウ軟膏は使える?
イオウ軟膏は、病院向けの薬として販売されておらず、各医療機関で調剤する必要があるため一般的ではありませんが、学問的には毒性が低いため妊婦でも使用できるということになっています。なお薬剤として販売されてないため、イオウ軟膏の公式な薬剤添付文書はありません。
ペルメトリンは使える?
海外では、疥癬の治療薬として、「ペルメトリン」という塗り薬があり、疥癬に対する有効性、安全性が優れており、妊婦、授乳婦、生後2か月以上の小児に投与可能とされています。ただ、ペルメトリンは国内での販売はなく、個人輸入という形になります。なお、ペルメトリンはスミスリンローション(一般名:フェノトリン)と同じく「ピレスロイド系」に分類される薬剤です。
ストロメクトールは使える?
「ストロメクトール(一般名:イベルメクチン)」という薬の内服(飲むこと)については、動物実験にて「催奇形性(胎児の奇形が起きる危険性)」が認められていますから、妊娠中の内服には不向きです。また授乳については、使用後、母乳中に高濃度に薬剤の成分がでて、それが14日目まで検出されることがわかっていますから、内服したらしばらく授乳は中止することになっています。
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妊婦の疥癬の治療についてご紹介しました。体のかゆみに不安を感じている方や、疑問が解決されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?「病院に行くまでもない」と考えるような、ささいなことでも結構ですので、活用してください。
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