心肺停止とは?原因、蘇生確率、後遺症、「心停止」「死亡」との違い 蘇生方法や「心停止後症候群」も解説

  • 作成:2016/07/15

心肺停止とは、文字通り、心臓と肺が止まった状態です。心肺停止から蘇生する可能性もありますが、後遺症が残る可能性もあります。心肺蘇生の方法や、「心停止」との違いも含めて、医師監修記事でわかりやすく解説します。

アスクドクターズ監修医師 アスクドクターズ監修医師

この記事の目安時間は6分です


心肺停止とは?
「心肺停止」と、「心停止」「死亡」の違い
心肺停止の主な原因
心肺停止になった際の基本的な対応方法は?蘇生の確率は?
心肺蘇生の手順
心肺停止からの蘇生後に後遺症はある?心停止後症候群とは?

心肺停止とは?

「心肺停止(しんぱいていし)」とは、その名の通り。心臓と肺の活動が停止した状態を指します。心臓の働きは全身に血液を規則正しく送り出す事であり、肺の働きは呼吸を行うことです。つまり「心臓と肺の活動が停止した状態」とは、身体を触っても脈が触れず、呼吸を行っていないという状態を指しています。

「心肺停止」と、「心停止」「死亡」の違い

心肺停止と似た言葉に「心停止(しんていし)」や「死亡(しぼう)」があります。それぞれ意味合いに少しずつ違いがあり、心停止は「脈が触れない状態」のことです。脈が触れない状態というと、「心臓が止まっている=死んでいる」と考える方がいらっしゃるかもしれませんが、厳密には違います。重大な不整脈などが起こっている場合には心臓の機能が悪くなって全身に血液を送り出すことができなくなるため、首や手首を触っても脈を触れなくなることがあるのです。不整脈が原因で心停止に陥っている場合は、不整脈の治療を行うことで心臓の機能が回復する可能性があるため、一時的に心停止の状態になってもその後回復する可能性があります。

ただし回復の可能性があるといっても「心停止」が重大な状況であることには変わりなく、心停止に陥った状態のまま時間がたつとそのまま死亡したり、回復しても重い後遺症を残す可能性も非常に高いため、「心停止」と判断された場合には救急車などで病院に搬送し救命のためすみやかに治療を受ける必要があります。

また「死亡」とは、医学的には「心臓・肺・脳の全ての不可逆的な(元に戻らない)機能停止」と定義されています。心肺停止は心臓と肺の機能の停止だけを指しており、実際の現場では「脈が触れず呼吸が止まっている状態」ならば誰でも分かるため、医師でなくとも誰でも心肺停止と判断することができます。つまり、「心肺停止」は検査などによる医師の診断を必要としませんが、「死亡」については心臓、肺、脳の機能停止を指しており、また心電図や胸部聴診などの検査を行い、医師によって診断される必要があるという事です。

心肺停止の主な原因

「心肺停止」は心臓と肺の機能が停止した状態であり、心臓が先に停止することもあれば呼吸が先に停止する場合もあります。どちらが先に停止するにせよ、心臓と肺のどちらか一方が停止すると間もなくもう一方も停止してしまいます。

広い意味で言うと人間が亡くなる際には誰でも心肺停止になるのですが、ここでは病気によって急に心肺停止状態に陥る場合を取り上げます。成人が急に心肺停止状態になる代表的な原因としては心筋梗塞や重大な不整脈などの心臓病が最も多く、心臓病以外では肺梗塞や脳卒中なども原因になる可能性があります。

心肺停止になった際の基本的な対応方法は?蘇生の確率は?

心肺停止状態になった場合、できる限りすみやかに救急措置を行わなければなりません。心肺停止の際に行われる心臓マッサージや人工呼吸などの救急措置を「心肺蘇生(しんぱいそせい)」と言います。心肺停止の状態では、脳やその他の重要な臓器に血液が循環しないため、血液によって運ばれる酸素や栄養が不足して臓器に障害が起こります。そのため心肺停止の時間が長くなるほど脳などのダメージが強くなり蘇生後の後遺症が重くなるほか、蘇生の確率も下がってしまいます。

救急車が到着するまでの時間は地域にもよりますが平均8.6分と言われています(「平成27年度版 救急救助の現況」http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/fieldList9_3.html)。しかし、蘇生の確率は心停止から1分ごとに7%から10%下がってしまうため、心肺停止状態の人を発見した時はすぐに救急車を呼び、救急車が到着するまでの時間にできるかぎり速やかに心肺蘇生を行う事で、救命率を上昇させることが出来ます。

心肺蘇生の手順

以下に心肺蘇生の手順を記載します。(*「日本救急医学会 市民のための心肺蘇生」(http://aed.jaam.jp/)より抜粋、加筆)

成人の場合

1.倒れている人を見つけたら、まず患者さんと自分の安全を確認しましょう。道路など危険がある場合は安全な場所に移動する必要があります。安全が確認されたら肩を叩きながら大声で声をかけ、反応を確認します。

2.反応がない場合、「誰か来て!」と大声で応援を求めます。心肺蘇生は複数の人間で行ったほうが良いためです。人が来たら、「AED(エーイーディー:自動体外式除細動器。心臓に電気ショックが必要な場合を自動で判断し、必要な場合は自動で電気ショックを行ってくれます)」を持ってくるようにお願いします。次に、電話で救急車を要請します。電話で救急隊員が心肺蘇生について指示をしてくれるため、電話はつないだまま指示に従ってください。

3.呼吸の確認をします。胸とお腹の動きを観察し、呼吸が止まっているか普段通りでなければ心肺停止の可能性が高いと判断します。心停止直後には、しゃくりあげるような不規則な呼吸がみられることがあります。これは「心停止」のサインであり「呼吸なし」と考えて次に進みます。

4.ただちに胸骨圧迫(心臓マッサージ)を開始します。押す場所は胸の真ん中で、「胸骨」という骨の下半分です。左右の乳頭を結んだ線の真ん中と覚えても構いません。患者さんの胸のあたりの横に両膝をつき、一方の手の平を胸の真ん中に置いてもう片方の手を上から重ねます。両手の指を組み、上になった手の指で下側の手の指を引き上げるようにします。これは指が患者さんの胸についた状態で心臓マッサージを行うと余計な力がかかって患者さんの肋骨が折れるリスクが高くなるためであり、心臓マッサージによる肋骨骨折のリスクを減らすために必ず手の平だけで患者さんを押すように気を付けます。

患者さんの真上に自分の身体が来るように気を付けながら、肘をまっすぐに伸ばして患者さんの胸の中央が5㎝程下がるように体重をかけて押します。押す速さは1分間に100回程度が適当と言われており、規則正しくリズミカルに押しましょう。心臓マッサージを行っている間は患者さんの身体から手を離してはいけません。複数の人間がいる場合は疲れる前に交代することで長時間の心臓マッサージが可能になります。

5.心臓マッサージを行った上で、更に可能な場合は人工呼吸を行います。救助者が感染することを防ぐため、出来るだけ感染防護具を使用することが推奨されています。感染防護具を持っていない場合や直接口と口を接触させることがためらわれる場合は、人工呼吸を行わずに心臓マッサージだけを継続しても構いません。

知識を持っており、人工呼吸を行う意思がある場合は、心臓マッサージ30回に対して人工呼吸2回のペースで繰り返し行います。人工呼吸の方法はまず片手で患者さんの額を押さえ、もう一方の手であごの先端を持ち上げて、喉の奥を広げ空気を通りやすくします。空気の通り道を確保した姿勢のままで、吹き込んだ息が漏れないように額を抑えていた手で患者さんの鼻をつまみます。自分の口を大きく開き、倒れている人の口をおおって、胸が軽く持ち上がる程度の量を約1秒かけて吹き込みます。

6.AEDがある場合はAEDの電源をすぐに入れます。機種によってはフタを開けた時に自動的に電源が入るタイプもあります。いずれにせよAEDは音声や画像で指示を出してくれるため、指示に従うことで使用することができます。

AEDは患者さんの心電図を解析し、電気的除細動(電気ショック)を行うための機械です。心肺蘇生法が成功するかどうかの鍵はいかに早く電気的除細動(電気ショック)をおこなうかにかかっているといって過言でなく,心停止から5分以内に電気的除細動をおこなうことができれば有意(統計的に意味のあること)に生存率が高くなることが知られています。そのため近年では一般市民の方もAEDを使用できるように講習などが広く行われ、学校などの公共の施設にはAEDが設置されています。

患者さんの衣類を開き、AEDのケースに入っている電極パッドの1枚を胸の右上に、もう1枚を胸の左下の素肌に直接貼り付けます。電極パッドを貼る間もできるだけ胸骨圧迫(心臓マッサージ)を続けます。

「離れてください。心電図の解析中です」との音声メッセージとともに、AEDが自動的に解析を始めます。解析中に患者さんに触れたり身体を動かしてはいけません。心電図の解析が終わると「電気ショックが必要です」「電気ショックは不要です」などの音声メッセージが流れます。「電気ショックが必要です」と言われた場合は患者さんに周囲の人間が誰も触れていないことを確認し、電気ショックのボタンを押します。電気ショックの後は直ちに胸骨圧迫(心臓マッサージ)を再開します。AEDの指示に従い、約2分おきに心肺蘇生とAEDの手順を繰り返します。また救急隊が到着するまでAEDのパッドは貼ったままにし、電源も切ってはいけません。

「電気ショックは不要です」と音声メッセージが流れた場合でも、患者さんの反応がない場合は、心肺停止状態が継続しているため胸骨圧迫(心臓マッサージ)と人工呼吸を継続しましょう。

心肺停止からの蘇生後に後遺症はある?心停止後症候群とは?

病院で治療を受けて心肺停止状態から蘇生した後には後遺症が残る場合があります。特に問題となるのは脳の障害です。心停止により脳への酸素供給が途絶えると、意識は数秒以内に消失します。3分から5分以上の心停止では、仮に心拍が再開しても脳の細胞が酸素不足でダメージを受けてしまい脳障害(蘇生後脳症:そせいごのうしょう)を生じると言われています。

通常、病院の外で心肺停止になった患者さんの心拍が再開したとしても、約7割がこの蘇生後脳症で命を落とすといわれています。また、そうならなかった場合でも脳に障害が残り、寝たきりの状態になることも少なくありません。蘇生後脳症では様々な症状がみられます。程度にも個人差が大きく、軽度のものでは認知機能や記憶の障害などが見られ、重度のものになると昏睡状態、手足の麻痺、痙攣(けいれん)などが出現し、ここまで障害されると社会復帰は難しくなります。

また蘇生後脳症に引き続いて、高血糖や高体温、けいれん、心機能低下などの極めて重大な症状が出現することが知られており、心停止後症候群と呼ばれています。心停止後症候群では80%もの人が死亡したり植物状態になるとされており、心肺停止から蘇生した後も油断はできません。

心肺停止や心肺蘇生、死亡などについてご紹介しました。疑問が解決されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?「病院に行くまでもない」と考えるような、ささいなことでも結構ですので、活用してください。

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